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43 サプライズは時と場合と人による

ーー遡ることその日の昼。



「はぁ…」

「ど、どうしたんですかリンカ様?」

「…なにか悩み事でしょうか?」



麦わら帽子を被り腕を捲ったアルマと、いつもどおり布を頭から被ったジョゼフィーヌが屈んだわたしの顔を覗き込んできた。


昨日は一日中あちこちの地脈を見て回ったのでさすがに疲れた。今日は魔王城で一日過ごしてもいいか魔王に聞こうと思って朝に食堂にいくと、向こうから今日は一日城でゆっくりするように言われた。



「体力的に疲れただろうし、一日の終わりに精神的にも疲れただろう。すまないな」



優しい。そしてよくわかっていらっしゃる。

そう、昨日のゲーデの態度に思いの外わたしの心はダメージを受けていたようで、落ち込んでいた。

わたしが悪いわけではないのはホッとしたけれど、あれほどあからさまに避けられるとくるものがある。



「わたしは魔王城のみんなの温かさにすっかり甘えていたんだね…」

「「??」」



二人が揃って首を同じ方向に傾げた。

どうやら伝わらなかったらしい。



「最初、魔王城に住むことにしたけどわたしは結構びくびくしてたんだよ。でもみんなわたしを温かく迎え入れてくれたでしょう? うれしかったし受け入れてもらうことに慣れてきていていつのまにか当たり前みたいに思ってたみたい。今回のことで調子に乗っていたなぁって反省したの」

「それで甘えていた、ですか?」

「うん、みんなの人の良さに甘えていたな、って」



久しぶりに顔を合わせたゼルマも今日は手伝ってくれていた。

わたしたちは今、魔王城の中庭の一角に家庭菜園を作るべく集まっていた。


先日の中庭の浄化後、料理人を中心にして使用人のみんなで家庭菜園に植える野菜について大会議が開かれたそうだ。

アルマとジョゼフィーヌがわたしと育てる野菜について話し合いをした日、使用人たちに何が起きたのかと詰め寄られたらしい。中庭で何か変化があったのはなんとなくわかったらしいけれど、非戦闘員には瘴気の気配がなくなったなんていうのは離れていてはわからなかった。直接近くに行けば魔族の端くれとしてわかるらしく、確認に行った者が「いつの間にか中庭の瘴気がなくなっている」と伝えるとちょっとした騒ぎになったようだ。

そうして詰め寄る使用人たちにとって食われる思いをして怯えながら一連の事を話すと、みな拳を突き上げ歓声を上げ中には泣き出す者もいたそうだ。

「家庭菜園くらいで大袈裟な」と思ったけれど「この生命の誕生しない死の大地に緑が蘇るのだ!」という奇跡の瞬間だったらしい。

そういえば緑1つない土地だったと思い出し、自分の考えの浅さを恥ずかしく思った。

そして彼らは城中にすぐに伝達し、遠く世界中に広がった仲間の魔族たちに念話で一斉に伝達した。


『この地で育つ野菜の種、あるいは苗を人命を賭して推薦せよ!』と。


いや、事が大きくなりすぎである。

城のメンツで、内輪で、試しにいくつか植えてみればいいじゃない。

そう言ったところ「1000年不毛の地で復活の大地での第一作目に選んだ植物がもし万が一枯れでもしたら耐えられない」とのこと。そんなにか。

そんななか選抜された精鋭が今回植える種たちだ。



「リーフレタス、かぶ、ほうれん草。無事に育つといいね」



魔王支配領域は曇りが多くほぼ常に瘴気により日差しが遮られ気温は低めで秋のような気候。

使用人大会議において秋に植える野菜が合っているのではないかとの意見が集まり、比較的育てやすい3種が選ばれた。

手際よくゼルマが土を盛って畝を作り、アルマが小さなスコップで穴を掘り種を植え、ジョゼフィーヌがジョウロで水を撒いた。



「日が足らない分は魔法のライトでも使いなんとかします」

「みんな手際がいいね。慣れてるの?」

「わたしとゼルマはお家で野菜を育てていたから慣れてるよ」

「わ、わたしはただ水を与えただけですので…」

「そっか。わたしは農業は全然わからないからみんながいてくれて助かったよ」



ゼルマがチラッとアルマに視線を向けると、今度はわたしに思慮深そうな目を向け落ち着いた声で問いかけた。



「…僕たちは聖女様に良くして、聖女様は僕たちに良くしてくれています。僕たちはお互いに助け合っています。あなたのために僕たちにできることはありますか?」



一歩引いていたゼルマがわたしに歩みよってくれた。うれしいなぁ。

でもこれは解決が難しい問題だから頼るに頼れないよね。



「話してみるだけでも気が楽になるらしいですよ?」



話すだけでもかぁ。



「…じゃあ、一つ話してくれる?」

「? はい」

「ゲーデってどういう人?」

「…悩みの内容を打ち明けられるものかと…」

「いいから、教えて」



キョトンとしたアルマそっくりな可愛い顔で、戸惑いながらゲーデの事を教えてくれた。



「口数は少なく朴訥で真面目な方です。仲間意識が強く、さりげなく気配りし決して声を荒げることはしません。初対面ではみんな怖がりますがだんだん思いやりにあふれる優しい方だとわかり慕うようになるそうです」

「…いい人だなぁ」



普通に性格がいいようで、友だちだったらどんなに…

残念だなぁ。それは難しいだろう。

ため息を吐いたわたしを3人は顔を見合わせて心配そうに見ていたことをわたしは気づかなかった。


その日はぼんやりしながら一日過ごした。気力が湧かなくてとりあえず書庫に行って本を開いて流し読みをしたり、城中に置いておいた昌石が黒ずんでいたので浄化してまわったりした。自室の窓から中庭をただただ眺めたりもした。

ちなみにゲーデには一度も出くわさなかった。


ーーーその行動を陰ながら観察している者がいた。


夜、ベッドに入る直前に部屋の扉がノックされた。

こんな時間に誰だろうと思いながら扉を開けると、そこにはヴラドの姿があった。珍しいお客さんだ。

彼はにっこり笑うとわたしにある物を差し出してきた。



「これに着替えて」



それはショートパンツとその下に着る黒いレギンス、袖の短いトップスで、女性冒険者が着るような動きやすそうなものだった。

なんだかわからないまま着替えて、扉を開けて部屋の外で待っていたヴラドに着替え終わった事を知らせると手を引かれ耳元で囁かれた。



「夜のデートをしよう」



ゾワッと鳥肌が立つのと同時に体が浮遊感に包まれた。そしてまばたきをする間に足が地面につく。

慌てて周りを見回すと、人通りもまばらな街中。

ここはどこだろうと思いながらあちこちに視線を向けると、噴水の脇に立っていた意外すぎる人物が目に止まった。彼もまた驚き怒りを滲ませた顔をした。どうして彼がここに?



「驚いたよね! サプライズは成功だ」

「な、なんで?」

「…ヴラド、どういうつもり」

「さぁ、僕らで仲良くオーランドの王子様を見つけよう!」



こうしてわたしは魔王支配領域と人の世界の境界に接している国、オーランド王国に連れてこられたのだった。


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