Episode11 お祖父様は英雄
2026.10.31 変更
前回のスタンピード発生年を変更します。
682→702
学院に預かられて一週間。この生活に慣れてきた。
生活習慣は、普通の生徒と同じにしよう。そう考えていたら、ルーに感心された。
「私だったら、絶対自堕落に生活します」
「そういうわけにはいかないの」
「流石お嬢様ですねぇ」
朝は六時に起きる。その後少し身体を動かす。ランニング程度に。
部屋に帰ってきてルーに手伝ってもらいながら、支度をした後、ルーとはここで別れて早めに食堂で朝食を摂る。
ルーはすぐ馴染むだろう。今頃は寮母さんたちを手伝っている、と思う。多分。
そして、図書棟へ行く。
「あ、おはようリアちゃん。今日は何を勉強するんだい?」
生徒さんたちは昼の間、ほとんどが本棟にいる。つまり、図書棟には誰もいない。
それに本棟の図書室には、学習に必要な主な資料や文献は揃っている。
司書さんたちが寂しく大きい図書棟を管理していたのだ。
「おはようございます、アーサー先生。今日は歴史学の勉強を」
ちなみにアーサー司書は、貴族ではない、つまり平民なのだという。それで差別するわけではないのだが、姓を持たないのは平民。裕福だったり、商人だったりする人は、姓を持っていることもあるらしい。
「そっか。じゃあ、調べ物があったら言ってね」
先生と別れて、図書棟の奥の方へ行く。
そこにはテーブルがあって、窓からは暖かい光が差し込んで、奥の方だけれどちゃんと綺麗で換気もされている。お気に入りの席は、やっぱり窓際の席だ。空が見える。
歴史学の勉強もするが、知りたかったのはスタンピードについて、それに、風属性について。
最近なにかとありすぎて、かなり忘れていたが、世界観的に風属性がないっていうのは、かなり珍しいと思う。
ゲームでは、風属性はあったはず。属性の説明はほとんどなかったし。前世の手がかりはなさそうだ。
スタンピードは、ゲームのシナリオでは、学院二年生の十二月にスタンピードが起こっている。今から大体八年後。
それまでに、スタンピードで父様と母様が亡くならないようにしなければならない。
歴史書の棚で、王国史の本を数冊とる。
「神暦1年、初代国王と、弟の初代エーデルシュタイン公爵を中心に建国。―――――34年にスタンピード発生。死者多数。また、初代エーデルシュタイン公爵は魔力暴走により死亡」
属性については特になし。魔法史の方をあたったら分かるかな。
そして、スタンピードは不定期。突発的に起こり、多大な損失が毎回生まれている。
「702年にスタンピード発生。リュディーカ・ノクテリウス=エーデルシュタインの指揮のもと、死者数十人。史上最小の被害に収まった⋯⋯⋯リュディーカ?リュカお祖父様、だ、よね」
私には、父様の父様。つまり父方の祖父がいる。いるのは当たり前なのだが。お祖父様は、非常に豪傑、というべきか。
二、三年前に会ったことがある。
「後の『英雄』となる?リュカお祖父様が、英雄⋯⋯⋯」
剣を振り回して森を半壊させたあのお祖父様が?
領民と賭けをして盛大に負けるあのお祖父様が?
英雄?
一体何の冗談なのだろうか。
「いや、それは置いておいて、問題は未来のスタンピードが、父様と母様も止めきれないくらい深刻な状況になってることであって。リュカお祖父様って、その時には亡くなってる⋯⋯?いや、前に会った時はめっちゃ元気だったし⋯⋯」
分からないことばかり考えていても意味がない。
取り敢えず席を立って本を棚に戻す。そして、今度は勉強するための本を取る。
何時間か後、生徒たちがお昼に入ったようで、初めて一人の学院生徒に会った。
彼は、抱えていた本を全部落としてしまった。銀髪の子どもがいたら驚くよね。そりゃあ。
「手伝います」
自分が持っている本は魔力で空中に維持して、地面に落ちた本を拾う。
「あ、ありがとう、ございます⋯⋯」
だいたい十数冊。そのほとんどが、歴史に関しての本。当たり前、といえばそうなのだけれど。
まだ放課後ではないし、本棟からとは少し離れた図書棟に来たのはなんでだろう。数日いたけれど、お昼の休憩時間にここに来る人もいない。
気になったから、聞いてみた。
「先生の手伝いをしているんだ⋯です。朝、質問に行ったら、借りてきてほしい本がある、って言われ、まして。なにぶん、先生もお年になってきてるので⋯⋯」
ちぐはぐな口調だが、それはどうでもよくて。
「その先生のお名前は?」
「セルゲイ・シャトーゾフ先生。長年歴史学の教師をしているみたいで⋯」
「なるほど。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ⋯⋯」
拾った本を積み重ねて返す。分厚い本もあれば、薄い本もあるけど、彼の目線よりは低い。
かろうじて躓かない程度に見えると思うし、図書棟の出入り口で見送った。
「彼の名前聞かなかったの、失礼だったかなぁ⋯⋯」
そんなことを考えながら、席に戻って、魔力も解く。
/
生徒たちのお昼休憩が終わったら、本棟のカフェテリアで食べる。やっぱり美味しかった。
帰り道の職員室で、質問するついでに、女性の先生の膝に座らせられ、頭を撫でられ、頬はつつかれ。
愛でられているのは分かるが、果たして楽しいのだろうか。
シャトーゾフ先生は、その時は授業をしに行ったらしい。いなかった。
その後は一旦着替えて、寮棟の訓練場で、剣術の練習だったり、魔術の練習だったりをする。夕食のちょっと前まで。
身体を鈍らせたくない。全ては積み重ね。必ずではないけれど、努力は実を結ぶ。
ゲームのシナリオの私は、第一王子の婚約者であったがために、最低限の剣術しかできなかっただろう。理論的には、ゲームの私よりも、強くなれる。シナリオを、変えられる。
だからこれは、今の家族のため。ルアンが望まない決断をしなければいけない状況を、変えるため。
世界のためなんかじゃない。自分が死んだ後に後味が悪いと、また別の世界に転生しそうだ、と思ったから。
空が赤くなり始めたら部屋でシャワーを浴びた後、早めに食堂へ行く。
部屋に戻って、ルーと合流。
寮棟には、大浴場がある。この寮、旅館か何かかな?と思った。男女で分かれているのも、旅館らしい。
夜遅くに行けば、誰にも会わない。
たまに、ルアンから通信がくることもある。
毎日は迷惑だから、と父様に言われたみたいで、不貞腐れていた。
私の一日は、こんな感じだ。休日は、殆どを図書棟で過ごす。奥の方にいるから、生徒には会わない。
研究棟に行く日もあった。かなりの設備が整っていて、流石と思ったのは言うまでもない。
だから、わずか一週間で噂が出回ってきたなんて知らなかった―――
/----------/ 〜ルー視点〜
「聞いたか?最近、幽霊が出るらしい」
幽霊?
