↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/16

Episode10 学院という場所は






 学院預かりを知らされた、一週間後。



「行ってきます」


 門の前で、父様と母様、ルアン、それに何故か綺麗に整列している、王都の屋敷の使用人さんに向けて、お辞儀をする。


『いってらっしゃいませ』


 総じて使用人さんが礼をする。


「姉さん!学院での話、聞かせてね!」


 ルアンは母様と手を繋いで、私と目線を合わせるように背伸びしている。

 その様子を見ていると、自然と口元が緩んだ。


「うん。また例の魔導具で連絡するね」


 少しだけ腰を屈めて、ルアンの頭を撫でる。


「むぅー。子ども扱いしないでっ。姉さんがいない間にもっと成長するもん!」


「そう?じゃあ、期待してる」


「うん!」


 ルアンの子供らしい返事を聞いて、目線を外し、今度は父様と母様に向き直る。


「いってらっしゃい。いつでも帰ってきていいのよ」


「セラ、あのなぁ⋯⋯」


 父様が短くため息をつく。


「母様。それでは私が学院に行く意味がありません」


 母様の言葉に少し呆れながらツッコむ。

 我が母ながら、マイペースだ。



「あー、あと、長期休暇にはなるべく戻るようにしてくれたら⋯⋯嬉しいが、」


 父様が紫色の瞳を泳がせる。


 色々教育させるんだろうな。


 教養の師のテリーヌ夫人は学院にあまり行きたくないらしい。お世話になった教師に見せる顔がない、とのこと。




「いや、好きなよ」



「わかりました。長期休暇には、帰ります」


 数秒、父様は瞬いて、首を傾げる。


「そうか?」


「はい」



 領地にも、たまには帰りたい。

 それに、スタンピードの原因を知るためには、まず魔王領に行くのが一番手がかりになりそうだから。


「じゃあ、シキアちゃん。引き続き、この子のことよろしくね」



「はい!お任せください!」


 ルーが、ビシッと、気をつけ、の体勢をとる。


「じゃあ、そろそろ」


「ああ。行ってこい」


「リアちゃん。魔導具の改善点、連絡してね」



 ―――相変わらずだ。



「姉さん。またね」


「はい。⋯⋯⋯行ってきます」


 みんなに背を向けて、用意してある馬車に乗り込む。

 ルーも後から乗って、扉を締めた。



 窓から見ると、家族はにこやかに微笑んでいるが、使用人さんたちは、何故か敬礼している。





 ⋯⋯敬礼?



 軍事を担っているとはいえ、ここの使用人さんは謎が多いな。


 いや、領地の方もあまり変わらない気も⋯⋯。


「お嬢様。こういう時は、手を振るんですよ」


「そう」


 言われた通り、手を振ると、両親も、ルアンも振り返してくれた。

 そして、使用人さんたちは、片膝をついて臣下の礼をする。




 ―――大袈裟だ。




 今生の別れじゃないのだから。




 ルーが御者さんにコンコンと合図を送ると、馬が嘶き、馬車が動き出す。



 窓枠に肘をつき、外を見る。


 ここは貴族の住宅地の割と中心地にあるため、学院からは少し距離がある。

 一時間弱、といったところだろうか。


 馬車で行くよりも、絶対屋根伝いに行ったほうが早いと思う。


 人の家の屋根を歩くのは少々抵抗があった。

 だけど、四、五歳くらいの時、父様に連れられて王城まで一緒に行ったことを思い出すと。


「着地するときの衝撃を小さくして、空中でなんとかして加速すればいい。そうすれば、家の中に響かないだろう?」


 と言われて、納得していた自分がいる。


 そういえば、幼いが故にあまり覚えてはいないのだが、現国王陛下と第一王子殿下は、あまりにも似過ぎている気がする。

 母方の要素とは。


「お嬢様、学院に着いてからの流れ、説明しますね」


「ん、お願い」


「はい!まず学院長に会いに行きます。挨拶してから、学院の施設案内をするそうです。その後は特に何も無いので、自由にしてもらっていいみたいです」


「今後の予定は?」


 また人と会う必要があるなら、把握しておきたい。


「いえ、それが、ほんっとうに」


「本当に?」


「何も無いんです」



 無い?



