75 オーランド王と噂
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聖教会は世界の最もスタンダードな宗教で創造神は絶対的な存在であり、人々の心の拠り所。魔物や魔王に脅かされる世界でも創造神がついているから恐怖に耐えられる人は多いのだろう。
朝市で会ったおじさんは信仰しているようだし、テオドール王子も聖教会に向かった。オーランド王国にも人々に根付いているようだ。
教会の位置は街のどこからでも目に入る高い鐘塔によりすぐにわかった。その音は街の隅々まではっきり聴こえ、信者にお祈りの時間を知らせてくれる時計の役割を務めている。
王都の朝市を抜け、街の中心部に建つ教会に向かった。ロウは匂いを追い続けており、王子の馬は確実に教会に来ていた。
さっそく鐘塔側の聖堂の開け放たれた両扉をくぐればお祈りを終えた人々とすれ違った。
静かでひんやりした聖堂内には聖職者数人が礼拝者と話しているものの、親子連れや年配の方しか姿がない。
「礼拝に参られた方ですか?」
「それも良いのですが、テオドール殿下がこちらに向かったと聞きまして。殿下はどちらにおられるかご存じですか?」
朗らかな微笑みをたたえた老神官に出迎えられ、それにヴラドが目的を率直に伝えた。
「殿下でしたらこちらで礼拝された後に、施設の子たちに顔を見せられ図書館で調べ物があると立ち去られました」
「またすれ違いか!」
ガエルが思わず唸ったけれどわたしも同じ気持ちだ。急いで移動しているのだけれどなかなか追いつけない。
「そうですか。それは残念。殿下が立ち寄った施設とは身寄りのない子たちの?」
「はい、みな親や家族をなくした子ばかりです。殿下は時々立ち寄られて子どもたちと遊んでくださり、また様子をお聞きになり、寄付もしてくださっています。お優しいことです。次期国王陛下としてお人柄ができておられ国民は幸せでございましょう」
「そうですね。現国王陛下も温厚なお人柄だそうですし、国民は統治者に恵まれていますね」
「そうですね…。陛下は御家族仲が良く、戦争もなく、治世は安定した暮らしやすいもので国民に愛されています…」
すると老神官は少し悲しげな表情をした。どうしたのだろう?
「どうされました? 浮かない顔ですね」
「ああ、ご存じないのですか。陛下はここ数年伏せりがちで国民の前に姿をお見せになっていないのです。噂では御病気で長くないのだとか… お妃さまを10年前に亡くされ、14歳の王女殿下も伏せっているとのことでみな心を痛め、また不安を抱えているのです」
「それはお気の毒に。では殿下はオーランドの希望の星なのですね」
「それはもう。テオドール殿下が勢力的に国民の前に姿をお見せになるのは、元気な姿を見せてみなを安心させるためなのでしょう」
朝から飛び回っているのは国民の不安感を少しでも和らげるためか。家族がその状態では彼こそ不安だろうに…
「では政務はどなたが? 殿下が行っているのですか?」
「一分はそうでしょうが、主には宰相のメトセラール公爵が行っているそうですよ。わたしは世俗には詳しくないので新聞や信者のみなさまから見聞きしたことでしか存じませんが。…おっと、呼ばれていますのでこれにて失礼します。よろしければぜひ礼拝をなさっていってください」
そう言い残すと老神官は他の聖職者の元に向かった。
しかし国王は政務がとれないほど病状は深刻なのか。そのメトセラール公爵が現在実権を握っている人。
「陛…リュシオン殿、眉間に皺が寄っていますよ?」
「ここは好かん」
「まぁ、我らにとっては気持ちの良い場所ではないがな。聖…そなたはどうする? 祈ってくるか? なにやら熱心に奥の祭壇付近を見ているようだが」
「祈り…はともかく、ステンドグラスが凄いからちょっと目がいっていただけ」
「"創造神アウレリア"の御伽噺か」
ステンドグラスには偽りの創造神アウレリアの神話が表現されていた。
聖教会が作った神話によれば、創造神アウレリアが世界をつくり、他の神々をつくり、人間を作った。そうして生み出した命ある者たちに世界を任せた。人間にも魔物にも世界にも手は出さず、あるがままを天上から見守っている、と。
創造神アウレリアはずっと存在しているのだ。
ステンドグラスは長い金髪の美しい女神が世界を作るところから始まり、天災や戦争に胸を痛める姿があり、魔物との戦いの場面になり、勇者と聖女が手を取り合い魔王討伐までが描かれている。
初代勇者と聖女、そして魔王。
そういえば聖教会本部の隠し通路の入り口の絵画とよく構図が似ている。あれは初代勇者と聖女を描いていたのだろう。魔王があの絵画を見つめていたのは遠い昔の親友たちを思い出していたからか、それとも真実を歪めた聖教会が勇者伝説を利用していることに不快を覚えていたのか。
「祈っても無意味なことをする必要はない。行くぞリンカ」
「うん」
聖教会に対して魔王はやっぱり不快感をもっているみたいだ。無理もないのだけれど。
一行が外に出ると小さな子ども二人が駆けて横切って行くところだった。しかし後ろを走っていたより小さい男の子が転んでしまった。前を走っていた少し年長さんの女の子が慌てて駆け寄るも顔から滑り込んで擦りむいたようでわんわん男の子は泣き出してしまいオロオロしている。
あれは絶対痛いと思いほっとけなくてわたしも小走りで駆け寄るとおでこや鼻の頭から血が出ていた。想像するだに痛そうですぐに魔法を使った。
「ホーリーヒール」
「大袈裟な。それくらい自然に治る」
「スパルタだなぁ。治るまで痛いじゃない」
魔王が「甘い」と呆れる中、怪我がすっかり治った男の子とそれを見ていた女の子が驚きつつもお礼を言ってまた駆け出した。また転ばないといいけれど。
その先を見やれば他にも複数の子どもたちが平屋建ての建物の庭にいた。老神官が話していた身寄りのない子どもたちの施設だろう。
「寄付していっていい?」
「施設に使われるなら良しとしよう。子どもに罪はないからな」
図書館に行ったというテオドール王子を追いわたしたちは施設を後にした。
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