Episode8 代替案 セラフィーナ視点
名前を整理します。
セフィリア・ノクテリエ=エーデルシュタイン
セヴィルアン・ノクテリウス=エーデルシュタイン(弟)
アルセルク・ノクテリウス=エーデルシュタイン(父)
セラフィーナ・エーデルシュタイン(母)
アレクシオン・ヴァレリウス=アウレリオス(第一王子)
レオンハルト・ヴァレリウス=アウレリオス(国王)
「さて。お話を続けましょうか。ブレイズさん」
娘がこの部屋を去り足音が遠のいてから、口を開いた。
「貴方のお話をまとめると。我が娘のセフィリアのステータス鑑定結果が異常だった。だから、魔塔でセフィリアを監禁して実験体にしたい、と」
そう言うと、彼は焦ったように弁解する。
「滅相もない。ただ、ご令嬢の魔力はあまりにも多いため、魔塔で保護させていただきたいと、そう申しております」
「貴方がたの言う『保護』は信用なりません。以前、私の大切にしていた貴重な魔石を、勝手に保管すると持って行き、勝手に開発中の魔導具にした挙げ句、失敗し粉砕してしまったのを覚えていないようですね」
自分勝手で無能な研究者たち。
「その件については、非常に申し訳ないです。ですが、この件は別です。もしご令嬢が魔力暴走を起こした場合の被害は、多大なものになるでしょう。そうなったとき困るのは、公爵家の方では?」
何回も、ただ赤子をあやすように言い聞かせる。
駄々を捏ねる、この大人に。
それに、セフィリアが魔力暴走を起こすはずがない。私よりも魔力操作が上手いのに。ピアスもある。
さっき会った時に、それに気づかないなんて。
―――緩んでいる。
「たとえ魔力暴走を起こしても、私が防げば、多少の被害は出るものの、最小限にできます。それより、魔力暴走の理由は建前で、本音はギフトのことでしょう」
図星だったのか、若干顔が青くなる。
教会が、魔術省に連絡した。戸籍に登録する役所ではなく。
その理由は明白だ。
女神の加護、なんていうギフトは前例がない。ギフト自体、保持している人間が少ない。あったとしても、身体強化や、魔力感知という、スキルが多かった。
ギフトは未知の研究対象だ。
研究自体は昔から存在しているが、未だ発展を見せていない。
それこそ、セフィリアは魔力を大量に保有している。
魔塔に監禁することができたら、診察と称した実験も捗る。
教会はさしずめ、新たな象徴にでも祀りたてあげたいのだろう。
傀儡として。
魔塔に監禁するのも、迷宮と言われている所以。逃げられないようにするには都合がいいはずだ。
教会と魔塔の利害は一致している。
私の魔石と同じように、どこかいじられでも、壊されでもしたら。
許さない。
「それは⋯⋯しかし、その多少の被害が大事になったらどうされるおつもりで?」
「大事にないようにするのは、私達公爵家の問題です。それより、答えなさい。貴方がたはギフトのことに興味があるのでしょう」
「いいえ。私達は本当に魔力暴走が起きてしまうことを心配して、こう話しているのです」
⋯⋯⋯埒が明かない。なんでこんな中間管理職程度の人間を寄越してくるのか。教授か魔塔主が出向いてくるべき。
「貴方がた魔塔は、セフィリアを、それも次期公爵となる子供の意思を確認せずに無理矢理、魔塔という実験施設に連れて行こうとしているのを自覚しているのですか?」
「勿論、ご令嬢に話をして確認します」
物で釣って連れて行く気でしょう。ドレスなどで釣れると思われているのか。
「⋯⋯⋯話にならないわ。魔塔主に会わせなさい」
「そ、それは⋯⋯⋯」
魔塔主に連絡しないでこっちに交渉に来たの?