「え、本当に自由にしていいんだ」


 学院の方からちょっとした授業の教師でも送られてくるのかと思ったけれど。


「はい。基本的には放置みたいですね。何かやりたいことがあれば、学院長に許可を取って自由にやっていいと」


「そう」


 あくまでも、許可が出たら、ね。








 それからは、私が黙って外を眺めているのを見てか、ルーも合わせてくれた。


 ルー・シキア。


 シキア男爵家の第四子、三女。十九歳。今年で二十歳。暗い茶色の髪に、タンポポのような色の瞳。

 一昨年、学院を卒業したらしい。


 彼女は野性味がある気もするけれど、二年は私専属で、その専属も一人だけ。

 よくやってくれていると思う。外見にそぐわず、仕事はちゃんとできる人だ。


「お嬢様、なんか失礼なこと、考えてませんか?」


「いえ、まったく」


「あーっ!なんで今、目を逸らしたんですか?絶対考えてましたよね!考えてなくても思ってましたよね!?いくら瞳が綺麗でも、私には誤魔化せませんよ!!」


「ぜんっぜん思ってないよ」


「もーっ!」


 ルーが子供のようになっているのを見ると、笑ってしまいそうになる。

 こんなどうでもいい軽いやり取りができるのは、彼女の人となりが良いから。

 見るからに無愛想な私でも、明るく接してくれる。


 うちの使用人さんたちも、領民さんたちもそうだ。

 両親、そして父方の祖父母の話をしてくれたり、鍛錬で相手になってくれたりする。


 優しい人ばかりだ。








 そんなこんなで、学院の正門がある道で馬車を降りて、ほんの少し歩く。


 荷物はもう既に寮の部屋に届けたそうなので、私もルーも手ぶらだ。

 心許ない気もする。


 正門に着くと、まず騎士が二人。

 

 騎士が私達を見ると、ルーにアイコンタクトをとる。

 両方頷いて、直ぐに門を開けてくれた。



 門のすぐ近くにある受付で、受付嬢さんにまたもやルーが話をする。

 ルーが手紙らしきものを差し出すと、受付嬢さんは奥の方へ行ってしまった。


 気になったことがあるので、待っている時に聞いてみる。


「ルー、さっきの騎士さん達とは知り合い?」


「はい。学院に通っていると、自然に。私は並立して、エーデルシュタイン家にもお仕えしていましたから。学院と、エーデルシュタイン家の王都のお屋敷、領地の本邸と、飛び回っていましたので。かなり、あの方々にはお世話になりました」


「へぇ」


 そう考えると、ルーは、すごい人だ。


 うちの採用基準も高いし試(・)験(・)は圧迫面接だし、採用されても、そこから地獄の特訓が待っている。

 騎士団や使用人さん達の訓練を見た時は、流石、武門の家だな、と思った。



「エーデルシュタイン公爵令嬢と侍女様。確認ができましたので、学院長室に案内させていただきます」


 言われる通りに、受付嬢さんに案内される。






 

「⋯⋯⋯道に迷ってしまいそう」


 学院は、王都の南区の半分以上を占めている。地方の有名な街一つくらいはありそうだ。

 いや、学院自体が、一つの街、といった方が妥当なのかもしれない。


「それならお嬢様」


 私の斜め後ろには、学院に通っていたルーがいる。

 だったら、迷っても安全―――


「一緒に迷いましょう!」



 

