46 グリューフェルト伯爵
「あんた、すっげー強いな!!」
近くに来ていた三人組のうちの剣士は、つかつかと近寄りゲーデの前に立ち素直な賞賛の声を上げた。
それに一拍遅れてわたしたちにあっけに取られて固まっていた周囲から歓声があがった。
なんで?
下劣な奴らだったとはいえ一方的にしばき倒しちゃって引いてないの?
「あいつら恐喝や喧嘩で相手を半殺しにしたり、女性へのしつこいナンパやらするタチ悪い連中だったんで同業の俺たち冒険者にも鼻つまみ者でな!」
「そのくせ強いから手に追えなくて、情けなくも取り締まる騎士団でも頭が痛い話だったらしい」
「いっつも素行が悪くて町のみんなが迷惑してたからスカッとしたぜ!」
店内にいた冒険者らしき人々も町の住人だろう筋骨隆々のガテン系らしきおじさん達も、それぞれそうとうしばいた連中に恨みつらみや怒りを抱いていたらしい。みんな心からザマァ展開を喜んでいるようでめちゃくちゃいい笑顔を浮かべている。
「ようし、騎士団に通報してコイツら捕まえてもらおうぜ! 容疑は恐喝だ!」
「ついでに器物損壊も付けてな!」
がはがは大きな声で笑いながら気絶した奴らをどこからか持ち出した縄で縛り始めている。壁や天井に突き刺さった奴らは脚立を持ってきたり、数人で足を引っ張ったりしている。…足がピクピクしているから一応生きているようでホッとした。
「騒がせてみなさんに迷惑をかけてしまったね。僕からのお詫びとして今日のみなさんの飲食代は僕に払わせておくれ」
「マジか!!」
「貴族の兄ちゃん太っ腹!!」
「フーーーッ!!」
ヴラドが奢りを宣言し、客は全員総立ちになりさらに盛り上がり追加の酒を注文している。ヴラドは店員を呼んで皮袋に入ったお金を渡している。あれには迷惑料やら壁や天井の修理費も入っているのだろう。店員はホクホク顔で奥に引っ込んでいった。
「では改めて、このグリューフェルト伯爵の振る舞い酒を楽しんでおくれ。乾杯」
「乾杯!!」
ヴラドは赤ワインのグラスを掲げるとグラスの中身を口に含んだ。
それに周囲が酒の入った木のジョッキを打ち合わせてぐいっと飲んだ。
周囲はどんちゃん騒ぎになった。
なんだかわからないけれどヴラドが場の空気の主導権をいつのまにか握っていた。
いつもマイペースに好き勝手やってる引きこもりな印象だったから、意外なリーダーの素質に驚いた。とてもわたしには真似できない立ち回りだ。
もしかして実際に人間だったころは貴族とかの人々の上に立つ階級だったのかもしれない。
「ねえ、グリューフェルト伯爵って…」
こっそりヴラドに近づいて疑問を耳打ちした。
「ふふ、僕の仕事中に名乗る名だよ。好きな白ワインに使われる葡萄からとったんだ〜」
普段飲んでいる赤い液体はどうやら赤ワインだったらしい。生き血ではなくて一安心だ。赤ワインを飲む姿しか見ていないけれど、白ワインも好きらしい。
「この身の上になって、なぜか赤ワインしか飲めない体質になってしまったけれどね」
魔族になって体が受付なくなってしまった?
白ワインは人間だった頃に好きだったようだ。
魔族になって好きな物が口にできなくなる人もいるのか。それは結構つらい。
「あのっ、伯爵様はどうしてこの酒場にいらしたんです?」
ゲーデに話しかけていた剣士はゲーデに話しかけて鬱陶しそうな顔と態度をとらえているもめげないでいた。その彼の仲間の深緑色のローブの魔導士と腰に双剣を下げている二人がわたしたちに話しかけてきた。
「あっ、すいません名乗りもせず! 僕は魔導士のシュレです。こっちは双剣使いのワズ。それであっちがリーダーで剣士のアルフです。ちょっとアルフ! 伯爵にご挨拶しないと! それにその人迷惑そうにしてるからやめなって!」
「暑くなると相変わらず周りが見えなくなるよなアルフは」
「すっすまん! すいません、ご紹介に預かりましたアルフです。このパーティでリーダーをしています。実は助けに入るつもりで注目していたのですが、まったくもって必要ないお節介で思い上がりでした!」
はははっと三人で朗らかに笑った彼らはずいぶんとお人好しのようだ。それで近くにきていたのか。面倒ごとになるだろうにわざわざ首を突っ込んで人助けしようなんて、なかなかできることじゃない。
「いえいえ、ご好意を嬉しく思います。僕は荒事に慣れていないので護衛の二人に手を煩わせてしまってばかりで」
にこやかに応対する四天王の一人に「誰が荒事に慣れていないって?」と内心で突っ込んだ。
「剣士の方、とんでもなく強いですね。動きを目で追うのがやっとでした」
「いえ、見えていたならあなたも相当な場数を踏んでいるのでは?」
「いやいや、まだまだ上級にも上がれません身の上ですから」
いや、あの動きが見えてたなら充分実力者なんじゃないかな。四天王の一人の動きが見えるなら動体視力はかなりいいだろうしもっと成長もしそう。
「あなた方、冒険者とのことですが情報には敏感ですか?」
「そりゃあ最新の情報を把握しておくのは冒険者の鉄則なんで」
どこそこが災害があった、魔物が出た、戦があった、疫病があった、などを知っておかないと身の危険がある。依頼内容に関係するかもしれし、知らずに巻き込まれでもしたら目も当てられない。
「この国は長いですか?」
「ええ、生まれも育ちもこの国なのでかれこれ20数年です」
「ん〜、ならこの国のことには詳しいですよね?」
「もちろん! なんだって、は言い過ぎですがたいていのことは」
「ではこの国の王子ってどんな方ですか?」
「へ?」
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