責任者に知らせないという研究施設での規則違反。
これに研究者の資格なんてない。
その時、部屋の扉が開いた。
「おや、ブレイズ。説得するのに時間がかかっているのかね?」
ブレイズの顔がぱっと明るくなる。
「オーレリン教授!」
入ってきたのは、派手に着飾ったローブを着ている中年の太った男だった。
「これはこれは、メソルトウェイ一級魔術師様⋯⋯いや、エーデルシュタイン一級魔術師様、といった方がよろしいかな」
「⋯⋯⋯私は、セラフィーナ・エーデルシュタインです。貴方は」
「おお、申し遅れました、私、ウィルト・オーレリンと申します」
「⋯⋯⋯では、貴方が私の娘を魔塔に連れて行こうと提案した者ですか」
「いかにも。ただ、少々語弊があるようですね」
あぁ、コレか。セフィリアを実験体にしようと企んでいる人間は。
「この件を受け入れることはありません。どうぞ、お引き取りください」
「それはできませんな」
ブレイズが座っているソファにオーレリンも乱雑に腰掛ける。
「我が研究員が申したと思いますが、魔力暴走を起こすと必ず甚大な被害が出ることでしょう」
「ありえません。何度も言っていますが、魔力暴走が起きたとしても私が防げます。多少の被害がでるでしょう。しかし、娘の魔力操作は私の力量を超えています。それに親の贔屓目を抜いたとしても、とても用心深い子です。魔力暴走を起こすなんてありえない」
「ですが、万一のこともありましょう。ここは是非、私達のところへ預けてもらいたい」
コレも話にならない。
さて、どうしたのだろうか。
そう考えた時、また扉が開いた。
今度は二人。
―――私の夫、アルセルクと、国王陛下だ。
すぐさま立ち上がり、礼をする。
「王国の太陽であせられる…⋯⋯」
陛下は私を手で制す。
「よい。して、公爵夫人は取り込み中か?」
「はい。魔塔の方々と少々」
ルルが目を見開いて尋ねる。
「もしかして、あれか?」
「ええ。あれの件よ」
事前に話しておいてよかった。
最悪陛下を脅してでもコレ等に制裁を加えてやろう。
二度と、起き上がれないような身体に。研究でさえもできないような。
ああ、折角一級魔術師だし、頭を少しばかり弄ってもいいかもしれない。
「これはこれは、国王陛下に、総司令官長殿も」
オーレリンが恭しく礼をすると、それまで大人しくしていたブレイズも、慌てて礼をする。
それをみたルルが陛下を守るように前に出る。
「国王陛下に、エーデルシュタイン公爵令嬢のことでお耳にいれたいことがありまして」
陛下が椅子に座り、ルルがその後ろに立って、部屋に沈黙が流れる。
彼はそれを、続きを促しているのだと思ったらしい。
「公爵令嬢のステータス鑑定にて、魔術省は異常なほどの魔力保有量と、保有属性における不自然な点を確認したため、魔塔にて預からせていただきたいのです。ですが、公爵夫人は許諾してくださらないのです」
「当然でしょう。私達には貴方がたへの信用がないのです。まぁ、信頼関係が生まれるなんて、金輪際ありえないでしょうけれど」
「信用どうこうではなく―――」
「お前は先程誰の許可を得て、私の前で口を開いている?」
その言葉が響いた途端、周囲の圧が一気に増す。
魔力由来ではない、空気の支配。
「ももも申し訳ありません!改めて、発言の許可を…」
オーレリンが初めて焦りの色を浮かべる。
「よい。続きを話せ」
「………ですから、エーデルシュタイン公爵令嬢を、こちらの魔塔で預からせていただきたい、と」
陛下は考える素振りを見せる。
「………ふむ。では、私が代替案を出そう。先ほど公爵令嬢と些事があってな」
些事……?
王子殿下と婚約した、ではなく?
まだ公表しないとしても、些事と言うだろうか。
「………さて。どうしたものか」
どうしたものか、とか言っているけれど、どうせもう思いついているのだろう。
陛下は顎に手を添え、しばらく黙っていた。
その沈黙は、答えを探している者のものではない。
既に決めた駒を、どの順番で盤上に置くか考えている静けさだった。
「では、公爵令嬢を学院に預らせるのはどうだ」
「「学院?」」
ルルと私の声が重なる。
⋯⋯⋯学院?
ガーニバルト王立学院?
魔塔の二人も、想定外だったのか、代替案に首を傾げる。
「そうだ。正式に入学するわけではないがな。学院は、国直轄で運営している。魔術省も少なからず関与しているし、公爵夫妻には時折行く許可も出す。そうしたら安心できるだろう」
………怪しい。
これは、陛下にとって利益があることなのだろうか。
わざわざ仲裁した意味もわからない。
ルルと目線が合う。
気づかれないように念話の術式を発動する。
(これ、大丈夫かしら)
(まあ、時々見に行けるし。陛下にしてはましな案を出したな)
⋯⋯⋯これは、多分ルルにしたら褒め言葉だと思う。
(裏があるようにしか思えないんだけれど)
(今のところ、不利になることは言われてないし、大丈夫じゃないか?)
