↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/16

閑話2 暗殺失敗 サド視点






 裏の仕事をしていると、依頼人の顔は覚えなくなった。





 覚えたって意味がないからだ。




 金を払う者と、仕事をする者。

 関係はそれだけで完結している。




 今回の依頼人は、子爵だった。



 ただ、仲介者から手渡された紙に書いてあった、報酬額を提示された瞬間に分かった。裏に誰か、もっとでかい財布がいる、と。今回はそれが露骨だった。

 子爵程度が出せる端金なんかじゃ、オレは雇えない。





 長い間、仕事をやっていると、嫌でも貴族事情にも詳しくなる。




 この程度だと、侯爵家か、公爵家。


 子爵は、第一王妃派。となると―――






 いや、やめておこう。

 こういう問題は深く考えると、碌なことにならない。





 しかし、こういう面倒な派閥絡みの仕事は裏の人間にとっては、金になる。



 依頼通りに動いて、報酬を受け取る。それで十分。


 オレは、依頼通りに、殺せばいい。











 まるまる太った男が忙しなく成金趣味の部屋を歩き回り、不機嫌そうに爪を噛む。




「絶対に成功させろ。⋯⋯こんな人間以下の下賤なモノと話すなんぞ、汚らわしい⋯⋯」



 (聞こえてんだけどなぁ)



「⋯⋯殿下の婚約者があんな野蛮な血筋の者だなんて許されない。相応しいのは⋯⋯」





 依頼内容は単純だ。



 指定の日時に王城に侵入し、銀髪の子供を始末または誘拐する。



 銀髪といえば、エーデルシュタイン公爵家だ。

 そこまで聞けば、狙う理由はだいたい想像がつく。




 (あまりにも迂闊すぎやしないかねぇ。まぁ、こんな馬鹿だったらリスクも考えないかぁ)




 ターゲットは、セフィリア・ノクテリエ=エーデルシュタイン。



 言葉も分からない赤子から、何を言ってるか分からない老いぼれを殺してきたオレからしたら、簡単なことだ。



 ターゲットは七歳。さすがに本人がなにかしてくるとは思わない。問題は王城の警備だ。


 ギルドの伝手を使って、標的の情報、王城の警備等を少し調べた。








 ターゲットは、流れてきた情報によると、七月半ばから約一ヶ月意識不明、最近目が覚め、それでステータス鑑定をすると、何かは知らないが異常な結果が出たらしい。



 病み上がりなら、より殺りやすい。

 それ以外の情報は特に気に留めなかった。






 / 






 当日。


 王城は広いから守る側は多いが、その分目も分散する。

 侵入するには、それを掻い潜ればいい。



 予定通り、東館の図書室近くで仲間たちがボヤ騒ぎを起こし、騎士共の注意を集める。



 その隙に、戦闘から離脱し依頼を遂行するため、ターゲットを探す。





 索敵魔術を使う手もあるが、魔力をそれなりに使うし、魔力に敏感な人間に気づかれると面倒。

 騎士等戦える人間と遭遇したときのためにも魔力は温存しておきたい。







 王城の東館中心部に来たが、まだ見つからない。







(王城広すぎるんだよなぁ)








 まさか、もう逃げられた、か?



 長い回廊に差し掛かる。


 扉が少し開いている部屋を見つけた。


 礼拝堂だ。




 中に誰かがいるかも知れない。魔力の流れを最小限に抑えて認識阻害魔術を発動し、魔力を極力小さくする。


 開いた隙間から様子を伺う。




 高い天井に細い梁、奥には女神のステンドグラス。昼の光が差し込んでいる。





 そして、整然と並んだ長椅子の端に、子供が座っていた。





 ステンドグラスの光を受けて色とりどりに反射するその髪は。





 白銀色。






 (ターゲットはっけーん)




 一応瞳の色を確認するため、一気に跳躍して女神像の台座に座る。






 情報からは、瞳は花の色に似ているらしい。

 湿原や水辺に生息する、杜若、という花に。報告書に紛らわしい色の例えだけを書いたあいつは、もちろん笑顔で締め上げてやった。命までは狩らないが。



 あいつ曰く、端的に言うと、深い青紫色らしい。

 

 ただ、別の依頼で見に行ったときは、その色だったが、この依頼で見に行ったときは、銀色のグラデーションが入っていたそうだ。



 仕事はできるが、綺麗なモノに目がないあいつは、美的センスどうこうに五月蝿い。



 それでいう、ターゲットは奴の癖に刺さったようだ。















 おっと、今は集中しなきゃだよなぁ。





 虚空を見つめる銀髪の少女の瞳は、奴の言う通り、青紫色に銀色のグラデーションが入っていた。



 間違いない。これが、ターゲット。


 確かに、宝石のような瞳だ。




 ターゲットは、椅子の端に座っていた。足が床に届いていない。それがゆっくり揺れている。





 左耳に、ピアスを付けている。赤い石と、白金色のチェーン。赤い石は魔石か。

 何らかの魔導具の可能性がある。



 妙にこの場所に馴染んでいた。




 武器は見えない。












 殺れる。









 腰に手を伸ばした時、ターゲットはこちらを真っ直ぐと見据えた。










 見つかった、のか?


