第14話 おとしもの探索部
「今年の夏も、三十度超えるかもしれないんだってさ」
「ひょえ~。地球温暖化でござるな」
体育でマラソンをさせられ、汗だくの俺たちは、雨にでも降られたんかって格好で更衣室へ向かう。
女子は室内でバドミントンだ。体育は男女別だからって、不公平だまったく。
「あれ、あれ……拙者のタオルが」
タクオはカバンをごそごそとまさぐる。
「ない! ど、どこかに落としたか!?」
「忘れたんじゃね?」
「ありえませんぞ! 今朝、確かにカバンに入れたはずが……!」
半裸のまま、汗をまき散らしながらうろたえる。とりあえず俺のタオルを貸すから汗を拭け。
「かたじけない……」
「どんなタオル?」
「里崎智也のマフラータオルでござる! あれは、拙者が初めてマリンスタジアムに連れて行ってもらった時……父上が買ってくれた、思い出の品なんでござる……」
タクオはこぶしを握り、くっと奥歯を噛みしめた。
それなら”また買えばいいじゃん”とは言えないな……。どうやら、今日は放課後に家族で野球を見に行く予定だったらしく、絶対に持ってきたはず、とのこと。
「タオル失くしてもうたん?」
昼休み、シュナとヤドメにも捜索を頼んだ。
「ろって? て何やろか?」
「千葉ロッテマリーンズをご存じない!?」
「テレビの人? うち、テレビあんまり見ぃひんのよ」
ヤドメがのほほんと笑った。スポーツとか興味なさそうだなぁ。
シュナが「そういえば」と呟く。
「この学園、”おとしもの探索部”っていうのがあるよ」
「なんじゃそら?」
「私も中等部の頃、落としたストラップを探してもらったの」
「へ~、そんな部活が」
なんか、探偵みたいだな。面白そう。
「行ってみないか? タクオ」
「そうですな、これは力を借りるしか!」
今日はクエストは休みだ!
放課後、俺とタクオは「おとしもの探索部」の部室のドアを叩いた。
「どうも。私、1年6組の探島です」
部室の棚にはところ狭しと、拾われたであろう落とし物が置かれていた。数人の部員が、「行ってきまーす」と言いながら俺たちとすれ違う。
探島に案内され、椅子に座ると、中等部の子がコーヒーを持ってきてくれた。ただタオル探しを頼むだけなんだけどな……。
「ふむ、落としたのはタオルですか。そんなに大きな物、我々の手にかかれば一瞬でしょう」
「だってよ、タクオ!」
「頼もしいでござる……!」
タクオは落とし物の特徴を語る。
うんうんと頷きながらメモしていた探島は、タクオが「ロッテのロゴが」と言ったとたん怪訝な顔をした。そして、まさかの返事をつきつけた。
「すみません。今回はお力になれません」
「えっ、何でだよ?」
探島は、ハァ、と一息ついて首を振る。
「我が部のスローガンは、『困っている人を助けましょう、ただしロッテファンは除く』でして」
「なんでそんなピンポイントで!?」
「さあ……創設者がライオンズファンだったんじゃないですか?」
「別によくね?」
急展開だ。
そこをなんとか! 頼む……!
「まぁ……里崎ならいいでしょう。特別に探してあげますよ」
「本当でござるか!」
何が刺さったのかは分からんが、探島はペンを置いて立ち上がった。
で、どうやって探すのか。
「探索中」の腕章をつけた探島に付いていくこと数分。部活棟の裏に、フェンスに囲まれた芝生が見えた。
「ラインハルト~」
探島が声を張ると、小屋から出たドーベルマンが猛ダッシュしてくる。
犬!?
まさかと思ったが、そのまさかだった。
「ハッ、ハッ……!」
「では、寿司川さんのニオイを嗅がせてみましょう」
本格的だ!
タクオはブレザーを脱ぎ、ラインハルトの鼻の前にもっていく。
「フスフス……エンッ」
「大丈夫かよ」
ラインハルトは何度かむせた後、尻尾を振りながら駆けだした。
探島は校舎のあいだをずんずんと進んでいく。おとしもの探索部には中等部からいるらしく、隅々まで歩き回った学園の校舎は、目をつぶっていても目的地に行けると得意げだ。
「なんだこのドーム?」
「これは園芸部の温室です」
「すげー! なんか飛んでる?」
「昆虫愛好会の蝶ですね。人に慣れているので、頭や指にとまってくれますよ」
そういや、こうしてちゃんと校内を見て回るのは初めてだ。俺たちは、探し物という目的も忘れてあちこち歩き回る。
「探島殿! 人が空を飛んでおりますぞ!?」
「パラグライダー部ですよ」
「部ってことはあれ、生徒か!?」
「今日は天気がいいですから、気持ち良いでしょうね~」
パラシュートにつり下がった生徒が、校舎の上を悠々と飛んで行った。俺には絶対無理だ、恐ろしすぎる。
「天気いいけど暑いなー。お、あそこでジュース売ってる」
「あのようなキッチンカーも、生徒が許可を取ってやっているらしいですぞ」
「へー。ナタデココサイダーだって」
「ナタデココ、今流行っておりますからなぁ~」
探島が「あなたたち……」と目を細めた。
「ん? ラインハルト、そっちは女子寮だよ」
「ワウッ!」
「よし、行くか」
「行くでござる」
そうだ、俺たちはタオルを探しているんだ。
ラインハルトが言うなら行くしかない。
「すみませーん! おとしもの探索部です」
ガラス扉を押して入っていった探島を、外から見守る。分かってたよ中には入れないってことくらい。
探島は寮母さんらしき人とやり取りする。少し待つと、カゴを抱えて戻ってきた寮母さんが、洗濯物の山の中から一枚のタオルを取り出した。
「はっ! あれは拙者の……!」
「ほんとか!」
探島はペコリと一礼し、タオルを手に戻ってきた。
「どういうわけか分かりませんが、寮生の洗濯物の中に混ざっていたようです。この寮は部活生専用ですから、運動部の練習場に落ちていたのかもしれませんね」
「女子の……」
「洗濯物の中に……」
タクオは涙を流しながら、タオルを強く握りしめる。
「探島殿、恩に着るでござるっ……! このタオル、一生大事にするでござる……!」
「いえ。では、私はこれにて」
ラインハルトと一緒に、颯爽と去っていった探島。やや軽蔑の目をしていたのに気づいたのは、きっと俺だけだろう。今度何かお礼をしなくちゃな。
タクオはタオルを胸に抱き、嬉し涙と一緒に野球観戦に行った。二度と洗わないで済むように、カバンから出すことはなかったそうだ。




