沈黙女王の英雄譚
「とにかく、そんな彼女が気に入ってくれたんだ、誇っていいぞ。」
誇っていいと言われても、ぜんぜん実感がないんですがねぇ。
「だが、絶対に怒らすんじゃないぞ。逆鱗に触れたら髪の毛1本すら存在しなくなるぞ。」
なにそれすごい怖い。てか、フォレスティアさんがそんなことするようには見えないんだけど?
「まっさかぁ?」
「まさかなもんか。竜殺しの英雄といわれる原因は、竜が彼女の逆鱗に触れたからなんだぞ。」
逆鱗に触れられると激昂する竜が、フォレスティアさんの逆鱗に触れて討伐されるとかなんの冗談なんだ。
「信じられねぇって顔してやがるな。んじゃ、聞かせてやんよ。沈黙女王の英雄譚を。」
彼女の大切にしていた森に、1匹の竜が降り立つのを近くにいた猟師が見た。竜はすぐに飛び去ったのだが、その手には黄金色に輝く何かが乗っていた。その猟師はあわてて街戻り、街にいた彼女に竜が森に入ったのを伝える。彼女はそのことを聞くと血相を変え、まるで羽が生えたかのごとく飛ぶようにして森に向かっていった。
たまたま街に居合わせたエルフ族の男性が、その話を聞きつけギルドの有志と共に彼女の森へと向かう。森に辿り着いた彼らは彼女の庵へと進む。辺りを探すも彼女の姿はなく、更にそこにあったはずの、彼女が丹精込めて育てていた生命の樹が地面ごとなくなっていたのだ。エルフの男性曰く、竜が樹を持ち去り、彼女は取り返すべく竜の元へと向かったのだと。その森から離れた場所に竜の住むと言われる場所がある。一切の命を拒絶するかのような絶壁の上。雲に隠れ一切見ることのできない不毛の地。その場所に彼女は向かったのだ。
誰もが為す術なく失望のまま戻ってくるものだと思っていた。何人も辿り着いたことがないのだ。だが彼女は帰ってこない。そして数日が過ぎた。絶壁の様子がおかしい。人々が絶壁の方角を見上げると、雷鳴が轟き竜たちが舞い飛んでいた。時折、竜の咆哮が上がり、悲鳴に似た鳴き声も聞こえてくる。彼女は竜の住処に辿り着き戦っていたのだ。その戦いは3日3晩続き、やがて静寂が戻る。
数日経ち、彼女は戻ってきた。精も根も尽き果てた彼女は、街に着くと同時に倒れてしまう。エルフの男性が駆け寄り彼女を支える。彼女は、エルフの男性に袋を渡すと気を失った。気を失った彼女を見ると服は多少草臥れているものの、肌には傷一つ無かった。なんと竜を相手に無傷で勝ったのだ。
彼女の帰還を聞きつけ領主がやってくる。エルフの男性は彼女から預かっていた袋を領主に差し出す。中には数枚の板が入っていた。その板は只の板ではなく竜の鱗だった。竜の鱗に驚く領主。その領主にエルフの男性は言う。
「竜は倒れた。潰しみじんにし絞った。残った鱗は迷惑をかけた侘びに受け取れ。」
そういうとエルフの男性は彼女を抱きかかえ、治療院へと連れて行った。鱗を受け取った領主は、竜殺しの栄誉をたたえ盛大に祭りを開くのだった。祭りの最中、いつのまにか彼女の姿は消えていた。森へと戻り新しい生命の樹を育てるために。
それ以来、竜が大人しくなったのと、誰も彼女の声を聞いたものが無かったため人々は彼女の事を畏怖の念をこめて『沈黙女王』と呼んだのだった。