 しばらく膠着状態が続く。





 しかし、これで何かされても困る。





「へぇ〜。この頃のお貴族サマの子供って、こんなに落ち着いてんのぉ〜?」

 そう言って、認識阻害の魔術を解く。



「こんにちは、侵入者さん。迷子にでもなりましたか?」





 やっぱり見つかっていたのか。





「うん。探し物してたら迷っちゃってさぁ〜」




「探し物は見つかりましたか?」





 ターゲットの目線が少し動く。だけど、身体はこちらに向き続けている。





「あはは〜、それが目の前にあってさぁ」




 これでビビってくれたら、殺りやすいんだけどなぁ。




「でしょうね」




 ―――?




 ターゲットは詠唱を始めた。小さくて聞き取れないが、青色の陣が現れる。魔法陣じゃない。魔術陣、それに水属性。



 




 魔法じゃない以上、何をしてくるかはわからない。




 ナイフを指に挟む。




「抵抗します。みすみす殺されるわけにはいかないので」




 詠唱を終えたときには、ターゲットの手には水の刃が握られていた。





(水⋯?氷じゃなくて?)


 そこまで上達はしてないか。まだ七歳の子供だもんねぇ。




 ―――あれ?

 

 瞳が、空色に⋯⋯?



 気のせいか。





「―――いいねぇ〜。そういうの好きだよぉ。でもねぇ、あんまり得意じゃないんだぁ」





 こんなこと言ったって、油断するわけもないよなぁ。実際、得意じゃないし。



 認識阻害を一瞬だけ発動し、梁の上に移動する。




 気配でターゲットの様子を伺いながら、次の手を考える。






 相手は臨戦態勢。

 こういうタイプは、無闇に攻撃するより、隙を突いた一発の方が確率が高い。




 ナイフを投擲して物量で押す手もあるが、当たらなかったら場所がバレる。






 ターゲットの唇が僅かに動き、足元に紫色の陣が現れる。闇属性。




 ここには、日が当たらない。影がある。広範囲攻撃は不味いな。




 

 動いたほうがいい。




 ナイフを構えて、一気にターゲットめがけて飛び降りる。



 ターゲットは水の刃を横に構える。






 貫通するんじゃないか、という考えはすぐに消え去った。







 ナイフは受けられ、拮抗する。



 魔術には魔力。


 ナイフに魔力を通わせ、押していく。



 ―――いける。



 そう思った時、ナイフは刃を貫通した。


 だが、ナイフの照準がずれ、髪が少し切れただけだった。





 代わりに右腕に軽く冷たい感覚が走る。




 そこが熱くなり、赤い液体が腕を伝う。







 ―――斬られた?



 そう判断するなり、飛び下がる。







 もう一度少女を視認すると、両手に、水の刃を握っている。







 ―――双剣使い、か?






「なんなのぉ?一本だと思ったのにさぁ。しかもよく切れるし」




 呟いたのがやけに反響して、律儀にターゲットも口を開く。




「ブラフです。そういうあなたも、何本も持ってる」






 ―――ブラフ。

 じゃあ、双剣でくるのか。











 ここで、刃に視線を集中したのが、間違いだった。











「そうだよぉ。というかぁ、実戦慣れし過ぎじゃない?」

 ナイフを両手に構え直す。







 左足を前に出そうと、軽く膝を曲げる。









 ―――違和感。




【ブラフです】





 自分の足元に目をやると、影が足首まで覆っていた。





「え」






「ということで、大人しく捕まってください」

 少女が飛び出る。






 刃を受け止めるために、左のナイフを逆手で横に構える。





 右腕は、動かない。自分の想像以上に、深く斬られていたのか、もしくは。





 狙って斬られていたのか。




 影の拘束を解くために、魔力を触手にぶつける。





 瞬間、鳩尾に鈍い衝撃が走る。







 辛うじて視えたのは、空色に反射する瞳の少女(ターゲット)が、透明な長い棒を操っている姿だった。



 






 ―――槍術もいけんのぉ?





 その思考が音になることはなかった。















 暗殺失敗。







 /






  意識は、浅い水の底から浮かび上がるように戻ってきた。





 まず痛み。





 鳩尾と首。





 目を開けて、最初に見えたのは、薄暗い牢屋じゃなかった。







 蜘蛛の巣みたいな天井の梁。

 床の磨き上げられた大理石は色とりどりの影を映している。








 ―――逃げたのか。








 四肢を動かそうとすると、縛られているみたいに、動かない。







 縛られている。





「あれぇ?」


 まだボヤける視界で捉えたのは、宝石のように乱反射する瞳。



 その瞳は、空色に輝いている。




 いや、確かに、最初確認したときは、青紫と銀のグラデーションだったんだけどなぁ。



「⋯⋯まだいたのぉ?」






「はい。騎士が戻るまで、暇なので」





 暇。

 はっきりしてきた視界で相手を長椅子に座る少女を、目を細めて見つめる。







 足は床についていない。








 ―――子供、だよねぇ?








