特別編:聖域の夜と、勇者の休息
日曜日、午後八時。
佐藤誠は、明日からのプロジェクト本番を控え、アイロンをかけたばかりのシャツを眺めていた。
ふと、彼は一週間を戦い抜いた「聖域」のことが気になり、散歩がてら駅へと向かった。
改札外の、あの古びた公衆トイレ。
日曜日の夜は利用客も少なく、入り口には黄色い立ち入り禁止のテープが、死にゆく者の血管のように張り巡らされていた。
「……本当に、壊されちゃうんだな」
佐藤はテープの外から、薄暗いトイレの中を覗き込んだ。
三番個室の扉が見える。あの中には、自分の溜息も、弱音も、そして仲間たちからもらった勇気も、すべてが染み付いている気がした。
すると、反対側の通路から、一人の女性が歩いてくるのが見えた。
ヒールの音、凛とした背筋。二階堂課長(女王)だった。
「あら、佐藤。あんたも『お別れ会』のつもり?」
「……課長。いえ、その、ただなんとなく気になって」
二階堂は佐藤の隣に立ち、同じように解体を待つトイレを見つめた。
会社での「鬼の課長」の仮面を脱いだ彼女の横顔は、少しだけ寂しそうで、けれどとても穏やかだった。
「……いい? 佐藤。建物がなくなっても、あんたがここで出し切った『弱さ』は、もうあんたを強くする養分に変わってるわ。……明日から、あの一ノ瀬が本気で来るわよ。覚悟しなさい」
「はい。……わかってます」
「じゃあ、明日。いつもの場所で……。もしバリケードで入れなかったら、その時はその時ね」
二階堂はそれだけ言うと、颯爽と夜の街へ消えていった。
佐藤は、暗闇の中で静かに佇む「三番個室」に一礼し、家路についた。
明日、月曜日。
バリケードの向こう側で、彼らを待っているのは絶望か、それとも――。
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