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席をください  作者: Hem
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子どものころ(家の外2)

このころから、きみ子は自分の好きなものを言えなくなっていた。

私はこれが好き。これがやりたい。


そういうものが全く無かったわけではないだろう。

でも言葉に出すことができなくなっていた。

亜子に好かれることが、亜子に認められることが

きみ子の存在価値だったからだ。


そんなきみ子のことを、亜子は嫌だったのだろう。と、思う。

一番嫌われていた。と、思う。

無視をされる回数は、きみ子が一番多かったように、思う。


今でも思い出すのは、社宅の公共の庭で、プールをしたときのこと。

子どものいる家庭で使われる空気を入れて膨らむプールだ。

濡れた身体を拭くタオルを木の枝にかけてみんな乾かすのだが、

きみ子のタオルだけ、木の枝から外され、何度も地面に落ちていた。

おかしい…と思ったのは一瞬。

亜子たちが全員できみ子のタオルだけを地面に落としていたのだ。

そしてクスクス笑っていた。


「やめてよー」と、笑えばよかったのか。

「なんでこんなことするの!」と怒ればよかったのか。

そんなこと気にしなければよかったのか。


笑って見せても、怒って見せても

きっときみ子は泣いてしまっただろう。

実際にはきみ子は、悲しくて、ただ悲しくて、恥ずかしくて

下を向きながら、落とされれるたびにタオルを拾い、

グスグス泣いた。


何でそんなことで泣くの?と言われても分からない。

子ども同士のからかいみたいなものじゃないの?と

言われるかもしれない。

でも、違うのだ。

鼻の奥がツンとなって、胸が熱く悲しくなって、涙がでてしまうのだから。


大人になった今でも、きみ子は小さなことでよく泣く。

大嫌いな大嫌いな母親譲りの泣き虫だ。


きみ子はふと思う。

あの頃、亜子からされる色んな嫌がらせに対し、

自分は嫌われているのだ。嫌がられているのだ。それはとても悲しいのだ。

そう分かっていても、

きみ子はきみ子自身をが嫌いだ。という認識はなかったように思う。


亜子なんかいなくなればいい、と思ったことはあるが、

自分がいなくなりたいと思ったことはない。

今、そんなことに気づいたきみ子は、小さく自虐的に笑った。


そしてあの頃は、

亜子なんかいなくなればいい、という気持ちよりはるかに大きかったのは、

私だけは無視されなければいいのに。というゆ歪んだ気持ちだった。



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