「……君さぁ」




「はい」




「怖くないのぉ?」




「……もう捕まえてますから」






 何もかもが規格外過ぎる七歳児に呆れて、力が抜ける。







「いやぁ⋯⋯普通さ、捕まえてても気絶させた相手のそばで待つ子供いないよぉ」





「そうなんですか?」





「そうだよぉ」






 常識も持ってないときた。まあ、常識的だったら、応戦せずに誰かに知らせる。





 拘束されていない首だけを少女に向ける。





「七歳でしょ?貴族の⋯⋯それもエーデルシュタインの。君んとこさ、みんなそうなの?」






「どうでしょう?」





 警戒心強いなぁ。






「世も末だねぇ」

 第一王子はともかく、公爵令嬢までこんなんって、おかしいでしょ。

 オレは七歳のとき、何してたかなぁ。






 先程の戦闘を思い出す。


 子供だからって、高を括ってて、不注意だったからかぁ。





「さっきの水の刃、二本あったよねぇ」




「はい」

 少女は小さく頷く。




「最初から?」





「いいえ。途中で一本の方から分けました。長さを調整すれば、ある程度誤魔化せますから」




「⋯⋯へぇ」

 隠してた?小さい身体で。オレが見えない位置に。





「影のやつは?」




「罠です」




「いつ仕込んだのぉ?」




「あなた、梁に移動して、私が詠唱し始めた時すぐに動きましたよね」




「うん。何の魔術出してくるかわかんないしね。動いたほうがいいでしょ」





「そうですね、懸命な判断です。私は、あなたが飛び降りるのと同時に詠唱を終わらせました。それで、使うときまで維持していただけです。その証拠に、足元にはまだ紫色の魔術陣があった」





 詠唱の速度を変えた?その上、魔術を発動せずに展開を維持していた?その年で。



 

 というか、オレも大概馬鹿だよなぁ。たった、それだけで。



「なるほどねぇ。見てなかったよぉ。そりゃ捕まるわなぁ」





 最初から油断してたなぁ。




 色のないガラスから見える空は、少しだけ赤くなっている。

 もう、夕方前か。






 仲間は、どうしてるかなぁ。






「君さぁ」




「はい」




「将来どうなるつもり?」





「⋯⋯公爵になります。その情報はあるんじゃないですか」





「―――え、王太子妃の後に、王妃じゃなくて?」






 あの子爵は殿下の婚約者どうたらと言っていた気がしたんだけど。





「解消しますから。私には荷が重いです」





 なんだ、婚約、解消するんじゃん。

 オレ、やったこと意味ないじゃん。





 心の中で、ため息をつく。






「そお?―――まぁ、聞きたかったのはそういうことじゃないんだけど」


 





 微かに聞こえていた鎧の金属の音が、徐々に近くなる。





「やばい。想像以上に数が多かった」



「やっぱり、傍についてたほうがよかったな」



「えぇ、総司令官の娘さんでしょ。どんな感じなんだろ」





「第一騎士団長に再教育の命令を下そう」





 えぇ、ターゲットの父親がくるのぉ?絶対面倒じゃん。


「あーあ」

 きっつい拷問確定。いっそのこと話しちゃお。


「終わりだねぇ」



 いや、始まりでもあるのか?



「セフィリア・ノクテリエ=エーデルシュタイン、だっけぇ?」


「はい。そういう名前です」


 そういう名前⋯?


「じゃあねぇ、公爵令嬢さん」

 もう、すぐ。


「今度は、もう少しまともな場所で会おうねぇ」







 /










 魔力封じの腕輪をつけられ、遮蔽魔術と遮音魔術を使われ、どこかに連れて行かれる。




 気絶させられないだけ、マシだ。








 状況把握がしやすい。







 長い螺旋階段を降りて、しばらく歩いていると、血生臭い匂いがする部屋に差し掛かる。







 そして、何処か狭い場所へと押し込められる。






 魔術が解かれる気配がして、目を開ける。





 予想通り、拷問部屋だった。

 三方を壁で囲まれ、鉄格子が嵌められている。





 あちらこちらに赤黒い飛沫があって、昔の訓練部屋を思い出す。






「さて、暗殺者。取引をするつもりはあるか?」

 薄暗く汚いこの部屋には場違いな銀髪を持つ男が、悠然と微笑む。





「うん。いいよぉ〜」



 オレが拒まなかったことに不信感を抱いたのか、それとも純粋に驚いたのか。軽く目を細める。



「……取引成立だ」





 それから、オレは情報を素直に吐いたことで、痛めつけられることもなく拷問(質問)は終わった。












「さて」

 鉄格子から見える夜空には、三日月が浮かんでいる。





「次会うときは、どうなってるかな」

 親指と人差し指で丸を作り、三日月と重ねて囲む。










「楽しみぃ〜」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。