(…そうね)
術式を解除し、陛下と向き合う。
「私としては、その案を受け入れようと思います」
「それはよかった。魔塔の方はどうだ」
二人でコソコソ話しているところを見ると、オーレリンには不満があるように見える。
「可能ならば、私たちも、ご令嬢に面会できるようにして頂きたいのですが」
そこでまた連れ出すつもりか。
それまでして、なぜ監禁しようとしたいのかが、分からない。
「それは公爵令嬢の意思だろう。面会したいのなら、彼女に会って話す機会を得られるように日にちを取り付ければいい」
「それは⋯⋯」
「なんだ」
陛下が一つ視線を投げると、萎縮した彼等は、すぐに黙る。
「さて、では私から学院には連絡しておこう。この話は終わりだ。魔塔の卿らには帰って貰おうか」
「え、あ、陛下!私はまだ⋯⋯」
陛下は有無を言わさない笑顔で三回手を叩くと、部屋の外に待機していたであろう騎士たちが、二人を猫のように持ち上げた。
「な、何をする!」
「離せ!このっ⋯⋯」
騎士たちが喚く彼らを、引きずって外へ放り出し、扉を閉めて、また警備に戻っていった。
部屋に静寂が戻ったあと、仕切り直しだ、というように陛下がため息をつく。
「アルセルク。座れ」
「はぁ?」
「君等の娘の話だ」
「まだその話か?こっちは気が立ってんだ。ただでさえ襲われた後だってんのに」
は?⋯⋯襲われた?リアちゃんが?
「違う。いや、ある意味関係あるのかもしれない」
「―――説明しろ⋯⋯⋯今すぐに!」
ルルが声を荒げた途端、瞬時に周りが氷点下になった。
床の絨毯には霜が降り、天井には氷柱ができ始める。
その温度に、はっとして、乱れた自分の魔力を抑える。
「ルル。落ち着いて。座りましょう」
彼も状況に気づいたのか、魔力を抑えて、私の隣に座る。
魔力を操って、定着した氷や霜を溶かし、空中に一つの塊として集める。
そして、爆発が起きない程度に火で蒸発させていく。
「すまない」
ルルが申し訳なさそうに謝る。
「いいのよ。⋯⋯で、セフィリアが襲われたのはどういうこと?」
陛下――レオンハルトに声をかける。
「そういうのはアルセルクがよく知ってるだろ」
「あぁ⋯⋯⋯それはな。さっき捕らえた暗殺者どもを尋問してたんだ。東館の方は成果があまりなくてな。だが、セフィリアと相対した暗殺者は、素直に吐いてくれた」
あら、ルルのあの威圧に耐えるのね。
じゃあ、かなり手練れなのかしら。
「そうなの」
「どうも第一王妃派の子爵の人間から依頼されたらしいんだ。セフィリアの暗殺を」
第一王妃派⋯?ルーアティレ様の派閥か。
「あー、ニアネル侯爵一派か。ありゃもう、第一王妃派とか言ってるが、本質は反王家派だな。息子が彼女に似なくて良かったよ」
なるほど。ルーアティレ様の生家、ニアネル侯爵家。
王国の派閥は、現在、第一王子派、第一王妃派、第二王妃派に分かれている。
第一王子を支持する派閥に反対する第一王妃派、中立する第二王妃派。
今回の婚約も、同派閥である四公家から婚約者を採り、殿下の派閥の所在を確定させたかったのかも知れない。
ただ、朝にルルも言っていたけれど、他の四公家にも同年代の子はいるはず。
何故セフィリアを⋯⋯。
「その点はわかったわ。で、レオンの話は?」
そう言うと、彼は面白いと言いたげに、口角を上げる。
「息子からな、契約ができないんだと。紙にペン先が触れる前に、なにかに弾かれるそうだ」
⋯⋯⋯は?
「⋯⋯つまり、婚約はできない、ってことか?」
ルルが困惑しながらも結論を告げる。
「ま、そういうことだな。あの子が娘にならないのは惜しいが、諦めて他の令嬢を探すことにした」
「ちょ、ちょっと待って。それじゃ、リアちゃんは一生婚約どころか精霊契約さえできないんじゃ⋯⋯」
「さぁ?どうだか」
レオンは肩を竦めて、少し笑みを浮かべる。
「それを調べるのも、親であり、一級魔術師殿である、公爵夫人の役目だろう?あ、あとついでにアルセルク。お前も」
「ついでとはなんだ。無責任過ぎるだろ。それに、その笑い方腹立つ。一回表出ろや」
怖い笑顔で、指の関節を慣らしながら陛下に歩み寄る。
普段はどこかしらの覇王みたいなのに、レオンと接する時は、子供じみてるわね。
「おぉ。怖い怖い。お互い学生じゃないんだ。『氷の剣聖』のお前なら、婚約やら精霊と契約やらせんでも、護れるだろ?」
その言葉を聞いて不貞腐れたのか、ソファに座り直し、足を組む。
しばらくルルが瞼を閉じて、静寂が広がる。
「⋯⋯⋯当然だ。言われなくてもわかってる。⋯⋯それに、コイツもいる」
佩いている剣の柄に手をかけるルルはどこか憎たらしそう。今頃わんぱくな男の子の声が聞こえているのかしら。
「そうね、シリルちゃんもいるもの」
「こいつら。腹立つな⋯⋯」
なにか言われたのだろうけれど⋯⋯。あら可愛い。そのむすーっとしてる顔。
「―――セラ、心の声」
「⋯⋯聞こえていらっしゃった?でも、事実ですから」
私のルルは世界一格好良くて可愛いんですもの!
