第11話 漫研のお友達
次の授業は数学。教室は西B棟の一階だ。
「なぁなぁ、カザミはんが鎖を振り回して、うちが速うしたら、竹とんぼみたいに飛んでいけるんとちゃう?」
「絶対やらないからな!」
「ふふ。おもろそうやん」
「鎖が回転ノコギリ状態になり、そのまま魔物に突撃すれば、大ダメージでござらんか?」
「俺もただじゃ済まないぞ」
教室の移動中も、けっして大きな声ではないが、俺たちは異世界談義に花を咲かせる。
きっと異様な四人組に見えているだろう。俺が他の生徒だったとしたら、決して近づきたくない組み合わせだ。
「高校の数学も、難しいでござるよぉ……」
「何がしたいのか分からんな」
授業後、肩を落とす俺とタクオの横で、ヤドメは「中学校のやり直しやから、懐かしいわぁ」と余裕の表情だ。
中学だって、俺の一番苦手は数学だった。てっきり、高校からはまったく違う新しい数学を習うもんだと思っていて……。「中学では駄目だったけど高校でなら」などと期待していたが、そんな甘い話はないということだ。
「カザミ」
廊下ですれ違った人物に、俺たち四人は驚いた。
赤のネクタイ、三年生のガトウ先輩だ。
「なんだその顔」
「い、いや……部室以外で会うの初めてなんで」
「俺だってちゃんと生徒だ」
そうなんだけど。
背後にはもっとびっくり、ミアがいる!
当たり前のことながら、彼女もこの学園の三年生。タクオが「改めて見ると驚きですな……」と、ミアを見つめて感慨深く言った。
ガトウ先輩とミアはクラスメイトで、次の授業は俺たちが使っていた教室らしい。
「で、何ですか?」
「別に。見かけたから声をかけただけだ」
「あはは。うぃー」
「次からは無視する」
この人、ノリわかんねぇー……。
面倒見が良いには良いけど、ウザ絡みされるのは嫌なのか。お天気の話でもしろってか。
「そういえば、あなたたちに伝えていなかったかもしれないけど」
ミアが一歩前に出る。
「毎週水曜日は、部活は休みよ」
「そうなのか──いや、そうなんですか、へぇ」
一応人前だ……舐めた一年だと思われたらまずい。
「あと、これあげるわ」
ミアはスカートのポケットをまさぐり、しわくちゃに丸まった紙を取り出した。
「はぁ、ありがとうございます……?」
「いいのよ。それじゃあ」
購買のウインナーパン引換券。
絶対、使わないけどなんとなく取っておいたやつを、思い出して押し付けただけだ。
ということは、水曜日の今日は部室に行っても意味がないということか。
放課後、ヤドメは「今日は家庭教師の日やから」と、黒いピカピカの高級車に乗って帰っていった。
ウインナーパンを三人で分け合いながら、校内を散策する。
「そうだ、拙者の中学時代の友人が”漫研”におりまして」
「へー」
「声をかけてみませぬか?」
それって、クエストを手伝わせるってこと?
「吉田殿はスポーツもできる奴で。きっと素晴らしいアタッカーになりますぞ!」
「それはいてくれたら助かるな」
「では早速」
「で、でも、もう漫研にいるんだろ? 辞めさせるのは可哀想じゃないか?」
「ふふふ……とにかく、会いに行くでござる」
何か策があるのか。
「失礼しまーす……」
漫研の部室は、想像していたよりもゴチャゴチャで、漫画はあるにはあるものの、もっと変な物が散らかっていた。
これはピエロの衣装? スーツやギターや、ハリセン……一緒にあるのが不自然な道具が散乱し、何より、全然オタクっぽくない陽キャ軍団がわいわいと騒いでいる。
もしやこれは……。
「漫才研究会!?」
「いかにも!」
なんだ、俺はてっきり……。
「寿司川君!」
一人の男子生徒が歩み寄ってきた。
「吉田殿! 調子はどうでござるか?」
「いやぁ、毎日大変だよ」
これがタクオの友達、吉田か。こいつはこいつで、言っちゃ悪いが「タクオの友達」って感じの見た目だな。とても人前で漫才できるようには見えない。
「吉田殿は、漫画研究会と間違えて、この漫才研究会に入ってしまったんでござるよ」
「ははは……」
「吉田殿、拙者らの読書部はいかがでござるか? 読書部では今、運動ができる部員を募集中でして」
「読書部なのに……?」
吉田は少し悩んだ後、部屋の隅からイーゼルと画用紙を持ってきた。
「寿司川君、お誘いはありがたいが、僕は漫才を頑張る覚悟を決めたんだ」
「吉田殿……」
「ちょっと見てってよ」
なんだかんだと、吉田の漫才を見る流れになった。
「もー、次こそしっかり頼むで~……って、さっきのオバハンやないかーい!」
「ぎゃははは」
「ぶははは」
爆笑中の俺とタクオ、じっと一点を見つめて動かないシュナ。
「もうええわ! どうもありがとうございました~」
「ひーっ、ウケる~」
「お腹痛いでござる~」
フリップ芸ってやつだ。鉄〇みたいな。
わき腹をおさえながら、くすりともしないシュナに目をやった。こんなに面白いのにおかしいな……ん?
「いや、笑ってる!」
「笑っているのを隠そうとして震えておりますぞ!」
肩をプルプルさせながら、真顔で視線を泳がせていた。
「そんなに笑ってくれて嬉しいよ~」
吉田は人が変わったように、照れくさそうに頭をかく。
「最初は漫画研究会と勘違いしたけど……これなら僕の絵を生かせると思ったんだ!」
「うんうん。吉田殿のギャグ漫画の才能が開花したでござるな」
「応援してくれよな!」
「もちろんですぞ!」
二人は固い握手を交わした。
帰り際に、吉田がこんなことを言った。
「そういえば、読書部の部長さんがよくここに来るよ」
「ミアが?」
「全然笑ってくれないんだけど、なんでか毎回ネタを強要されるんだよね。ちょっと見たら満足して帰るけど」
他の部員も「あー、あの小さい三年生ね」と頷くのを見るに、そこそこ入り浸っているようだ。最近は漫才の指南もしているようで、一部の部員からは「顧問」というあだ名をつけられていた。何やってんだあいつ。
後になって分かったが、水曜に部活を休みにしているのは、ミアが夕方18時枠のアニメと「は〇トび」を観たいかららしい。すっかり現代社会の娯楽に染まった、異世界の魔法少女であった。




