第3話 孤高のシュナちゃん
「満。学校はどうだ。友達はできたか?」
「父さん、まだ二日目」
「うん。そうだな。そうかそうか」
父さんは「じゃ」と軽く手を上げて家を出てった。
母さんが、「お父さん、ずっと心配してるのよ」とキッチンから顔を覗かせる。
「満は外部生だから、馴染めないんじゃないかって……」
「大丈夫だよ、学年の半分は外部生らしいし」
「そう?」
「それに……友達になれそうな奴もいたし」
母さんの表情がぱっと明るくなった。
「じゃ、いってきまーす」
「いってらっしゃい!」
「ワン!」
柴犬のペロを撫でて、朝日に目を細めた。
父さんも母さんも、それなりに不安だったんだな。初日からズボンにコーヒーをこぼして帰ったら、いらぬ心配をかけるところだった。ミアにはそこだけ感謝だ。
……さっさと俺も力をつけないと。
丸腰でまたあんな獣と戦えなんて、命がいくつあっても足りないぞ。
*
「カザミ殿! おはよう!」
「おはよ~」
昨日の大冒険で、謎の連帯感が生まれた俺とタクオ。教室で話すのは今日が初めてというのも、妙な感覚だ。
「せっかくだし、メアド交換しようぜ」
「そうでござるな!」
「俺は高校からなんだけど、タクオは?」
「拙者も外部生でござるよ! 前は東中学校で」
「へー、俺は潮原中!」
新学期が始まったばかり、ぎこちない雰囲気の教室の中で、早速仲良さげな俺とタクオは、それなりに目立った。周りのヒソヒソ声が聞こえてくる。
「え、コーヒー野郎ってオタクと仲良いんだ」
「てかオタクの名前タクオらしいよ」
「まんまじゃん!」
「間違って呼んじゃいそう」
コーヒー臭の発生源が俺だってバレてるし、変なあだ名ついてるし。別にどう言われようが構わないが、臭かったのは本当に申し訳ない。
ある女子生徒が教室に現れると、コソコソ話は別の話題になった。
「あ、木蓮さん来たよ」
「今日もめっちゃ真顔……」
「内部生なんだって。高校から射撃部に入ったらしいよ」
「射撃とかかっこいい~」
女子だけでなく、男子も視線を送る。
「おいお前、守名ちゃんのこと気になってんだろ? 話しかけてみろって」
「無理無理、撃たれたらどうすんの」
「確かにお前はブサイクすぎるもんな」
木蓮 守名、という名前らしい。音楽室のカーテンみたいな、濃い赤色の髪が目立つので、俺も席は離れているが自然と目で追っていた。
放課後、学園のコンビニでタクオと一緒に肉まんを食らう。
「今日、どうするでござるか?」
「どうしようかねぇ」
話はもちろん、部活に行くかどうか。
部活登録は『読書部』で提出してしまったし、ミアの様子からして入部も認められただろう。俺たちはすでに立派な部活の一員だ。
「カザミ殿が冒険に行くなら、お供するでござるよ?」
「いやいや俺こそ、タクオの力がないとエネルギー見つけられないし」
「では、二人でチームを組みましょうぞ!」
チーム、なんだかいいな。
今んとこ俺が足引っ張ってるけど、冒険に行かなきゃ開花もしないしな。
冒険自体は嫌じゃない。俺は、”爆裂先生を異世界から呼び戻して、グレイトハンターの連載を再開させる”という使命を背負ってもいるんだ。さっさとミアを元の世界に帰すため、頑張らないといけない。
部活棟へ行き、”読書中”のプレートがかかった扉に手をかける。このプレート、常にかけてるんじゃなかろうか。
「お疲れ様で……え!?」
俺が思わず固まったのは、建付けの悪い引き戸に手こずったからではない。
「あら、ちょうどよかった。カザミ、タクオ」
「ミア、その人……」
「この子、1年7組ですって。あなたたちのクラスメイトじゃない?」
その女子生徒は、肩につく長さの赤髪を揺らして振り返った。
「木蓮さん!?」
「あ……えっと、コーヒーの人?」
そして俺は、ただ名前を知らないだけよりも、最悪の覚えられ方をしていた。
*
「ふむふむ、なるほど。射撃部が入部早々廃部になってしまったとは。災難でしたなぁ」
タクオが頷く。
「それで、射撃部以外はどれもピンとこないから、もう何でもいいやと読書部を選んだと」
「あ、いや、決して読書を馬鹿にしているわけでは……」
「お気になさらず! 読書なんかまったくやる気のない男が、ここに一人おりますゆえ!」
おうおう、なんだよ。
全員の視線が一気に俺に集まった。
孤高で不思議な美少女、木蓮さんが読書部に来たのは、おおむねタクオの言った通りだ。射撃はなんと小学生の頃からやっており、大会でも上位入賞するほどの実力者で、高校でもぜひ射撃を続けたいと思った中での廃部だった。クールな表情には変わりないが、今の彼女はどこか元気がない。
「練習は家でもできるから、すごく困るってことはないんだけど」
「そうなんだ。すごい家だな」
「家族全員、スポーツ射撃をやってるの」
おお、まさにサラブレッド。
俺にはやりたいことなんて無かったが、こうして目的を持ってこの学園に来た生徒もいるんだ。それで急な廃部はいたたまれないだろう。
タクオと一緒にしんみりと話を聞いて、ぱっと目を開けると、そこには異世界が広がっていた。
「はあぁぁ!?」
「相変わらず急すぎますぞミア殿~!?」
《事情は何でもいいんだけど、とにかくクエストができなきゃ、読書部の入部は認めないわ》
木蓮さんは「え? ここは? なんか声が……」と当然の反応だ。
《あなたたちの冒険は《クエスト》。エネルギーには《アーティファクト》という名前がついているの。今日からはそう呼ぶわよ》
「お、おう」
《今回は、昨日みたいに正確な場所は分からないわ。二年のクロエが大体の目途はつけたけど、細かいところはタクオの力で探索してちょうだい》
二年のクロエ?
そうか、当たり前だが他にも部員がいるんだよな。
クロエ先輩とやらの情報によると、この先の渓谷付近でアーティファクトの反応があったらしい。
《どう、シュナ。できる?》
ミアの奴、まだ彼女には何にも説明してないのに……。
俺に対しても大概だったが、あれでも親切な方だったんだな。
「木蓮さん無理しないで。俺たちは二回目だし、やることは分かってるからさ。上手くいくかは置いといて」
「そうでござる、ここで待っていてくだされ。無事に戻ってくるとは限らぬが」
木蓮さんは、「よく分からないけど私もついていく」と即答した。




