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44 セオリー通りに

「それじゃあ僕について来てね!」

「ちょっ、ちょっとっ」

「おい」



ヴラドは何の説明もしないままさっさと街中を歩いていく。慌てて後を追うわたしと、怒りの感情をのせた目でヴラドを睨みその場を離れないゲーデ。

わたしはちらちらと二人の間で視線を彷徨わせて、どうしたものかと困った。このままでははぐれてしまう。



「ゲーデ」



いつもと違う軽薄さのない声色のヴラドの呼びかけにゲーデはしぶしぶ舌打ちしながらも従い、わたしから距離をあけてついて来た。

背後の存在感に居心地悪い思いをしながら意外に速歩きのヴラドについていく。



「ねぇ、どこに向かってるの?」

「ふふ、まずは例の人物の情報を集めないとね。情報を集める場のセオリーといえば?」



彼が足を止めたのは酒場の前だった。

ヴラドはさっさと中に入っていき、またわたしも追いかけて入店した。

酒場の中はなかなかに盛況で、ほとんどの席が埋まっていた。お客さんは冒険者パーティやガタイのいい男性陣ばかりで酔って出来上がっているものもすでにいる。

そんな中に入ってきたヴラドは視線を集めた。

魔王城にいるときはこれぞ吸血鬼といった感じのマントと上等な服だったのに対して、今は茶色い皮のコートに黒系統のパンツスタイルに革のブーツを履いている。シンプルながら服の質がかなり良さそう。一応本人的にはかなりラフで忍んだ姿なのだろうけれど、荒くれものの男達のなかに貴族然とした美形のコート姿の優男。

浮いている。目立っている。

わたしでもわかる馴染まなさに「これはやってしまったのでは?」という考えが浮かぶ。

あれ、この人、魔王一派の諜報部のトップだよね?

諜報ってこっそり密かに目立たず行動し情報を集めるのでは?

わたしが遠い目になっているとヴラドが手招きする。



「あのテーブルで打ち合わせをしようか」



周囲に聞こえるような声量で呼びかけてきて、酒場の中心辺りの空いていた丸テーブルに二人して腰掛けた。遅れてゲーデが入店し、中の客の様子に不機嫌な顔がさらに歪んだ。かなりの嫌悪感を抱いているようだ。



「こっちに来て座ってくれたまえ」



これまた通る声と声量でゲーデを手招きし、殺気すら感じる目を向けられる。しかしヴラドは飄々としていてなおも手招く。睨みつけるゲーデの迫力にわたしは恐々としていた。悪いことを何もしていないのにいたたまれない。すでに魔王城に帰りたくなってきた。助けて魔王。ツヴァイでもガエルでもいい。

そんななか笑顔で店員がテーブルに近づいてきた。

こんな空気放ってる中に接客してくるなんて勇気あるな店員。



「ご注文はお決まりで?」

「甘口のおすすめの赤ワインと、リンゴのシードルと、あそこにいる坊やの分のオレンジジュースを」

「誰が坊やだ!」



ゲーデがさらに怒りのボルテージが上がったようで目がつり上がり、青筋まで浮かべている。

やめて、もう煽らないで。ゲーデがキレてしまわないかとハラハラする。



「だったら大人しく席に着いて説明をさせてくれないかな? このままじゃあ先に進められないよ」

「チッ」



舌打ちするとゲーデは同じテーブルの空いていた席にどかりと座り込んだ。腕組みをして下からヴラドを睨め付け「さっさと話せ」とばかりにあごをしゃくった。ガラ悪っ。

ゼルマから聞いた『朴訥、真面目、声を荒げない、思いやりにあふれる』だのの好青年像がかすむ。


そしてヴラドがテーブルに身を乗り出してわたしたちに寄るように身振り手振りで促し、わたしもテーブルに身を乗り出した。ゲーデはそのまま近寄らない。

そして声をひそめてヴラドは話し出した。



「オーランド王国の王子を調べろと僕らの陛下から命を受けたのだけれど、うちの子みんなそれぞれ別件に取り掛かってるから手が離せなくてね! だから僕自ら動こうと思い立って。でも一人だとやり辛い。つまりは人手が足りないから二人に手伝って欲しいなって」

「お手伝い?」

「僕がお金持ちの貴族のおぼっちゃんで、リンカちゃんとゲーデが雇われ冒険者の護衛役。この形で情報収集したいなと思ってるんだ」



バンッ!


ゲーデが付き合っていられるかといわんばかりの態度でテーブルに手を叩きつけ立ち上がった。



「オレは帰る」

「えー、せっかくオレンジジュースが来たのに」

「茶番に付き合っていられない」



厨房の方を見ればトレイにのせた赤ワインとリンゴのシードル、オレンジジュースが運ばれてくるところだった。よく笑顔で店員はこの空気の中持ってきたよ。この人メンタルすごいな。

またリンゴのシードルってわたし用なんだろうけどお酒だよね? わたしまだ未成年なんですがって、この世界だと15歳過ぎていれば伝統的に飲酒していいんだったっけ。



「大丈夫だよ、そういう設定なだけだから。それにそんなに時間は取らせないよ。だって…」

「よう、貴族のにいちゃん達。揉めてんのか? 俺たちが相談に乗ってやるよ」



3人の男たちがわたしたちのテーブルに近寄って声をかけてきた。



「どういうわけか僕が酒場に行くと、情報のほうからすぐ飛び込んでくるからさ。不思議だね?」



お金持ってそうないいカモに見られるんだろうね。


この世界では飲酒に年齢制限や禁じる法律は無いため、昔からの慣習で15歳くらいから飲酒オーケーというゆるい考えです。


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