49 食い下がっている?
また一日遅れましてごめんなさい。
睡魔よ去れ!(理由:また寝落ち)
巡回の騎士は国の関係者に渡されている異国人推薦状なる白い便箋の紹介状を渡すと去っていった。また、夜に港を徘徊すると良からぬことを船にするのではないか、あるいは密航を目論んでいるのではと怪しまれるので早々に立ち去るようにとも告げて行った。わたしたちはまた別の巡回の騎士に見つかる前に町中の人気のない大通りに移動してきた。
しかしせっかく知った正攻法でテオドール王子に会うのは時間がかかりそうだ。残念。
でも特別急いでいるわけではないから順番待ちでもいいのだよね。なら申し込みだけしといて引き上げて後日また来るのでも…
「うーむ、別の手を使おうかな。今度は片っ端からお店で奢って『テオドール殿下会いたい』を繰り返して同情した人々の噂に乗って本人の耳に入るようにーー」
「ヴラド、急ぎではないのだから大人しく面会の順番待ちをすればいい」
確かに噂にはなりそうだけれど駄々をこねるしょうがない外国貴族として恥ずかしい思いをしそうだ。お金もかかりそうだけれどその資金はどこから出るのだろう? 魔王城に経費として申告しようものなら、城内の実務の実質的最高責任者のツヴァイに問答無用で氷漬けにされるのでは?
凍り吸血鬼を回避すべくヴラドを止めに声をかけようかと思ったわたしより先にゲーデが動いた。酒場で件の連中をのしたあとはしばらく大人しく同行していたけれど、わたしと同じ意見だったようでヴラドを制止してくれた。
「いや、せっかく国に身軽な王子が帰っているのだからこの機に会いたいな。僕たちも忙しい身だから
次にこの三人が揃うのはいつになるかわからないし」
「面会手続きだけしておいて、実際会うときはヴラドとその眷属でオレと聖女に変身すればいい」
「そんなつれないことを言わずに一緒に貴族と護衛ごっこを楽しもうよ〜 僕、町遊びをしばらくしていないんだよ、日頃一生懸命労働に従事している僕の息抜きに付き合ってよゲーデ〜」
「やめろ触るな離れろ」
ヴラドはゲーデに抱きつき頬擦りをされ迷惑そうな顔をして嫌がっている。でもそんな反応をしつつ力ずくで引き離さない。本気で嫌がっているわけではなく照れているのだろうか。
これまでの態度や言動を見るにわたしと同年代くらいの精神年齢かと思っていたけれどもう少し下の中学生くらいかな。
それにしてもヴラドは遊びたいと言ってはいるけれど本心でいっているのだろうか?
どうも別の理由があって食い下がって引き止めようとしている気がする。
ヴラドとは対して関わっていないから人となりを知っているとはいえないけれど、思慮深そうな人物に思えるから軽薄な感じもわざとそうしているのではないかと思っている。
「ねぇ…」
「アンタの遊びに付き合う気はない。…それに夜も深い。そこの聖女はそろそろ城に帰すべきだ」
ヴラドの真意を聞こうと思い声をかけようとしたところ、ゲーデがわたしへの配慮を口にして驚いた。でも思い返してみれば港で騎士からわたしを守れる位置に移動したし、酒場で冒険者に絡まれた時に声を上げたのはわたしに助けに入ったともとれるタイミングだった。積極的に関わり合いになりたくはないようだけど、なんだかんだで目をかけてくれているようだ。
「それならこの町の宿に泊まろうよ! 高級宿なら城と変わらないくらいの質の部屋と食事が出るよ! なんなら食事は海産物が豊富な港町のここのほうが上かもしれない。さあ、僕とめくるめく夜を共に過ごさないかい、美しいお嬢さ……イタタタッ!!」
ヴラドの頭を掴んだそれは、そのままその身を持ちあげたためかの吸血鬼の足が地面から離れバタバタしている。
それは夜の闇に溶け込む漆黒の服を見に纏い、二つの紅い瞳を持っている。
美しい顔を不機嫌そうに歪ませた魔王がそこにいた。
「俺の許可なく、勝手にリンカを、夜の人間の町に連れ出した理由を聞こうか。ヴラド、ゲーデ」
「は…」
ゲーデは直立不動でビシッと気をつけをしてイタズラが見つかった犬のような気まずそうな表情を浮かべていた。
無断でわたしをつれてきたのかヴラドは。
魔王は二人を睨むとこちらに視線を向け、わたしの頭から爪先までを見やり、目をすがめた。
あれこれわたしも叱られるんだろうかと内心でひとりごちた。
わたしたちはひとまず魔王城に帰った。そして現在魔王の執務室でヴラドとゲーデは床に正座させられている。この世界に来て初めて正座している人を見たがそれがまさか四天王になるとは思いもしなかった。
彼らの正面に魔王が腕を組んで仁王立ちをし、その左右にツヴァイとガエルが立ち並んでいる。そしてわたしは正座させられている二人の後ろに立たされている。これは叱られるポジションではないか。巻き込まれただけなのに理不尽ではないだろうか。
「さて、聞き取りをはじめようか」
どちらかといえば聴取だと思います。
魔王がヴラドへと問うた。
「何をしにあの町に行った?」
「陛下に依頼されたオーランド王国の王子の調査のために」
「何故夜に行った?」
「僕の活動時間なのと、酒場で情報を得るには夜が向いているから」
「何故いつものように眷属の部下を使わず、自ら赴きゲーデとリンカを連れて行った?」
ヴラドはにっこり笑顔を浮かべるとのたまった。
「あの国で邪神信仰者たちが暗躍している情報がうちの子からきてね。聖女のリンカちゃんをあちらさんは狙っているから近づいてきたところを捕まえようと思って。もちろんリンカちゃんを危ない目に合わせるつもりは一切ないから護衛にゲーデを連れて行ったんだよ」
知らないうちに囮捜査をさせられていて衝撃を受けた。
魔王が顔をしかめ、ガエルが驚き、ツヴァイは無表情、ゲーデが怪訝な顔をしてヴラドを見つめてからわたしを見た。
「というのが1つ」
「1つ? 他にも理由があるのか?」
「ありますが、人払いをお願いします」
ヴラドの人払い発言にいぶかりながらみんなが出ていき、魔王とヴラドとわたしが残された。
「人払いは済ませたが、それで?」
「ゲーデとリンカちゃんを一緒に連れて行ったもう一つの理由。これは僕の勝手な言い分なのだけれど、リンカちゃんにゲーデの人嫌いのリハビリをさせて欲しいんだ」
リハビリとは予想外。
そもそもあなたが『あれはゲーデ自身の問題だからおいそれと僕らが首を突っ込むのも良くないからねぇ。なるべく近寄らない方が聖女様には気が楽だと思うよ』と言ったのに手のひら返しとはどういうことだ。
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