本棟で情報収集をしていたら、そんな言葉が聞こえた。
お嬢様は、幽霊の類いを怖がる。ゾンビなど、アンデット系のものは全く怖くないらしいが。幽霊だけが、怖い。
理由は、実体がないから、斬れないし、魔術も効くか分からないから、だそう。
なんともエーデルシュタイン的な思考回路ですね。
「図書棟で、小さな白い影が音もなく移動するらしいんだ」
ん?
「そういえば、食堂に結構早い先客がいるよな」
んん?
「昼休憩の後の職員室が妙に騒がしいのも?」
んん??
「「「幽霊の仕業!?」」」
いえ、お嬢様ですね。
足音がないのは、公爵様仕込み。魔力制御は、奥様仕込み。
一体何ををしたいのでしょうか。全くわかりません。
「いや多分、銀髪の、七歳くらいの女の子じゃないかな。昨日会ったんだ」
会った?
⋯⋯極力生徒との接触を回避しているあのお嬢様が、会った?違う。偶然遭遇した。
「は?銀髪って、エーデルシュタイン家の系列だろ?見間違いじゃないか?分家筋に銀髪の子どもなんていないだろ」
確かに、分家には銀髪を受け継いでいる子どもはいません。
「いるだろ。本家に」
「まさか⋯⋯⋯エーデルシュタイン公爵令嬢?」
「「いやいやいや、有り得ねぇよ」」
そうでしょうね。入学する年齢に満たない子どもがいるはずないですから。
「以前会ったことないのか?侯爵だろ?お前」
「七歳の誕生日は、急な高熱で倒れたんだ。それ以前に会ったことは⋯⋯ないな」
「弟は茶会にも出てるんだろ?」
「ああ。姉のほうは病弱らしい」
一応、確かに、お嬢様は病弱です。隔世遺伝でしょうか。
「新年の式典でも見かけたことないぞ」
ちなみに、エーデルシュタイン家はすぐ帰ることで有名です。公爵様と奥様も、その後の夜会でもちょっとしてすぐ帰ってきます。
武の一族ですし、貴族との繋がりは必要以上にありません。準王族なのもありますね。だから、大抵のことは王家に掛け合えばなんでもできるのです。
絶対的な忠誠を誓っているからでしょうか。私からしたら、縛られている、とも見えますが。本人たちはこれでいいそうなので、何も言いません。
「じゃあ、今度見にいこう。昼に図書棟な」
「「分かった」」
女子側も聞いてみましょうかねぇ。
/
「ねね。見た?あの子」
「見ましたわ。あの銀髪の子でしょう」
「そう。あの不思議な瞳の子なのよ」
やはりこちらでも噂に。
「可愛いよね」
「そうですわね」「なのよ!」「ですよね!!」
「あれ?いま別の声が」
「気のせいではなくて?」
―――おっと思わず声が。
本当は、この子達の会話に混ざりたくてしょうがないです。
「一週間くらい前なのよ。あの子が来たのは」
「ええ。最初は妖精か何かかと思いましたわ」
妖精ですか⋯⋯⋯。当たらずとも遠からずですねぇ。
「一度でもいいから話してみたいです」
「男子の一人が今日、偶然会ったって情報がきてるのよ」
さすが、女の子たちの情報網。怖いですねぇ⋯⋯。
「先を越される前に会いに行きましょう」
「そうしましょ!」「そうなのよ」
最初に男子を会わせるのはどうかと思ってましたしねぇ。女の子ならいいでしょう。妨害しましょうそうしましょう。
/----------/ 〜セフィリア視点〜
「わー!可愛いぃ〜」
「綺麗⋯⋯」
「さっきは何をしていらっしゃいましたのよ?」
「えっと、薬草学の勉強を⋯⋯」
なぜ今私は女の子たちにかこまれているのだろうか。
「もうそんなことができるのですね⋯⋯うちの妹も見習って欲しいものですわ」
「妹さんがいるのですね」
「アデリーデュっていうのですけれど」
「私たちより大人びてるのよ」
ひたすら撫で続けられる。なぜ。
そして今なぜ本棟の食堂に?視線が痛い⋯⋯。
やっぱり時間をずらさなかったらこうなるのか。
―――今すぐ部屋に戻りたい。落ち着かない⋯⋯。
「やっぱりいたろ?」
「ああ。いたな」
「よかったですね。お嬢様」
ストックがもう無いので、これからはかなり遅くなります。
書けてる分もたまーにあるので。




