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『毎朝、駅の公衆トイレで愚痴を吐いてたら、隣の個室に社長がいた件〜顔も知らない四人のデトックス・ダイアログ〜』  作者: beens


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特別編:一ノ瀬の計算式と、消えない「音」

土曜日、午前十時。

都内の静かなオフィスビルの一室で、一ノ瀬は一人、MacBookの画面に向き合っていた。

普段の彼なら、土曜日は「最も効率的に自己研鑽を行うためのリソース」として、分刻みのスケジュールで読書やジムに充てているはずだった。

しかし、今日。彼の指は、昨日佐藤から受け取った「現場の声」という名の付箋の束の上で止まっていた。

「……不合理だ」

一ノ瀬は呟いた。

付箋には「トイレの鏡に小さな花が飾ってあるだけで、午後も頑張れる気がする」「あの古い個室の重い扉を閉める瞬間に、自分をリセットできる」といった、数値化不可能な感情が書き殴られていた。

昨日、一番個室で聞いた、あの四人の重なる洗浄音。

それは彼の冷徹なロジックを微かに狂わせ、凍りついていた過去の記憶――「情」を切り捨てたことで自壊したかつての組織――の傷口を、優しく撫でるような響きだった。

一ノ瀬は、作成中だった「最適化プラン」のファイルを書き換えた。

新たな項目の名前は、【余白マージンによる心理的安定性の確保】。

「ノイズが音楽に聞こえる、か。……佐藤君。君の言う通りなら、このプランは私のキャリアで最も『非効率』で『最強』のものになるはずだ」

一ノ瀬は、昨日佐藤に聞いた「一番高いアイス」をコンビニで買い、少しだけ眉間に寄っていたシワを緩めた。

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