59 自らの意志で歩む聖女
一日遅れですみませんが更新しました。
螺旋状の通路の途中にはいくつか扉があった。
これらは魔法で隠されることなく、最初の扉と同じく青銅色の金属扉がわたしにも自然と目に入った。
こちらもゲーデによって真っ二つに切断されて扉が崩れ落ちた。
「こちらは牢か」
奥まったところに鉄格子の牢があり、牢の中には手枷が鎖で壁に打ち込まれてぶら下がっている。ここに魔物化させる人を閉じ込めていたのだろう。
二つ目、三つ目の扉の先も同じ造りでかなりの人数を収容できる広さがあった。
ここでどれだけの人が犠牲になったのだろう。
いつ頃にこの狂気の実験がされていたのかわからないけれど、その当時に助けたかった。
閉じ込められた人たちを思うと気持ちが沈んでいくけれど気をしっかり持たなければと自分を奮い立たせる。
「お前は一旦上に戻るか? 辛いのだろう、無理しなくていい。俺たちだけで底に行って来ればいいのだからな」
魔王がわたしの顔を覗き込んで気遣いを見せてくれた。見回せばヴラドとゲーデもわたしを見ていた。みんなに心配をかけているようだけれど、わたしは戻る気はない。
「ううん、きちんと何があったのか知りたいから最後まで見るよ」
「しかし顔色が悪い。ここは素直に言うことを聞け」
彼は近寄りわたしの肩に手を置いた。
転移させてでも上に連れて行く気のようだ。
それは嫌だった。だから今まで言わなかった心の内を吐露することにした。
「わたし、エルグラン王と旅の連れの魔導士と神官への怒りで、こんな世界知ったことじゃない。さっさと帰ってやるって思ってた」
「そう怒りを覚えても当然の扱いをお前は受けたと思うぞ? 勝手に異世界から拉致されて聖女としての働きを強制された。しかもぞんざいな扱いをされたのだから」
魔王はわたしの心情に共感してくれた。
視界の隅でヴラドが大きくウンウンとうなずき、ゲーデも心なし同情的な目を向けてくれている。
「でもわたし、この世界の本当の歴史を、あなたの側の事情を、聖教会本部で知ってから、この世界をちゃんと見ようって思っているの」
魔王は目を見張った。
「それまでのわたしは聖女としての働きは押し付けられてやっていた。迷惑でしかなくて、自分の意思と関係なくしょうがなく力を使わざるを得なかった。卑屈で、優しくなくて、自分のことしか考えてなかった。自分のことでいっぱいいっぱいだったの。でも一生懸命に世界のために動いてるあなたや魔王一派のみんなを見て初めて自分の意思で、聖女の力を世界のために使おうと思ったの」
みんなは静かに聞いてくれている。
「世界のために聖女の力を使う気になった今は世界のありのままをきちんと知りたい。きちんと向
き合いたいの。優しいところも残酷なところも」
「辛い思いをするだろう。傷つくこともあるだろう。それでもいいのか?」
「うん。それがわたしの意志」
「そうか」
魔王が優しい目をしてうっすら微笑みを浮かべた。あまりに優しい目だったので心臓がどきりとした。
「強くなったな、お前は。いや、もとから気は強かったからこれはお前の本来の心の強さなのか」
「そう…かな?」
自分では打たれ弱いと思うのだけれど。
「魔王に啖呵を切った女は強いに決まっている」
「あ、あれはっ その勢いあまってというか…」
魔王との初対面の時のことを引っ張り出されて恥ずかしくなる。あの時は従属の術から解放されてテンションが上がって勢いあまって魔王にも食ってかかってしまったけれど、実力差や本来の事情を知った今では穴を掘って埋めたい記憶だった。
少し離れたところから二人のやりとりを見ていたヴラドはほうっと吐息を漏らした。
「あぁ〜、なんか聖女様に対する陛下の心情がわかってきたかも。普段はどこか自信がなさそうなのだけれど芯のある女の子だったんだね。なんか目が離せない。そういうところ魅力的だなぁ。ゲーデもそう思わない?」
「……」
「同意はしないけど、ちょっと見る目が変わったかな?」
「…さあね」
ゲーデは感情の読み取れない無表情な顔で、自らの意志をもって聖女としての力を使う道を歩み出した少女をしばらく眺めていた。
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