第23話 戦艦アストライオス
ラディエス達はゲリラ部隊殲滅任務を終え、僅かではあるものの休憩を済ませてから、ディノのいる司令部へと向かう。
その部屋には、ディノが一人鎮座していた。彼は揃った面々を見渡してから、彼は小型端末を操作し始めた。
「ディノ司令官、それは……?」
「うむ、これは今後君達に宙域圏での任務のために乗る大型宇宙戦艦・アストライオスだ」
ディノを除く一同は、思わず困惑した。
「アストライオス……。古の神話にそんな登場人物はいましたが……」
「この戦艦は、以前から地球政府軍で使われていたエレボス艦を改良したものでな。ラディエスの言う通り、この戦艦の名はギリシャ神話のアストライオスから名を拝借したものだ」
「やはりそうですか。この戦艦は既に完成しているのですか?」
少々不安そうな表情を見せるラディエス。
「勿論だ。君達には一週間後、アストライオスのクルーとなって、各宙域圏でミュートロン軍の占拠している領域の解放を行ってもらいたい。出来るな?」
「はい、お任せください」
硬い表情を見せつつも、この長期任務を引き受けることとなったラディエス達。
その後一度解散し、各々は部屋へと戻った。
アストライオスの出港前日、ラディエスはアイオーン隊のクライドと暫しの別れの挨拶をすべく、彼の部屋を訪ねた。
「クライド、ちょっといいか?」
「おう、ラディエスじゃないか。いや、今はラディエス大尉と言うといいか」
二人は雑談を軽く行った後、本題に入った。
「俺は、今後このワシントン基地を離れて、宙域圏で戦う事になったんだ。俺達がここを離れたら、ここを頼む。唐突なことですまない」
「いいんだ。今後の基地の護衛は、俺達に任せてくれよ。必ずミュートロンの連中に負けるなよ」
クライドはラディエスの肩を片手で軽く触れる。
「分かってるって。何せジミー隊長の仇を取るためにも、奴らは倒さなくてはな」
話していくうちに、次第に二人の凝り固まっていた表情は解れていく。
一旦一息つくラディエス。
「そうだな……。お前も頑張れよ」
ラディエスの事を励ますクライド。
二人は互いに微笑む。
「ありがとな。じゃあ、またいつ会えるかはまだ分からないが、これからは任せたぜ」
「じゃあな」
そして、彼はクライドの部屋から出て、自室に戻り睡眠をとることにした。
この時ラディエスは、今後のことで不安がいっぱいになる。
とはいえど、悩んでいる場合ではない。今は前に進むしかないのだと。
過去の戦いで散っていった、ジミー隊長をはじめとする兵士達を思いながらも、ただ今は休んで、英気を養ってからまた戦いの場に赴こうと考えながら眠りについた。
そして翌日、ラディエス達はついに各宙域圏防衛戦線に入ることとなった。ワシントン基地にはSERT代表として、アイオーン隊などの部隊が地上に残る。彼らは、アストライオスが地球を旅立つ様子を少し寂しい思いを背負いながら見送ったのだった。
一方でアストライオスに乗るラディエス達は、期待と不安を胸に終わりの見えない戦いへの道へ向かう。
「ラディー、どうしたの?」
寂しさや不安さが入り混じった顔つきを見せるラディエス。
いつもと比べて、あからさまにどうにも落ち着きがないようであった。
「まぁ、また宙域圏での任務だから、責任を人一倍感じているというか……。怖いんだ、俺だって」
「そうよね……。私も前日は気分が落ち着かなかったもの」
「おっ、どうした隊長さん?」
「ゼナード、何でもないよ。気にしないでくれ」
ラディエスは、自分自身が出来る必要最低限の配慮をして見せた。
それを見て、ゼナードからしたらやや不自然に感じる。
「そうか。そういえばこの艦のCICはアリカも務めているらしいな。たった一週間しか猶予が無かったのに、すんなりこの環境に慣れるなんてな……。どうよ、隊長さん」
「少なくとも、そういう所があいつの長所だからな。あいつは初めて来るところでも、まるで前からやってたみたいに、そこでの仕事が出来るからな」
薄っすらと微笑むラディエス。
ゼナードは彼に向けて、優しい笑顔を返した。
今の環境でも問題なく頑張っているアリカに何か出来ないか、自分たちで考えてみることにした。
その中で、アストライオス艦はもうすぐ火星へと向かおうとしていた。
ここでアリカや他のCICメンバーから、アナウンスがかかる。
“火星政府軍の軍港で一度停泊し、補給を済ませます。一旦火星政府軍マルセニア国の基地で休みましょう”
「いきなり補給か? やけに早いな」
ラディエスは少し戸惑いながらも、基地へと降りていった。
マルセニア国の軍港にて、火星政府軍のSERTの面々が合流。
実は火星政府軍側には、このアストライオスの護衛艦隊としてアストライオスに同行する事が既に決まっていたのだ。
こうして、マーティー率いるクレイオス隊が加わり、頼もしい仲間が揃う。
「マーティー大佐、お久しぶりです。そちらの方面は最近どうですか?」
軍港の休憩室にて、ラディエスとマーティーは近況について互いに報告する。
「そうだな……。最近は不自然にも全く敵部隊は来なくなった。何か裏があるだろうな」
「となると……?」
眉をひそめながら、隣にいるマーティーを見つめるラディエス。
彼は一旦黙った。
「恐らく大艦隊を編成して、太陽系全体に攻撃を仕掛けるのだと私は予測している。ラディエス、君はどうだね?」
「自分は……、恐らく戦闘部隊の編成などの準備を行っているのかと……。あ、結局は大佐と答えが同じですね」
ラディエスは思わず苦笑いする。
彼はそのままボトルに入った水を一口飲んだ。
「ふん、そうか。まぁ、この状況では誰が考えても同じ結論に行きつくか」
フッと一息つくマーティー。
そのままラディエスに、私物のタブレット端末に表示されたニュース記事を見せた。
「これは……、ミュートロン軍が木星のMU開発企業、メガテック・ジュピターテクノロジーを買収!?」
「あぁ、どうやらメガテック社の子会社が身売りしたという噂だ。何でも、そこの社長はミュートロン軍の技術開発資金において、賄賂を贈っていたという。これを知った本社側からジュピターテクノロジーは親会社から切り離され、資金繰りも悪化した結果こうなったとのことだ。まぁ、要するに我々人類側の企業がミュートロンの手に渡ったということだ」
マーティーはこの事から、今後人類が少しずつミュートロンたちに蝕まれるだろうと危険視した。
「そんな……。人類がミュートロンに食い下がってしまったら……」
ラディエスは顔が青ざめた。だが、彼なりに平静さを取り繕うと表情を戻す。
「とにかく、刻一刻と俺達が不利になっていく可能性があるわけだ。油断はしない事だな」
「はい……。今後ミュートロンの企業が地球の企業を吸収し、いずれは……」
思わず固唾を飲むラディエス。微かに彼の手が震える。
「そんな悪いことは考えなくていい。今を生きろ、ラディエス」
「分かりました」
それから一時間後、マーティーたちはアストライオスに搭乗したのだった。
果たして、彼らの進む航路に待ち受けるものとは?




