第2話 犬じゃないんだぞ!?
ドキドキワクワクの学園生活。
宇宙人、未来人、超能力者、そんなもんはいない。
でも魔法少女はいた。
「ミア先輩、ものすごい土砂降りです」
《さっきと同じ場所よ。あなたと話したのは二十分くらいだったから、異世界ではその”百倍”の二千分、つまり三十三時間くらいたっているわ》
「時間の流れが違うんですね」
《さ、エネルギーを拾ってきなさい》
簡単に言うなぁ……犬じゃないんだぞ。
さっきの青空とは一転、重たい雲が立ち込め激しい雨が降っている。
せっかく綺麗になった制服も、こりゃ洗濯確定だな。うつむいてため息を吐くと、シューズではなく革のブーツを履いていることに気が付いた。てか、上着もズボンもそうだ。制服じゃない。
《風車が見える? ひとまずそこまで歩くのよ》
「ういっす……」
いつの間に着替えたかとか、なぜ時間の流れが違うのに会話ができているかとか……もう些細な問題だ。制服が無事ならそれでいいかと切り替えられるくらいには、俺もこの状況を受け入れつつある。
雨粒に顔をしかめながら、一歩踏み出した。
異世界、ねぇ。
月が二つあるとか、デスゲームさせられるとか、そんなんだろうか。後者なら俺は詰んでいる。
風車は見えるのに、歩けど歩けどたどり着けない。さっきみたいに晴れてればいい散歩になっただろうが、この豪雨じゃただの苦行だ。ようやく着いた頃には、靴下もパンツもびっちょびちょだった。
「ふう、付きました」
《じゃあ、近くに銅像はある?》
「銅像、銅像……ちょっと探してみます」
さっきからやり取りしている感じ、ミア先輩には景色は見えず、通じるのは声だけっぽいな。
「はーあ……リアルな夢なんかなぁ、これ」
《私も初めて転移して、テレビや自動車を見た時はそう思ったわ》
「この世界にはないんですか」
《ジオメトリア王国。私がいた頃は風車すらなかったわ》
へえ、ジオメトリア王国という場所なのか。いよいよ異世界らしくなってきた。
「ここがミア先輩の故郷ですか?」
《どうでしょうね。もしそうだとしても、千年も経てば分からないかも》
そうか。俺たちの世界に来て十年ってことは、こっちでは百倍の千年が経過しているということだ。
となると、お父さんやお母さんは当然……。
「ううっ、ミア先輩……俺、エネルギー集め頑張って、いつかきっとミア先輩を故郷に送りますから……」
《銅像あった?》
「ひぐっ、見つかりません……」
《巻きでお願いね》
なんだよもう、俺だってさっさと終わらせて戻りたいけどさ。
銅像、銅像。
お、なんかそれらしい影がある! 雨で視界が悪いので、ぼんやりとしか見えないが。
近づいてみるとモゾモゾと動き出した。まずい、人間だ。
「ミア先輩、ひ、人が! 第一村人発見!」
《落ち着きなさい。今どきの子にそれは伝わらないでしょう》
「言葉通じますかね!?」
《ああ、もしかして──》
もしかして、何だ。
目の前の何者かは、ふごふご荒い息を上げながら「むむっ!? 何奴!?」と振り返る。
男は黒色の天然パーマで眼鏡をかけ、丸っこい体型に民族衣装(?)を身にまとった出で立ちは、まるでRPGの悪徳商人のようだ。
「はっ……ここは!? まるで意味がわからんでござるぞ!?」
「ミア先輩、オタクっぽいのがいます」
「いきなりオタク呼び! 拙者オタクではござらんので!」
オタクだ。間違いない。
《やっぱり。彼も入部希望者よ》
「え!?」
《あなたを転送した直後に部室に来たの》
てことはこいつも一年か!
……なんか、クラスでこんな奴を見た気がする。
「なあ、もしかして俺の斜め前に座ってた?」
「ややっ、同じクラスでござったか?」
「コーヒー臭くなかった?」
「ああ! 今日の教室は、珈琲の芳香が漂っておりましたな!」
やっぱり!