「⋯⋯もしかして覚えてないの?」



「ええ、全く。在学していたときも、時々迷いました。卒業する頃には、ちゃんと迷わないようにはなりましたが、もう必要ないと思っていたので、既に忘れておりますっ!」



 そうだよね。私がこんなに早く学院に行くことになるとは思ってなかっただろうし⋯⋯。


 いや、でもいずれ十四歳くらいには、私も通うことになるよね。

 ⋯⋯うん、これはルーの落ち度だな。



「―――大丈夫。来た道くらいは覚えられるから」


「ありがとうございますぅ!うちのお嬢様はなんて記憶力が良いのでしょう⋯⋯」



 果たして、うちの侍女はここでやっていけるのだろうか。


 心配である。



「着きました。学院長室です」


 受付嬢さんは、プレートが取り付けられた扉をノックし、お連れしました、とだけ告げる。

 扉の奥から、どうぞ、と声が聞こえた。


 ⋯⋯若干疲弊している。


 ルーが受付嬢さんにお礼を述べて見送り、扉を開ける。



 部屋には、応対用のソファに座る学院長がいた。

 学院長もとい、王弟殿下は、明るいブラウンの髪に、エメラルド色の瞳を持っている。


「どうぞ、こちらに掛けて」


「失礼します」


 驚いた。


 王族特有のオーラ、というか覇気がない。

 王弟殿下は、生粋の王族というよりかは、ただの柔和な人だ。


「ギルバート・ヴァレリウス=アウレリオス=グラヴァルトです」


「えっと⋯⋯セフィリア・ノクテリエ=エーデルシュタイン、です」



 不躾にならない程度に観察する。


 魔力も多い。剣術の覚えもかなりあるようだ。

 剣ダコよりもペンダコのほうが酷い。



 取り敢えず、出された紅茶を飲んで一息つく。



「まずは、兄である陛下が勝手に今回の件を決めてしまって申し訳無い」


 本当に申し訳なさそうにして、なんだか萎えに萎えてしまっている。


「いえ。私自身の問題ですし。こちらこそ、突然な特例で学院に預かっていただいて」


「うん。責任持って預かるよ。それが私の仕事だからね。なにより、アルセルクが怖いんだ」



 王弟殿下は父様と同い年で、学院もクラスがずっと一緒だった。


 父様が何をやらかしたのかは知らない。


 最近知ったのだけれど、父様は、現「氷の剣聖」らしい。

 何とも異世界らしい称号だが、その所以だろうか。



「じゃあ、先にこれからの過ごし方とか通達はしてるけど、何か質問はある?」


「生徒の授業の邪魔にならなかったら、何をしてもいいんですよね」


「うん。⋯⋯⋯その言い方はなんだか不安だけど」



 殿下に苦労人の気配がする。


「先生方に質問しにいってもいいですか?」


「うん。いいよ」


 結構あっさりと頷いてくれた。


「ほとんどの教師たちは本棟の職員室にいるし。研究棟の方にもいるかな。あ、職員棟は、教師たちの寮だよ。そっちにはいかないでね」


 ⋯⋯なんだか、子どもを相手にしてる言い方だな。

 まあ、七歳の子どもなんだけれど。


「では、訓練場は使っても?」


「うん。寮の近くの訓練場は、生徒たちが授業してる間は使われないから」


「じゃあ、実験してもいいですか?」


「⋯何の実験をするかは知らないけれど、研究棟に設備はあるし、誰か一人は教師がいるときにしてね」


 確かに変なもの作られちゃ困るな。


「なるほど。図書棟には?」


「行っていいよ。というか、行って欲しいな。司書たちが最近寂しそうなんだ」


 彼は溜め息をつきつつ、紅茶を口に含んだ。



「わかりました。冒険者登録してもいいですか?」


「ぼうけ⋯⋯ごめん、今なんて言った?」


 聞こえなかったのか。


「冒険者登録してもいいですか?」


「⋯⋯⋯」


 もう一度深い溜め息をついて、カップをソーサーに戻す。


「ダメ、ですか?」


 首を傾げて殿下を見上げる。


「うっ⋯…うーん。別に冒険者登録は生徒の邪魔にはならないんだけど⋯⋯でもなぁ」


 顎に手を当てて悶々と考え初めてしまった。


 預かっているのに、命を賭けるような冒険者になるなんて、と切り捨てられる覚悟だったが、考えてくれているだけマシだろう。


 どうせ、無理でしょうけど―――


「いいよ」


「⋯⋯いいんですか?」


「うん。アルセルクのことだし、護身術とか言いながら戦闘訓練でも受けてるんでしょ?」


「護身術⋯…父様から習いましたが」


