第10話 求ム、前衛
なんやかんやあり、クエストとは一番縁がなさそうな、ほわほわ女子ヤドメが仲間になったところで。
今日はミアに頼んで、四人で拠点にやってきた。
俺たち自身の移動にもアーティファクトを消費するので、クエスト以外で行き来するのは、あまりよろしくはないのだが……これもクエストに向けた「事前準備」ってことで。
「蒼星砲がなくなっていたのは、やはり君の力だったか」
もちろん、修繕師のガトウ先輩も一緒だ。
「はい。どうしても、この大きいライフルが召喚されてしまい……」
「武器種が固定されるとはいえ、授けられる装備は俺たちにも、ミアにもコントロールはできない。今後も蒼星砲で戦うしかないだろう」
このクソデカライフル、蒼星砲っていうイカした名前がついてるみたいだ。
「私の身体では、反動に耐えられず」
「そうか……アタッチメントや、弾丸を変えれば少しは解決するかもしれないが。ちょっと見てみるよ」
ところで、俺の鎖に技名はついてないのか?
「カザミも開花したんだってな」
「そうなんです!」
「いいことを教えてやる。”師”が付く能力は、力の発揮に道具を必要としない」
「ほう?」
どうやら俺の鎖は、拠点にあるものを転送しているのではなく、魔法に近い力で”無”から作り出しているらしい。
だから、武器の名前なんてもんはない。
ちょっとガッカリだ……。
「正確には”道具を触媒にしない”だな。難しい話になる」
「超簡単にまとめると?」
「”士”は、この拠点から装備を転送しないと戦えない。”師”は、本人の身体があればいい。これらの字がつかない能力ももちろんあるが、大体の目安だ」
そうなると、ガトウ先輩の修繕師は?
「俺は手袋やトンカチみたいな道具がなくても、極論、力は発揮できるぞ。手が痛くなるから嫌だけど」
「なるほど~」
身体一つで修理ができるって、すごい能力だな。
不思議なことばかりだ。
あれ……じゃあタクオの収集士は? こいつこそ、転送も何もしないで、直感とやらで力を発揮しているが。
「ミアが収集士だと言ったのか?」
「いかにも。されど、拙者の能力は”師”寄りではござりませぬか?」
「本当の能力は別にあるのかもな」
なんだと!?
「ミアも、異世界にいる俺たちを直接見ているわけじゃないしな。アーティファクトを勘で探しているなら、《結晶師》や《鉱脈導師》あたりが近そうだが……。ま、大事なのは名称よりも何ができるかだろ」
いや、名称は大事だろ!
タクオは「拙者はまだ変身を残している……!」と、調子に乗り始めた。いいな~、俺も実は剣士で勇者で最強戦士ってことないかな。
「うちはなんやろなぁ?」
シュナの背後から、ひょこっと出てきたヤドメ。
ガトウ先輩に向かって「初めましてぇ」と微笑んだ。
「1年7組のヤドメと申します~」
「ああ……鶏山が言ってた子か。君が読書部に入ったと知って、俺に保護を頼んできたが。よく分からんからスルーしたぞ」
あんの風紀委員……。俺がヤドメを取って食うとでも思ってんのか。
「保護やなんて。うち、ここにおるんが一番安心ですわ」
ヤドメは、「カザミはんが守ってくだはりますから」と俺を見た。
「な、何があったでござるか?」
「ちょっと魔物が出て……さ」
「カザミ殿一人で、大丈夫でござったか!?」
「そりゃもう、鎖で固定してあとは放置! 街中だったから、警官みたいなのが来て助かったよ」
「災難でござったなぁ」
俺も、シュナみたいに攻撃できる手段があればなぁ。
ガトウ先輩が、おもむろに口を開いた。
「……そこにある剣、貸してやる」
「本当ですか!」
「怪我には気を付けろよ」
部屋の隅に立てかけられた、埃まみれの剣を手に取った。
「ちなみにコレって……」
「俺のじゃねえよ」
*
拠点は深い森の中にあり、ツリーハウスにも負けないくらい背の高い木が、周囲を覆っている。
魔物は出ない安全地帯、だそうだ。王国のどこにあるかは部員の誰も知らないが、人里離れた陸の孤島であるとは言われている。この拠点に何かあっては大変なので、王国の軍隊は当然のこと、山を出入りする猟師やキノコ狩りをする住民にも、場所を知られないよう配慮しているという。
「ふんっ!」
両手で構えた剣を一振りすると、重さに耐えきれずその場で一回転した。
「無理でござるな」
「厳しい……ように見える」
「あかんかもねぇ」
まだ一回目だというのに、満場一致で「不可」判定を食らってしまった。
