第13話 春色ラブレター
今日は海辺の洞窟にて、いつもの四人でクエストだ。
「カザミはん、今です!」
「おお! うおおっ!?」
ヤドメの力で俺の鎖を高速化、を試しているが、タイミングが合わない。洞窟に棲むトカゲのような魔物は足が速く、外れた鎖は繰り返し岩に激突し、一発も当たらずじまいだ。
《アーティファクトを無駄にしないでね》
ミアの声がちくりと刺さる。
分かったよ、もう!
「シュナごめん、やっぱり頼む!」
今日は俺とヤドメで魔物を仕留める! と決めていたが、これじゃあ日が暮れそうだ。
蒼星砲の射撃音が洞窟に響き、いつも通り飛んでいったシュナを急いでキャッチする。外と違って狭い洞窟内では、できるだけシュナには撃たせたくなかったが……って。
一撃はトカゲの本体ではなく、尻尾に当たったみたいだ。尻尾を切り離したトカゲは、何してくれとんじゃい、って顔で俺たちを睨みつける。
シュナが、外した!?
「ごめん、もう一回……!」
再度銃を構え、今度はしっかりと頭を狙った。
アーティファクトを回収し、俺たちは冷や汗をぬぐう。
シュナが外すなんて、珍しいこともあるもんだ。どこか具合が悪いのかと聞くと、シュナは「えっと」とか「その」と言葉を濁しながら、話しにくそうにしている。
やばい……俺、デリカシーなかったか!?
女の子相手にまずいことを聞いてしまった。
ヤドメが慌ててフォローに入る。
「そ、そういう日もあるやんな! 今日は早う戻ってゆっくり休もうな?」
顔を上げたシュナは、小鳥のさえずりくらいの音量で、「実はラブレターをもらって……」と答えた。
「へ?」
「ラブレター?」
なんだそっちか、よかった~……。
じゃなくて。
いかんいかん、シュナに彼氏なんかできたらクエストはどうなる!?
じゃなくて!
「わわ、わわわぁ」
「カザミ殿落ち着くでござる……!」
シュナはぽつりぽつりと、ラブレターの内容を語った。
単刀直入に、シュナのことが好きだと綴られていた。ただ、自分の口からちゃんと伝えたいということで、今日の放課後とある場所に呼び出された。
しかも手紙には、自分が”女子”であること、中等部の頃からずっとシュナが気になっていたとも書いてあったようだ。
「相手に心当たりはないのか?」
「全然……。それに、ラブレターなんて初めてで」
「そ、そうか」
初めてな上に、相手が女の子。
傷つけない断り方をずっと考えていたらしい。
「つっても、断られたらどっちにしろ悲しいだろうしなぁ」
「……」
「あ、いや、シュナはまったくもって悪くないんだけど。目の前で悲しまれたら、自分が悪いことしたみたいになるし、大変だよな……俺は経験ないけど……」
いかん。俺の手に余る問題だ。
ヤドメ、同じ女子として何かアドバイスを!
「うちもお見合いはあったけど、お断りは仲人さんがしてくれはるからなぁ」
仲人!?
あれか、着物着てお見合い写真撮って、料亭とかでやるやつか?
だめだスケールが違いすぎる。
告白もラブレターも経験がないらしい。ヤドメ相手には恐れ多くて、そんなことできる奴はいないか。
「じゃあ、タクオは……いや何でもない」
「拙者は一日に三人の女子から告白されたことがありますぞ!」
「どうせゲームじゃん」
「最近のゲームはリアリティが──」
ここにいる全員、話にならん!
