48 王子に会う正攻法
いつもより遅れましたが昨日の分の投稿です。
「おーい、巡回してた騎士団呼んできたぞー!」
酒場の入り口で外からきたおじさんが大きな声で知らせた。のした冒険者たちを捕まえてもらうために騎士団を呼びに行ってくれた人が戻ってきたようだ。
「リンカちゃん、ゲーデ、面倒に巻き込まれる前に行こうか」
肩にポンっと手を乗せてきたヴラドによってわたしたちは転移でその場を後にした。
「お、騎士団が来たか。あんたたち三人にも聞き取りがあるだろうから…って、あれ、どこ行った?」
酒場から少し離れた暗がりにある路地に移動したわたしたちは、店内に入っていく揃いの灰色の団服を確認すると静かにその場を離れた。
「件の王子は海の上にいたとはね。船旅は楽しいだろうなぁ〜」
人気の無い夜の通りを歩きながら先頭をゆくヴラドに声をかけた。
「ねえ、これからどうするつもり? オーランドのテオドール王子だっけ。直接会うの?」
「うん、その方が余計な手間が無いからね」
「声をかけたとして一国の王子が会ってくれるものかな?」
「さて、それは後々手段を考えるとしようか」
わたしたちは大きな船が数隻停泊している港に到着した。あたりは暗くなっていて視界は悪い。
「ああ、あそこにオーランド王家所有の船が停まっているね。国章の鷹をモチーフにした船首がそうだよ。ふむ、王子が乗っていたのがあれじゃ無いかな?」
「じゃあ今日のうちに帰国していたってこと? なら今はお城に帰ってるよね」
「貴様らそこで何をしている?」
背後から声をかけられて心臓が跳ねた。後ろを振り返ると灰色の団服を着た一人のイカツイ男性。さっき酒場に駆けつけた騎士団と同じ服である。これはまずい。
静かに同行していたゲーデがわたしと騎士の間に立った。まさかいざとなったら守れる位置についてくれたのだろうか? 彼の左腕は腰の剣の鞘を掴んでいる。いつでも抜剣できる体勢をとっているということだ。
「遅くまで巡回お疲れ様です。なにも異常はありませんか?」
「貴様らを見つけるまではな。繰り返す、ここで何をしている?」
相手の詰問にビクついてしまう。
こういう緊迫感ある圧力はどうにも苦手でちょっと怖くもある。四天王の二人がいなければ怖くて半べそをかいているところだろう。いやそもそもその内の一人に問答無用で連れてこられなければこんな事態に直面していないのだけれど。
しかしどうにも怪しまれているようで相手からの警戒を感じる。
「僕はグリューフェルト伯爵。とある国の者なのですが、高名なテオドール殿下に拝謁したく思っていたのです。しかし船を見る限り残念ながらすれ違いになってしまったようですね」
心底残念そうな表情を浮かべヴラドはため息を吐いた。演技が板についていらっしゃる。きっと今までもあちこちでこんな芝居を繰り返してきたのだろう。
「胡散臭い」
ゲーデがぼそりと呟き驚きつつも同意した。
「伯爵! それはご無礼を致しました! 殿下は異国の客人から知識を得るのを好まれます。ぜひ王城をお訪ねください」
え? なんだか急に好意的だけどいいの?
「おや、僕のような者が突然殿下を訪ねてよいものなのかい?」
「はい。わがオーランド王国は開けた国であり、他国からの知識人、力ある者、または瘴気や戦火に追いやられた難民などを迎え入れてきた歴史があります。それにより国が発展してきたのです。そうしたことから、できる限り他国からいらした方と交流を持ちたい考えの王族の方々なのです。特に年々境界が国を飲み込んできていますから、瘴気についての情報をお持ちなら大歓迎です」
思わぬ形ですんなりテオドール王子に会えそうだ。
しかしずいぶんと意欲的に異国人と交流をもっているようだ。さっき会った冒険者たちも生まれも育ちもこの国だという割に名前の雰囲気がバラバラだった。遡るともしかしたら異国出身の先祖がいるのかもしれない。
「王城を訪ねてすぐ会ってもらえるものかな?」
「それははっきりとは申し上げられないです。ただ殿下とお会いしたいお客人は大勢おりますので、大抵は順番待ちをしていただくことになるかと…。身分を問わず受け入れておられるので常に30人程はお待たせしております」
待ち人数を聞いてがっくりきた。
正攻法でいけるかと思ったけれど、これはいつ会えるかわからなそうだ。
お読みいただきありがとうございます!
おもしろかったと思っていただけたらぜひブックマークや評価をお願いします。
執筆のモチベーションが上がります!




