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73 北の森にて

更新が不定期になっていてごめんなさい。

お待たせしました。

王都北の森に最も近い街の出口への通りを向かうと進むにつれ人通りがまばらになっていき、寂れたような雰囲気になっていった。

王都の北には街も集落もないそうだから、こちらに用事があるのは住宅がある者くらいだからだろう。

王都の北には魔王支配領域との境目が目前にあり、これだけ朝市に活気があるというのに後がない侵食を受けている。だというのにみんな逃げずにここに踏みとどまっているのは王族が逃げずに踏ん張っているからだろうか。あるいはこの地への愛着からだろうか。


フェンリルのロウが地面をふんふんと嗅ぎ出した。

それは王都の北の出口を少し進み、人の気配がなくなる少し距離を取った場所まで続けた。

ふいに顔を上げるとそばでガエルがしゃがみ込み何か話しかけている。



「馬が三頭、この道を通ったようだ。まだ新しい」

「王子とそのお付きだろうね。いや〜いい仕事するねワンちゃん」

「グルルルルルゥッ!」

「犬扱いは許さんそうだ。次に言ったら噛むと」

「褒めたのに〜」



ガエルが当然のようにロウの通訳をしているけれどどういうこと? 彼は犬語…いや狼語…いや、フェンリル語がわかるのだろうか?



「ねぇ、ガエルはーー」

「魔物の言葉がわかるのは何故かか?」

「あ、うんそう」



なんでわかったんだろう。わたし言いたいことが顔に書いてあるのだろうか?



「あれは従属の術によって可能になっている。契約をした相手と信頼関係が結べていると心の内で思っていることを互いに認識できる」

「えっ、じゃあわたしも魔導士に心の内を…」



わたしに従属の術をかけたあの魔導士に心の内を覗かれているかと思うと気持ち悪くて鳥肌が立つ。



「"契約をした相手と信頼関係が結べていると"と言っただろう。信頼していない相手には覗かれない、大丈夫だ」

「そう…、よかった」



鳥肌が立った二の腕を抱えてふるりと一度震えがきた。覗かれた心配がなくてよかったけれど、従属の術は便利ではあるけれど恐ろしいと改めて思う。

すると頭に大きな手のひらが乗り、優しくなでられた。魔王がわたしの頭をなでている。慰めてくれているのだろう。

優しさが染みると思うべきなのだろうけれど、急に触れられ、またその優しい手つきにドギマギしてしまう。

何度かなでられ、ほぼ固まっている間に手が離れた。ほっと気を緩めたのと同時に膝裏に腕を回され横抱きにされた。



「きゃあっ!」

「ではその馬の後を追うとしよう」



四天王二人に温かい目を向けられ居た堪れなくなり顔を両手で覆った。不意打ちはやめてもらいたい。恥ずかしい!



「ではロウとはぐれない様にな! いけ、ロウ!」

「ワウッ!」

「よしよし、偉いね〜」

「ガウッ」

「あっぶな! 噛もうとしないでよー。ちょっとなでて誉めようとしただけじゃないかー。ガエルもなでていたじゃないかー」

「"お前からは舐めた感情を感じた。犬扱いしようとしただろう"だと」

「えへっ、白い大きな犬って人間時代、屋敷で飼ってみたかったんだよね〜 夢を叶えると思ってーーー」



「痛い!」という声を響かせながら北の森の中へと高速でわたしたち一行は入り、奥へ奥へと進んでいった。

森は静まり返り生き物の気配はない。森の木々が繁り太陽の光が遮られ、空気はひんやりと冷気が漂い薄暗い。

これならまず只人は立ち入らない異様な雰囲気で、一国の王子が足を踏み入れる場所としては不似合いだ。

ロウの案内に従いついていくと瘴気がだんだん濃くなってきたのがわかった。魔王支配領域との境目が近い。それを感じながら進み、ロウが立ち止まった。みんなも一斉に止まった。ロウが見つめる先には馬に乗った一人の男性。

どうやら追いついたようだ。

ヴラドがにこやかな笑みを浮かべて男性に話しかけた。



「よいお天気ですね。絶好の散歩日和です。あなたもこちらにはお散歩に?」



男性が馬上からこちらを振り返った。

その男性は茶髪に茶の目をしており、不思議そうにこちらを見返した。

うん、ダークブラウンの髪に青みがかったグレーの目をもつというテオドール王子ではなさそうだ。



「いい天気、ですかね…? いえ、自分は魔王支配領域限界区域見回りの任務に着いているオーランドの騎士団の者です。あなた方は何用でこの様な所に? 危険ですから王都にお戻りください。…見たところお強そうなので無用な心配のようですが」

「ええ、軽ーく散歩するくらいには心配いらないです。それはそうとテオドール殿下がこちらにいらっしゃいませんでしたか?」

「ええ、殿下でしたら自分に魔王支配領域の侵食の具合をお聞きになり、境目を確認されるとおっしゃって境目沿いに途中まで走り王都にお戻りになると先刻ここを離れました」

「えっ」

「どうやら行き違いになったようだな。また追うぞロウ!」

「ワフッ!」



わたしたちはその騎士と別れロウがまた馬の匂いを追い境目沿いを高速移動した。

境目は以前魔王と見た時と同じくくっきりと魔王支配領域側と人間側で様相が違った。向こうは瘴気に満ちた死の世界、こちらは緑生い茂る生者の世界のよう。

けれど、いつまでもこの状態にはしておかない。まだ手段は見つかっていないけれど、この瘴気に満ちた大地を浄化したい。いつかきっと。

そう密かに決意をしてふとテオドール王子もわたしと同じように感じて、決意を強めるためにこの場所を訪れているのかもしれないと思った。

そして結局わたしたちは王子に追いつくことなく王都アルダムにとんぼ返りすることになった。

王子、馬早すぎ。


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