これじゃあシュナを救えない。
仕方ない、困った時は先輩を頼ってみるか。
ということでクエスト後、部室でくつろいでいる部員たちに知恵をたまわることにした。
まずはミア。一応こいつは、十年もこの学園にいる「プロの女子生徒」だからな。
「告白されたことはあるわよ」
「おー! どうしてるんだ?」
「相手の記憶を操作して、私への好意を抹消するわ」
「聞いた俺が間違ってた」
次は……一応聞いとくか。レイジ先輩。
「えー、告白? 確かに俺は、なぜか男からモテるけど」
「なぜかってこともないと思いますよ」
「普通にキモいっつって断るし」
人の心とかないんですか?
「だって……俺のことが好きなら、俺が”俺よりも可愛い女の子”が好きだってことも知ってるはずだし? その上で告白するんだろ? 俺の気持ち一切無視じゃん、同情の余地ナシ」
なるほどなぁ……?
とはいえ、レイジ先輩の性格にやや難があることは確かだ。あまり参考にしないほうがいい。
「レイジ君、それ初耳なんだけど!? 詳しく聞かせて!?」
誰だ、この人。
「二年の山口 安未果! ヤンミカって呼んでー!」
「や、ヤンミカ先輩。一年のカザミです」
「異世界で着たい衣装があったら、《画術師》の私がちゃちゃっと作ってあげるよん」
ずっと机で絵を描いてる人がいるとは思っていたが。ちゃんと部員だった。
「ところでカザミ君、机に肘をついてピースしてくれない?」
「こうですか?」
「そのままストップ!」
なんだ急に……。
ヤンミカ先輩はサラサラと鉛筆を動かし始めた。俺はそのポーズのまま、向かいに座るガトウ先輩に尋ねる。
「先輩はどう思います?」
「……」
ムスッとして、こちらを睨む。
くだらないこと聞いて呆れられたかな。ガトウ先輩はため息の後、ぽつりと言った。
「……付き合ってみれば、いいと思う」
話が飛躍しすぎだ。
「シュナは女の子、相手も女の子なんですよ?」
「……付き合ってみるのも、アリだと思う」
「もしラブレターに嘘が書いてあって、男が来たら?」
「唾でも吐いとけ」
もうおしまいだ、この部活。
びっくりするほど何も解決しなかった。そうこうしていると、呼び出された時間になってしまった。
「大丈夫かな……」
「こちらまで緊張するでござるな……」
集合場所は、南館にある犬の銅像前。
ここは有名な告白スポットらしい。
「それにしても、シュナちゃんモテそうやのに、告白は初めてやなんてねぇ」
「確かに。意外だよな」
ひそひそと声を潜め、遠くの茂みから見守る。
これで男が来たら危ないしな、ってことで待っていると、間もなく現れたのは中等部の制服を着た女の子だった。赤いリボンだから三年生、俺たちの一個下ってことだな。
しかも──
「わぁ~、外国人? ハーフの子かなぁ?」
「背、高っ」
ヤドメの言う通り、どこか外国人っぽい顔立ちだ。金色のショートヘアはカールがかっていて、青い目がシュナを見下ろしていた。
シュナも驚いた様子で、ぽかんと立ち尽くす。
「お、驚きですな……」
「ああ……」
ラブレターの名前は苗字だけで、日本人名だったし。あんな見た目だとは想像もしなかったろう。
シュナと相手の子は、一言二言やりとりをする。
俺たちの緊張をよそに、相手はあっさりと帰っていった。去り際の表情は笑顔だったが切なそうで、しょうがないとは言え、やっぱり少し可哀想だなと思ったりもした。
「シュナ、大丈夫だったか?」
「うん。……今は勉強と部活が忙しいから、って言った」
「そっかそっか……でも、びっくりしたな」
シュナは「ロシアと日本のハーフの子みたい」と続ける。
「Russia!?」
「う、うん」
「何者だよ……」
シュナもこの学園の中等部出身だが、あんな子は見たこともなかったらしい。
転校生かもな~なんて話しながら、四人で夕暮れの校庭を歩く。シュナの初めてのラブレターは、驚きと不安と、ちょっぴりほろ苦い思い出となって、すんなり幕を閉じたのだった。




