誰かの誰かの悪口
講師役の社員は、人事部の女性だ。
きみ子よりだいぶ歳下…と思う。
職場が同じフロアだから顔と名前は知っている。
英語が堪能で、以前はグローバルチームにいたと聞いたことがある。
きっと将来有望なんだろう。
「…講師って、倉木さんなんだ。へぇぇ…すごいよね」
ふいに後ろから話し声が聞こえた。
「でもさ、倉木さんって自分の好きがやりたくない仕事は絶対やらないらしいよ」
「気、強いらしいし。」
「そっかぁ、人事部に異動になったのも、前の職場がつまらないから
親しい人事部長に裏で取り入ったらしい」
「マジ?怖っ!」
きみ子は、後ろか聞こえてくる小さな噂話を、全身が耳になったかようのに聴き入った。
誰かが誰かのうわさ話、評価(それは、悪いものに限る)を聴くと、
きみ子の胸は高鳴る。
とりわけ、自分にとって嫉妬の対象になる人や、羨ましいと思っていた人の
悪い話は心がドキドキする。
ドキドキは、怖いドキドキではない。
高揚感のドキドキだ。
昔からそうだった。
自分以外の誰かの悪口を聞いたり、
自分以外の誰かが仲間外れにされたりすると、
きみ子はドキドキして、なんだかすごくいい気持ちになってしまうのだ。
今もそう。
そして、もう十分大人になったきみ子は、
その最低な自分を殺したいほど嫌っている。
きみ子は心の中で、自分に向かってつぶやいた。
「あんたはほんと最低」