そこで、レオンの咳払いする音が響く。
「夫婦仲がいいのはよろしい。だが、当の本人が耐えられなさそうだ」
彼の言葉を不思議に思って、ルルに視線を向けると、顔が熟れた果実のように真っ赤だった。
「あらあらまあまあ」
思わず、クスッと笑ってしまいそうになる。
「従弟のあの鉄面皮が破られるのも面白いが。もう外は日が暮れている。今日はもう帰路につくが良い。学院への預かりについては後日話そう」
「分かったわ」
「―――大体、エーデルシュタインの三兄弟は、無表情ばっかりで面白くない」
「レオン、今なにか言ったか?」
「ああああいや、なんでも無い」
『ちゃんと聞こえてるみたいだけど?』
あの子の声が聞こえてきた。
/――――――――――――――――――――――――――――――/
そうして、私達は王城を後にし、家の馬車に乗り、帰宅している途中。
王都の華やかな町並みも、日が落ちて、静まり返る頃。
「⋯⋯ん?もしかして、一番利があるのは王家じゃないか?」
ルルが物思いにふけっていると思ったら、突然そんなことを言い出した。
「あ⋯⋯言われてみれば」
これか。レオンの発言に感じていた怪しさは。
「……私たち、完全にレオンに乗せられたわね」
「ああ」
「婚約は白紙。でも学院には入る」
「しかも学院長は王弟殿下だ」
「つまり王家は手放してはいなかった」
セフィリアを王家の管理下に置く利点。
第一に、抑止力になる。規格外の魔力を持った子だ。あの子を、王家の庇護下にあることを示すことができたのなら、国内も国外にも、争いの抑止になる。
第二に、権力のバランス。例えば魔塔、魔術省は国の、いわば第二の権力だ。それにセフィリアを深く取り込まれたら、王家は政治に、魔塔は技術に、分割される。最悪、王家より魔術省や魔塔の方が危険なものを扱えるようになる。それに、教会が預かれば、教会の象徴。私達公爵家が預かっても、セフィリアの存在から溢れる利益は手に余る。
第三に、セフィリアは、公爵家の後継で、王家とも遠縁にあたる。それに、魔力が異常値で、しかも「女神の加護」なんていうギフトがある。こんなにも、象徴的存在を、放って置くわけがない。
派閥の旗印にもなる。
王家からしたら、国外に嫁がれたり、攫われたりする前に、国の管理下に置いておきたいはず。
だから、第一王子殿下とセフィリアの婚約を⋯⋯。
馬車の中に私達のため息が落ちる。
「これは、一本取られたな」
確かに、私たちだけで見守るのも、手に余ってしまう。
結局は、公爵家にも、将来的に利益があるだろう。
王家には漁夫の利だったはず。
彼らは、セフィリアへの、監督権を手にしたのだ。
「でも、危害を加えるわけでも無さそうじゃない?」
「逆だ」
「へ?」
「⋯⋯⋯守られている」
「まさか⋯⋯」
「学院なら、襲撃されても実質国の騎士団が即応できる。公爵家で守れば、公爵家だけが狙われる。魔塔なら、魔塔か魔術省が狙われる。だが学院は国家施設だ。攻める側は国に喧嘩を売ることになる。それに、王家が最も手を伸ばしやすい場所でもある」
なるほど。これは、一番政治的にいい落とし所だ。
「……レオン、あなた最初からこれが目的だったのね」
「ただ、セフィリアから見れば、この結果はどう見えるだろうか」
それは、きっと―――「管理」
「あの子には、少し窮屈過ぎるかもしれないわ」
「そうか。―――ならば、学院に預かられている間は。できるだけ、最大限」
「好きなことをやらせてあげなくちゃね」
二人で頷きあう。
ちょうどその時、王都の屋敷に着いた。
ルルにエスコートしてもらい、馬車を降りる。
夕暮れの九月は、少しずつ風を帯びていく。
ルルはアルセルクの愛称です。総司令官がこんなにも可愛らしい愛称になると思ってはなかったです。
あと、どうしても、名前に、「セ」や「ア」や「ン」や「リ」が多いのは、多分私のイメージ的なやつです。
ちなみに、総司令官は、全部の騎士団をまとめる人です。
騎士団は、第一〜第六くらいまであります。