絶望的センスの無さ。いや、これが普通の男子高生だろ。小さい頃、剣道とか空手の習い事に連れていかれたけど、どれも周りの子たちがおっかなくて、やる気にならなかったんだよなぁ……。あの時勇気を出していれば少しは違ったかもと、今になって後悔する。
「やはり、カザミ殿の能力である”鎖”を極めた方がいいでござろう」
「そうだな……コレ返してくるわ……」
トボトボと拠点に戻ると、ガトウ先輩は「早かったな」と半笑いだ。ちきしょう。
「よし、気を取り直して」
ようは、この鎖が攻撃技になればいいんだ。
「ムチみたいにしならせるのは、どうでござるかな?」
まずはタクオの提案。手っ取り早そうとはいえ、ムチだって俺は使ったことも使われたこともない。
一本の鎖を振るイメージで動かしてみた。クンッ、と数センチ移動して、空中で止まった。しょぼ……。
「次だ次!」
シュナが控えめに手を上げる。
「巻きつけて、絞め殺すのはどうだろう?」
「おお……エグいな」
でも、それならテクニックもいらなそうだ。魔物を捕まえてそのまま力を込めればいいんだもんな。
適当な木に鎖を巻きつけ、綱引きのように引っ張ってみる。
「ぐぬぬぬ……」
「びくともしないでござるなぁ」
「うぐぐ……」
なんだこれ……。
鎖を作り出すのは上手くいくが、そこから動かしたり力を込めたりしようとすると、全然だめだ。少しはミシミシいってくれたっていいのに、木には鎖の痕すら残らなかった。完敗だ。
「私を助けてくれる時は、自由に動かしているように見えるけど」
シュナの言う通り、飛んでいるものめがけて鎖を出し、包み込むような動作はできるんだよなぁ。何が違うんだ。
「それやったら。鎖をひゅんって投げて、びしって刺すのはどうやろ?」
「言いたいことは分かるけど」
鎖で叩いたり潰したり、ではなく、鎖を一直線に射出して、先端で魔物を貫く。銛で魚をつくイメージと似ているか。
「やってみる!」
「ファイトやカザミはん~」
ていっ、と右手を突き出し、木の幹めがけてジャラジャラと鎖を伸ばしていく。スピード遅っ。そんでもって、先端が木に到達した時点でスンッと手ごたえが消えた。
《ねえ、ちょっと》
ミアの声だ。
遊んでんじゃないワヨー、とか言われるんだろうか。
《誰か分からないけど、アーティファクトがみるみる減っていくわ。ガトウが修理しているの?》
「ああ、それ俺だ。練習してるんだよ」
《ほどほどにね》
そうか、どうやら異世界で俺たちが起こす超常現象には、ほぼほぼアーティファクトが絡んでいるようだ。うーむ……むやみやたらに訓練もできないか。
「そこら辺にしとけ」
いつの間にか、ガトウ先輩がツリーハウスの上から見ていた。
「クエストをこなしていれば、戦いの中で自然と身に付くだろう。”その時”が来れば、嫌でもな」
「か、かっけぇ……」
「かっけぇでござる……」
「ま、俺には戦闘はできないが」
不愛想な表情は相変わらずだが、結構面倒見がいい先輩だ。
「カザミはん、もう一回やってみぃひん?」
もうお開きの空気になったが、ヤドメがそう言ってきた。
「ひゅんって投げて、びしって刺すやつ?」
「そうそう」
いいけど……練習して上達するもんだろうか。
さっきと同じように、木に狙いを定めて右手を前に出した。
するとどうだろう、先ほどとは比べ物にならないスピードで、真っすぐ飛んでいった鎖は木の幹に激突した。穴を開けるほどではないが、ドスッと鈍い音と衝撃が伝わり、指一本分ほど凹ませることができたのだ。
「お……おお! 何をしたでござる!?」
「分からん……!」
ヤドメは「うちのおかげかもぉ」と、ニッコニコだ。
「何で!? 何したんだ?」
「さっきからずっと思てたんやけど、うちが念じたら、速うなったり遅うなったり、できる気がして?」
「どういうこと……?」
まさか、開花!?
ていうか、ヤドメの手にある紙はなんだ? 遊園地のチケットみたいな札を握っている。
「あら、ほんまや。何やろコレ」
それと同時に、ツリーハウスの中から「誰か”呪符”使ったか?」と、ガトウ先輩が顔を覗かせた。
「これですかぁ?」
「なんだ。開花してたのか」
「今初めて使いましたぁ」
「《呪符使い》だな。おめでとう」
俺とタクオ、シュナの三人で、特にピンチでもないのにあっさりと開花した新入りを、驚きの表情で見つめた。
ヤドメが開花したのは《呪符使い》。
呪符というアイテムを使って魔物の動きを遅くする、戦闘支援の能力だった。今みたいに、動きを速めることもできるみたいで……これ、組み合わせたらもっと色んな技が生み出せるんじゃないか!?
やったーやったーと開花を喜ぶ俺たちの声が、森の中に響き渡った。




