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72 熱心な若人

更新が不定期になっておりお待たせしてごめんなさい。

どうぞお楽しみください。

「さて、駄目で元々、行ってみよう」



ヴラドは白い便箋の異国人推薦状を右手に掲げてひらひらと振りながら王城の門番に輝くような笑顔で近づいていった。



「やぁ、僕はグリューフェルト伯爵。テオドール殿下にお会いしたい」



門番は二人が頑丈で優美な装飾が施された門の前に、右手には門番の詰め所があるようで、そちらからも二人程顔を覗かせている。交代要員または緊急時のために多く配置されているのだろう。

門番二人はヴラドの名乗りに疑問が顔に浮かんでいた。伯爵の地位にある人物が直接門番に声かけをし、馬車にも乗らずに徒歩で来て、後ろには貴族のお付きには見えない黒ずくめの男と狼連れた筋肉男に小娘。どんな集団だと疑問にも感じるだろう。

しかしヴラドが持つ白い便箋に気がつくと疑問が一つ解消されたようで若干態度が軟化した。



「伯爵閣下は異国の方ですかな?」

「うん、そうだよ。だからほら、推薦状も職務に真面目な騎士殿にもらってここに」

「確かに。はるばるようこそおいで下さいました」

「いやいや、殿下にお会いできるなら些事ですよ。ですが順番待ちをしなければいけないのでしたね… いかほど僕の前に待っているのでしょう?」

「申し訳ありませんが伯爵の前には50組はお待ちです…」

「50…」

「いすぎだ」



わたしとガエルが嘆き、正攻法はそれこそいつ順番が回ってくるのかわからないから駄目そうだ。



「急ぎの用件なのだけれどどうにかならないかい?」

「申し訳ありませんが順番は守っていただきたい」

「君は今お金に困ってたりしな…もがっ」

「今のはしょっ引かれかねないからやめておけ?」

「よく聞こえなかったが今なんと言ったんだ?」

「昨日深酒しすぎてまだこの男は酔っているのでおかしなことを口走ったようだ。すまんな」



酔っ払いがグレーな交渉を公僕に朝から人目のあるところで堂々とやりそうだったのをガエルがかろうじて防いだ。首に腕を回し口を手のひらでしっかり押さえているのだけれど、ヴラドがガエルの首に回した腕を叩いている。もしかしてキマっているのだろうか? 

それはともかくヴラドに交渉させるのが不安になってきた。



「しかし困った。急ぎでかつ重要な話をしたいのだがな」



ガエルがヴラドの口をまだしっかり押さえながら心底困った感を出していると門番二人は顔を見合わせ含みのある顔をした。なにかあるのだろうか。もしかして重要だと言ったから本人にお伺いを立ててくれたり特別なルートとかーーー



「実はテオドール殿下、朝日が登ってすぐ出かけていていないのだ。会わせてやりたくとも無理だ」

「朝早っ」

「ニワトリより早く起きているのではないか?」



昨日国外から船で帰ったのにまた出かけてるとかフットワークが軽い。



「行き先は?」

「魔王支配領域との境目だ」

「なに?」



魔王支配領域との境目ということは、この前に魔王に連れられていった場所のあたりか。



「なぜそのような所へ? 危険でしょうに」

「はい… しかし長く国を離れた後は必ず境目を確認しに向かわれるのです。いわく『侵食が常に進行している中、刻一刻と悪くなる状況をきちんと把握しておきたいから』と」

「瘴気対策に熱心な若人(わこうど)だな。感心感心」

「茶化さないでもらいたいなお客人。テオドール殿下は我々オーランド人には目と鼻の先に迫る滅びの危機に立ち向かう英雄なのだ。国中がかの王子を応援している」

「テオドール殿下は国民皆から愛されているのだね」

「もちろんだとも! 幼少のみぎりから国を守るために走り回っておられるのを皆がときに心配し、ときに頼もしく感じていた。皆の自慢の殿下なのだよ」

「殿下は、瘴気に対抗するすべは見つけられたのかな?」

「わからん。だがたとえ見つからずとも誰もが王子を讃えるだろう。そして魔王に侵攻されても我々は最後までこの地に留まり国を捨てることなく戦う。魔王に素直に滅ぼされてなどやらん。人間の意地を見せてやるさ」



テオドール王子の瘴気対策への熱意と国民人気が伺えた。

そして魔王に対する人間側の認識も。

わたしは真実を知っているから門番の言種に反論したくなってしまったけれど、一般論はやっぱり魔王は世界を支配しようとする悪なんだ。

本当は違うのに、世界中に真実を伝えたくて仕方ないけれど、どうやって伝えたらいいだろう。嘘で塗り固められた常識をどう変えればいいだろう。

ガエルとヴラドは肩をすくめて「仕方ない」といった態度だ。ずっと人間側がそういう反応だったから割り切ってしまっているようだ。

魔王の反応を恐々伺ってみれば、彼は顔は正面のままアメジスト色の瞳を横に向けている。



「魔…えっと、どうしたの?」

「いや、気にするな」

「?」

「さて、どうするグリューフェルト伯爵閣下? 指示を頼む」

「もう、からかわないでくださいよ陛…リュシオン殿?」



よくわからなかったけれど、魔王がヴラドをからかい四人で集まり話し合いをする。



「推薦状を利用して王子に会うのは当分無理そうだね〜」

「それならテオドール王子に直接会って交渉して協力を取り付ける?」

「だな! つまり」

「王子を追うぞ」



目指すは魔王支配領域との境目、王子が向かったという王都の北の森に向けわたしたちは出発した。


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