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74 再びの朝市と探し人

前回投稿から間が空いてしまいごめんなさい。

お待たせしました。

北の森でテオドール王子に会えなかったわたしたちは再び王都アルダムに戻り、店じまい近い時間の朝市の通りを歩いていた。フェンリルのロウが途切れない馬の匂いを追えていたため、それを手がかりにして捜索を続行していたからなのだが…



「朝市の混んでるなか王子がここを通ったら騒ぎになりそうだけど…」

「今の俺たちも中々のものだと思うがな」



白銀の狼ロウが石畳をフンフンと嗅いで朝市をモーゼの十戒の如く人の波をかき分け進んでいるのを魔王に揶揄され何も言えない。めちゃくちゃ視線を集めている。ただ、それはロウが原因なだけではない様で視線は連れのみんなに注がれている。

金髪美形の貴族然としたヴラド、言わずもがな白銀の狼ロウとその傍に寄り添う筋骨隆々の漢らしい精悍な顔つきのガエル、そして極め付けはーーー



「やだっ、すっごい美形っ」

「いいー男… 人生で一番いい男に会った…」

「隣の女はどういう関係なんだろ」



黒髪にアメジストの瞳の絶世の美形、魔王が道ゆく人すべての老若男女の視線を縫いとめている。

神が采配したかのような完璧な美しい作りの目尻の曲線、鼻の稜線、薄くも色気のある唇の配置。色彩も艶のある漆黒の髪に、宝石の様な輝く紫色の虹彩、薄いピンクの唇と歴史上の絵画の巨匠でも再現できないであろう吸い寄せられる魅力がある。

街ゆく人の色っぽい視線に改めて彼の美しさを再認識した。ここのところ一緒にいすぎて感覚が麻痺していた様だけれど、これが標準的な反応だろう。早朝の朝市でもこんな視線はちらほら感じていたのだけれど気のせいではなかったようだ。今まで人間に接するのを見たのは聖教会やらロンバルディの騎士やら男性ばかりの状況だったので彼の顔についての周囲の反応は静かなものだった。けれどここの女性たちはみな頬を染めて見つめている。

そしてそれに対してなんかモヤッと感じている自分にもまたモヤッとしている。嫌な気持ちの理由がなんとなくわかる気がするけれど、はっきりわかってしまうのがなんだか怖くてふり払った。

そうして横にいる当の本人はどこ吹く風でむしろ鬱陶しそうにしている。



「陛…貴方は人気者なのになんて顔ですか? 女の子たちからの好意がうれしくないんです?」

「ふん、四六時中こんなのではうれしくなどあるものか。気色の悪い」



本人はうんざりしているようで不機嫌な声色だ。



「うわー贅沢な悩み。モテすぎて困っちゃうって? 魅了を持つ吸血鬼()も形なしです」

「凄いものだ。顔が整っているのは分かっていたが身の危険を感じる視線だ。とって食われそうだな。へい…リュシオン殿は魅了の能力を持っていると言われても信じるぞ」

「その瞳に見つめられるだけで身も心も囚われてしまう…一声かけるだけですぐに虜にしてしまう罪な男。女性の敵。いや人類総老若男女にとっての危険人物。色情魔の称号は献上しますよ?」

「喧嘩なら買うが?」

「いや待った待ったっ」

「おや、そちらにおられるのは伯爵様ではないですか?」



不穏な空気をものともしない陽気な声が横合いからかかり、振り向くと野菜を売っているおじさんが片手を挙げて勢いよく振っている。



「おおっ 貴方は昨日一軒目の酒場で奥方に尻に敷かれきっていることを嘆いていた野菜屋のご主人! 朝からお仕事とは精が出ますね」



どうやら昨日ヴラドが散財した酒場で出会った相手のようだ。金貨を溶かして彼を含め大勢に奢ったのだろう。しかし昨夜に飲んでけろっと朝から仕事しているとは元気な人だなぁ。



「ははっ 昨日も飲みに行ったのがバレてしばかれ罰として朝から店に立たされてますよ! あんなちょっと飲んだ程度じゃ翌日はなんにも響かないんで奢りなんだしもっと飲んどけばよかったですよ!」

「10リットルのビール樽をお一人で開けてませんでした?」



おじさんは大酒飲みどころかザルのようだ。

肝臓を壊さないように奥さんは止めようとしているのだろうけれど聞く気はなさそうで心配になる。



「ああ、ちょうどいい。テオドール殿下を見かけませんでした?」

「殿下なら少し前にここを通りましたよ! わたしら店の者や買い物客にもにこやかに話しかけながら先を急ぐからと馬に乗ったまま朝市の人混みを抜けていきました」

「どちらに向かわれたかはわかりますか?」

「聖教会に向かわれるとおっしゃっていました」

「そうか、ありがとう! では伺ってみるよ」

「ああ、殿下にお会いしたいんでしたね。お会いできるようアウレリア様に祈っておきますよ!」



このおじさんは創造神アウレリアを信仰しているようだ。架空の、実在しない作られた神を。

真の創造神ゲオルギウスが邪神となったことを隠すために人に創作された女神を。

聖教会に向かったというテオドール王子を追いわたしたちは移動した。


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