「俺、1年7組の風見 満!」
「拙者、寿司川 卓夫と申す者!」
雨の中、俺たちはがっちりと握手をして抱き合った。こんな場所でこんな状況じゃ、相手が誰だろうと安心感が半端ない。
《無事に合流できたようね》
「はっ、ミア殿の声が脳内に……!?」
「不思議だよな。よし、一緒に銅像を探そうぜ、タクオ!」
俺の方がちょっとだけ先輩だからな。まあ着いてこい。
「タクオは、なんで読書部に来たんだ?」
「いやぁ、拙者こう見えて二次元文化を愛好しておりまして! 漫画研究会でもよかったでござるが、拙者は漫画やラノベを”新たな文学”と捉えており。いやはや、最近は硬派なSFや社会問題を織り交ぜた作品も多く、隅々まで読み解くためにも読書部はピッタリかと──」
タクオは早口でまくし立てた。
絶対、漫画研究会のほうがよかったと思うが……。この部活、本を読んですらいないからな。
「ところで、エネルギーとやらはこちらの方向にある気がしますぞ」
「気がする、って?」
「何でしょうな、直感のような……」
ぶつぶつ言いながら歩くタクオについていくと。
銅像だ! あっさりと見つかった。
「ミア殿、ハンプティ・ダンプティのような銅像が!」
《それで合ってるわ。タクオはもう”開花”したようね》
「開花?」
《誰もが何かしら、異世界では特殊な力を発揮するわ》
なんだなんだ、ただの当てずっぽうじゃないのか?
《エネルギーを見つけ出す《収集士》。それがタクオの能力よ》
「なんと! 拙者にそのようなパワーが!」
「ミア先輩、俺は?」
《カザミはまだ分からないわね》
俺はただの一般人?
なんで俺よりもタクオが早いんだ!?
《力は私が与えるものじゃないの。”その時”がくれば自然と宿るものよ。それがどんな能力になるかは、私にも予測できな──》
途中、グルルルと獣のうなり声がし、ミア先輩の声から意識がそれた。
俺とタクオは目を見合わせる。今、聞こえたよね? って表情で。
「タクオ、お腹空いてんのか……?」
「はは……さっきおやつを食べたばかりでござるよ~」
「か、雷かなぁ?」
「そうでござろう、きっと、はは」
「ヴヴヴヴァアアアッ!」
そんなわけあるかと、草むらから一匹の獣が飛び出してきた
「うわぁああ!?」
《どうしたの》
「オオカミ! イノシシ! バッファロー!」
《魔物……ここにも出るのね。エネルギーは銅像の近くにあるはず、急いで探すのよ》
それどころじゃないだろ!?
「おいタクオ、お前の力でどうにか!」
「探すだけでござるよ、戦いなんて拙者は……!」
まずい、獣に追われながら二人でぎゃあぎゃあ言い合っても、何も解決しない!
俺がやるしかないのか。
その時! 今がまさにその時だろ!?
宿れよ俺の力!
「カザミ殿! 主人公だったら大体、剣士になるはずでござる!」
「そんな理由で決まるか!?」
「適当に木の枝とか振ってみるでござる~!」
くそっ、やるしかない。
走りながら拾ったいい感じの棒を構え、迫りくる獣と対峙する。
「てやっ」
木の棒は獣の胴にクリーンヒットしたあと、ぺきょ、と割れて地面に落ちた。
「グルル! ヴワウゥッ!」
ブチ切れた獣は、よだれをまき散らしながら目をギラつかせる。
「クソがぁあああ!」
「ぬぉぉぉ逃げるでござるーー!」
《エネルギーを回収して!》
ああもう、分かったよ!
雨音と獣の咆哮、タクオの絶叫にミア先輩の声。全部混ざってめちゃくちゃだ。
「あった、これでござろう!」
タクオはすっころんで泥だらけになりながら、銅像のたもとで光る石を拾い上げた。
「あった! あったぞミア先輩!」
「宝石のようでござる!」
俺たちに追いついた獣が、大きく口を開けて勢いよく飛び掛かる。
《二人とも、ご苦労様》
次の瞬間、色々なうるさい音が一気に静まった。
俺は、両手で頭をかばったまま固まる。恐る恐る目を開けると、隣にはダンゴムシみたいに丸まったタクオと、殺風景な部室が広がる。
あれだけ濡れて不快だった服は制服に戻っており、靴下もパンツも髪の毛もカラリと乾いている。
ミア先輩は、タクオの手から宝石を受け取り水晶の上に持ってきた。俺たちは口をぽかんと開けたまま、その光景を見守る。
淡い光とともに、宝石は水晶に溶けて吸い込まれた。
「私の名前は佐藤 美阿。本当の名前はミア・マーティリアよ。これからよろしくね」
ミア先輩……いや。
こんな先輩いてたまるか!!
「ミアアアアアぁぁ!? なんちゅー目にあわせてくれとんじゃあーー!?」
「カザミ殿落ち着くでござる~!」
タクオに止められながら手足をばたつかせる俺を尻目に、ミアはパイプ椅子に腰を下ろし、「早く故郷に帰りたいわぁ」とわざとらしく水晶を撫でた。
閲覧ありがとうございます。
ノリと勢いだけで書いてます。。




