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37 シオンとまどか

「シオン…綺麗な名前」



響きがかわいくて魔王としての彼のイメージとはギャップがあるけれどとてもいいと思う。

でも偽名のリュシオンと似ていてうっかり真名がバレてしまう危険がありそう。

魔王はわたしを紅い目を細めて見た。



「ーーーシオンという名はアーサーがつけた」

「え?」



ちょっと待って、アーサーが名づけ親?

アーサーって初代勇者のアーサーだよね?

彼本人と近い年齢なんじゃないの?

でも名づけって赤ちゃんにするよね。

ならアーサーかなり年上?

まさか彼とアーサーは親子くらい年齢差が…



「お前、アーサーがおっさんだとでも考えていないか? 違うぞ」

「あ、違うの? でもアーサーが名づけ親ってどういう…」

「真名とは何だと思う?」



真名とは何か。哲学的な問いかけだろうか?

普通の回答でいいのかな?



「えっと、本名、本当の名前、だよね?」

「そう、本当の名だ。名は普通は親や保護者がつけるものだ」

「そう、だね」

「俺に真名はそもそもは無かった。親は俺に名をつけなかったからだ」

「え?」



名前をつけなかった?

どういうこと。



「俺は名無しで、親からは"おい"だとか"お前"だとか、時には"リュシオン"と呼ばれた。"リュシオン"の意味は知っているか?」

「ううん…」

「"悪い夢"という意味だ。親ーー母親にとって俺はそういう存在だった。母親は俺を望んで産んだのではなかった」

「それは…」

「遠い昔のことだ。気にするな」

「気にするよ…」



魔王は子どもの頃、どんな想いをしてどんな日々をすごしたのだろう。それを思うと…

彼は世間話をするように淡々と話していて、なんとも思っていない様子だ。



「お前はあいつと同じ反応をするんだな。アーサーもそんな風に俺をいたわるような目を向けた」

「アーサーが」

「俺はリュシオンと皮肉を込めて名乗るようになった。名乗ると相手はたいていは怪訝な顔をした。アーサーがなぜそんな名を名乗っているのかと訊いてきたので由来を話したら、ちょうどお前のような顔をした」



わたしみたいな顔ってどんな顔だというの。



「悲しげに眉を下げて、同情は失礼だと口をつぐみ、俺にかける言葉を探しているお人好しの顔だ」

「ちょっと、茶化さないでよ」

「はっ、それもあいつに言い返された」



楽しそうにひねくれ者が口端を上げている。



「そして次いであいつが言った。『僕が名づけよう』と」

「アーサーが…」

「『シオン、お前の名はシオンだ。"夢"や"希望"という意味だ』とな。リュシオンから少し変えただけで芸がないと思ったものだ」

「…いい名前もらったね」



魔王はなにも答えなかったけれど、ちょっと自慢げに口端を上げていた。



「お前は"まどか"か。親がつけたのか?」



どきりとした。

雰囲気悪くしそうで答えづらいけど、魔王は腹を割って色々話してくれた。わたしも、勇気を出して話そう。



「うん、そう」

「意味は、"丸い"か」

「意味を持たせたわけじゃなくて、なんとなく名前の響きでつけたらしいよ。うちの親はわたしに興味ないから」

「…親とはうまくいっていないのか?」



魔王がわたしの心情を気遣いながらきいてくれた。

真剣に耳を傾けてくれている。



「両親はわたしができたからしょうがなく一緒になったらしくてね、夫婦仲は冷め切ってて。二人とも仕事人間だからわたしはお荷物らしくて興味ないんだ。わたしが帰ってきてないことにも学校から言われるまで気づかないかもしれない」



異世界召喚のセオリーとして召喚されてから帰るまで元の世界の時間は止まっているものだけれど、わたしの場合はどうかな?

まあ、帰れるかもまだわからないけれど。



「帰ったところで喜ぶとも思えないしね」



そう思い返すと、日本に帰ったところでね、とも思ったりもする。

友達もいないぼっち人間だったから待っていてくれる人は特にいない。

あの時は理不尽な扱いに嫌気がさしたから帰りたいと強く思っていたけれど今となってはその自分の気持ちもよくわからなくなってしまった。


最近、日々が充実している。

使命感をもって自らの意思で選んで決めて過ごしている。それが人助けになっていて、そのことで喜んでくれる人たちがいる。

ちょっと、生きがいのように感じている。



「俺とお前、お互い親の愛情には恵まれなかったようだな。似た者同士というわけだ。そんなお前に人生の先達たる俺から言葉を贈ろう」



わたしを励ますつもりなのか急に魔王が年長者感を出してきて、アドバイスをくれるという。



「親は選べないが、友も仲間も仕える主も、自分で選べる。好きな者を自ら選び、好きな者と関わればいい。俺はそう生きてきた。お前もそうすればいい」



…いい言葉を聞いた。

そうだよね、親ガチャなんていうけれど、それ以外は自分で選べばいいんだ。

その人たちとの間に友情やらなんやら、愛情を育めればそれは幸せなことだろう。

こころの中のもやに光が差した気がした。



「仕える主ってアーサーに無理矢理決められたんでしょう? 自分で選んでないじゃない」



楽しくなり、さっきの発言の揚げ足を取ってやれば俺様な答えが返される。



「あんな大昔のことは忘れたな。第一、いまの俺は主として仕えられる方だ。お前も俺に仕えてみるか?」

「ご遠慮します。あんた部下は平気でこきつかいそうだもの」

「当然だ、俺が優しいご主人様なわけないだろう?」



部下をこき使っても、尊敬や信頼されてれば人はついてくるだろう。四天王や魔王城の使用人たちからは魔王への確かな尊敬や信頼や忠誠心を感じられる。だから優しいかはともかくいいご主人様なのではないだろうか。

頼り甲斐があるし、気配りもできるし、優しいし、強い。なんとなく魔王の配下の魔族たちの気持ちがわかる気がした。


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