「じゃあ、大丈夫。Bランク相当はあるだろうし。そもそも、王家(こっち)側が預からせて、って言って、何でもしていいよ、って言っちゃったわけだから」


 何故私がBランク相当だと分かるのかは知らないが、了承はしてくれた⋯⋯ってことかな。


「ありがとうございます。他は特にありません」


「そう?また何か要求があるなら、聞きにおいで」


「はい」


「君も、それでいいかな?」


 殿下はルーにも視線を向けた。そのルーは普段と打って変わって侍女としての完璧な佇まいだ。


「はい。僭越ながら、今日からよろしくお願いします」


「よろしく。―――よし、早速だけど施設案内しようかな」


 学院長自ら。憐憫の情、かな。



 それからは、本棟の教室で生徒たちが授業を受けているのを見たり、職員室へ顔を出したり。図書棟、研究棟、例の訓練場も。


 生徒さんたちからは、疑問の視線。どうしてこんな小さい子が、ってなるだろうな。職員室の先生方からは、納得の視線。学院長から通達が入っていたのかも知れない。それと、女性の先生方から頬をつつかれ、抱きしめられた。それに、司書さんからは、会った瞬間頬ずりされた。何故。

 司書さんは二十代後半の男性。アーサーさんと言って、一見神経質そうだけれど、人が好きらしい。特に子どもが。

 本棟にも図書室はある。そして広大ゆえに、図書棟に来る生徒は少ない。寂しかった、とのことだ。


 殿下が説明してくれたが、一体学院の蔵書量はどうなっているのだろうか。


 寮棟にも食堂、カフェテリア、自由に過ごせる談話室はあるのに、本棟にもカフェテリアはある。



 さすが、王立学院。




/




「学院長先生自らご案内、ありがとうございました」


 一通り終わって、寮棟の玄関口で礼を言う。後は寮母さんがまた案内してくれるそうだ。

 日はもう沈み始めていて、空は黄金色に染まっている。


「いいや?私も書類ばっかりで楽しくな⋯⋯身体が訛ってて。久し振りに生徒たちと先生方の様子も見れたしね。楽しか⋯⋯有意義な時間だったよ。⋯⋯⋯君があのアルセルクの子だし、ちょっと気になったっていうのもあるけど」



 陛下に似てる。纏うオーラは全く違うけれど、やはり性格って遺伝子的に関係ある⋯?


「いやいや、兄上と同じにしないでね?」



 血筋には抗えない?でも第一王子殿下はこういう感じじゃ⋯あったな。

 雰囲気似てるし。タイプは違うけど、根が面白がり、というか。


「聞いてる?⋯もしもーし。聞こえてるー?―――シキア嬢、君の主人は考えてることが口に出るタイプなの?」


「ええ、可愛いでしょう?うちのお嬢様が可愛くってしょうがなくて」


「そうだった⋯⋯エーデルシュタイン家って、こんな感じだったなぁ」


 やっぱり親は子に似るっていうし。


「―――まあまあ。セフィリア嬢、もう暗くなってきたし、早く寮に入りなさい。秋夜の風は冷えるから」





 一陣の風が吹き抜ける。


「そう、でしょうか」


 冷えるというけれど、冷たいとも感じない。


「気をつけてね」



 言い残して、殿下は去っていく。



「じゃあ、お嬢様、入りましょう!」


 背中が見えなくなったときには、ルーの澄ました態度はどこかに消えていた。


「うん」


 幸いにも、生徒はいない。玄関で待っていた寮母さんに案内される。

 別階へは、古代魔術である転移の魔術陣でいけるらしい。でも、前世でいうエレベーターの中でも直通エレベーターだ。古代魔術は未だ実体が明らかになっていないため、応用は危険。少しだけ分かっていることを頼りに設置したよう。


 寮のシステムは、ルーが覚えているから軽い説明で終わった。


「なんでそこだけ?」


「⋯⋯聞かないで下さい」





 その後、ルアンとの約束を思い出し、例の魔導具を準備する。

 準備といっても、大きい水晶を、支える台座に乗せるだけ。魔力を流すと結びついているあちら側の魔導具が反応する。

 電話のように色んな相手と繋げるわけではないが、情報伝達という点ではかなりの発展かもしれない。

 



 初めての通話には、ルアン、それに父様と母様もいた。


 母様のこの魔導具についての話が半分。学院と私についてが半分。




 通話が終わった後も、特に問題なく、今日は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。