12 魔王城での初日の終わり
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「すまんな、つい楽しくなって聖女殿をこれほど疲弊させてしまった」
「わたしも調査に気をとられてしまい申し訳ありませんでした」
「ううん、謝らないで。わたしも調子に乗っちゃったんで…」
執務室のソファーに寝かせられているわたしを囲んで申し訳なさそうにしている2人に謝罪された。
「でも限界は知れたからよかったじゃない?」
「確かにな。魔導書の魔物と戦ったことを加味するにオルトロス20体分倒せる魔力量がありそうだ」
「凄いではないか! 歴代の聖女とくらべて多いのではないか?」
「1000年前の初代に並びつつあるな。お前の魔力量は以前より増えているようだ」
「そうなのか?」
「うん、力を使うたびに増えていってるみたい。旅をはじめたころはスライム3匹で限界だった」
「それは少なすぎです。しかしこちらの世界に来てから一年足らずの間にずいぶんと急成長されていますね」
そうなのだ。
聖女の力を使えば使うほどその魔力量も魔法の威力も増えていっている。
半年ちょっとでここまで増えたのはひとえに恐怖に負けずに魔物と戦い続けたからだ。自分で自分を褒めてもいいと思う。
「ここで毎日浄化をたくさんしていればぐんぐん増えて強くなっていくんじゃないかな」
「1年後にはオルトロス50体はいけるようになるな!」
「そんな単純計算ではないでしょう」
1年後……か。そんな先に魔王城というかこの世界にいるかはわからないけど案外倒せるようになるかもしれない。
「しかしこれ程の力があるのだ。我らに協力してくれるとなるとどれほどのことができるのかと高揚してくるな!」
「それは同意します。常に我々は邪神による滅亡の危機に対し防戦一方でしたが、リンカ様のおかげでようやく攻勢に出られそうです」
ずっと弱まった封印を維持して問題の解決を先送りするしかなかったものね。なんとかしたくても聖女や勇者が協力しないとどうしようもなかったろう。
「どういう手順とか方法で瘴気を浄化したいとか、邪神の封印に手をつけたいとか、ある?」
「あるな。だがやるとしても明日だな。今日はもう力を使うのは禁止だ」
「はい… おとなしく従います」
「では夕食までゆっくり休んでください」
「あ、じゃあ手紙を書く道具をください。いまから書くんで」
「わかりました。少々お待ちください」
「では俺様もいくとしよう。うちのやつらをブラッシングしておきたい」
魔獣もブラッシングするのか。豆知識が増えた。
ガエルとツヴァイが部屋を出ていき部屋には魔王とふたりきりとなった。
「本当に眠らなくていいのか? 魔力が枯渇して体が辛かろう?」
「いや、大丈夫。ちょっと休めばすぐ回復するよ」
魔王は軽くため息をつくとソファーから離れた。
「手紙を書くなら他に誰かいると気が散るだろう。俺は隣の部屋にいるからなにかあったら声をかけろ」
視線を向けた先には隣室につながる内扉があり、私室と行き来できるらしい。
しかしながら魔王が部屋で何をするのか気になる。
「部屋でなにするの?」
「執務だ」
「執務?」
「支配地域での魔物の分布を確認し、強力な奴が増えているようなら排除を指示する。ほかにも部下の魔族たちに指示をすることが多々ある」
「魔物の駆除してるの意外… 魔族もいっぱいいるの?」
「数十人いる。この城にいるもの以外は各地に散って情報収集や魔物の排除を人に紛れてしている。ほかにも邪神教徒の根城を潰したり、邪神に対抗する手段を探ったり、物資調達をしたりだ」
「密かにいろいろ動いてるんだ」
「ああ、他に人間の協力者探しもしているがそれは芳しくない。魔族と明かすだけで人間は逃げるし話を聞かなくてな」
「怖がられて埒があかないね…」
「お前くらいなものだ。魔王の俺に啖呵切ってきた肝の座った奴は」
「う…」
「とりあえずゆっくりしていろ。初日からへばるなよ」
憎まれ口を叩いて魔王は内扉の向こうに消えた。
そこに入れ替わるようにツヴァイがレターセットとインク壺、万年筆みたいなペン先のペンを持ってきてくれた。ツヴァイは水差しとコップも置いていきすぐに部屋から出ていった。
静かになった部屋でソファーから起き上がり腰かけた。背もたれに寄りかかってぼんやりと真っ黒な壁を見つめた。
「今日だけでいろいろあったな…」
しばらくぼんやりした後にペンを持ちインク壺に先っぽを浸しレターセットを広げた。
無事だということ。
魔王を助けたいと思ったこと。
魔王城で暮らすこと。
今日あったこと。
そういうことをありのまま書いた。
ウィルへの手紙は嘘や隠し事をしないで書いていこう。
嘘が蔓延っていて、血縁者だろうと信用できなくて、本当の名前も隠さなくちゃ命が危ない世界だ。
だからこそ信頼してる人には包み隠さず本音で話したいと思う。
ウィルに話しちゃいけないことがあったら魔王サイドから訂正が入るだろうけど、じゃなきゃ全部伝えるつもりだ。
手紙を書き終わると達成感からか気分が良かった。
その後うとうとしていたようで鐘の音で目が覚めた。
外は完全に夜になっていた。
魔王が内扉から入ってきてテーブルの上の封筒に目を止めて手にとった。
「送るか?」
「うん、よろしくお願いします」
手紙は手の中から消え、これでウィルのところに転移したはずだ。
「夕食の鐘が鳴ったから食堂に行くぞ」
「あの鐘、食事のお知らせ用なの? ほかには使わないの?」
「用途がない」
「えぇ… そういえばあの鐘は誰が鳴らしてるの?」
「使用人だ」
「使用人、誰かしら一人くらいは会ってみたいんだけど…」
たわいないやりとりをしながらわたしたちは食堂に向かった。食堂ではさらにガエルとツヴァイが加わり「使用人はどこにいる?」というわたしの問いかけに「そこいらにいる」「会ってもつまらないですよ」とかこれまたたわいない会話を弾ませた。
「ではまた明日」
「よく休め!」
食後はそれぞれ部屋に戻り寝るだけだ。
ツヴァイとガエルとは食堂前で別れ彼らは一階下のフロアの自室に降りていった。
魔王とわたしの部屋は同じフロアだから一緒に廊下を歩き、わたしの部屋の前で別れた。
「おやすみ魔王」
「…俺は眠らないが。…おやすみリンカ」
そういえば眠らないんだったか。
部屋に入るとまたテーブルの上に書き置きがあった。
『お風呂の用意をしてありますので、必要でしたらご利用ください』
だから直接言いなって。
そう脱力しつつありがたく使わせてもらうことにした。朝風呂をもらったけど中庭で汗をかいたからね。
お風呂で温まって用意された薄ピンクのネグリジェを着た。可愛いデザインに自分では絶対買わないだろうと思った。
髪をタオルドライして早々にベッドに横になる。
今日は疲れた。でも充実した一日だった。
まぶたがすぐに重たくなってわたしは眠りに落ちていったのだった。
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