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13 爽やかな朝の空気

肌寒さに目を覚ますとカーテンの隙間から光が漏れていた。朝のようだ。

昨日はかなり疲れていたようで、早めにベッドに入るとすぐに寝てしまった。夢も見ずに朝までぐっすり眠ったおかげで寝起きくら頭はクリアで体も軽い。

常に曇っていて弱い朝日による光の筋の中を黒いモヤが漂っている。



「瘴気、ほんと濃いなぁ…」



この魔王城は常に濃い瘴気に満たされていて逃れようがない。邪神が封印されている魔王の本体がある謁見の間の濃度は別格にしても、建物の中だろうと外の中庭だろうと変わらず濃い。


わたしは聖女スキルのせいか瘴気を感知できる上に見えるから視界はずっと煙が充満しているかのように悪い。ついつい薄目で見たくなりさらに見えづらい。

ーーこの部屋だけでも浄化してしまおうか。

この部屋はわたしに当てがわれたわけで、この部屋だけなら多少手を加えても問題ないだろう。たぶん。



「…ちょっとは綺麗になるかな。ホーリーエリア」



ベッドに寝たままのだらしない格好のまま、神聖魔法の結界を寝室いっぱいに張り、続いている居間にまで広げた。

光に包まれそれが収まると、さっきまであったモヤがすっかりなくなり視界が良くなった。



「おお、いい感じ」



満足して瘴気なしの綺麗な空気を吸い込むとようやく朝が来た、という気持ちになった。



「リンカ」

「ひぇっ!」



いきなり背中側から声をかけられて心臓が飛び跳ねた。

振り返ると魔王がベッドの脇に立っていた。

あ、魔王の目が紅くなっている。

魔王の瞳の色は体内の瘴気量を表していて、紅は濃くて紫が薄い。今は煌々と紅く光っていて、これぞ魔王という風貌に戻っている。

体内の瘴気混じりの魔力が増えたのだろう。

その美しい顔を顰めると訝しげに問いかけてきた。



「神聖魔法を感知したが何事だ? それに部屋の瘴気がなくなっているがどうした?」



そうか、魔王城での居場所は把握しているって言ってたし、行動も筒抜けなのか。

いきなりわたしが聖女の力を使ったから驚いて駆けつけたってことか。

だがしかし。



「とりあえず部屋から出てって!」



寝巻き姿を男性に見られるのは恥ずかしい!






身支度を整えて(やはりテーブルに書き置きがあり、『洗顔にご利用ください』と洗面器に水が張っていて横に拭く用の小さいタオルが用意されていた)食堂に向かうと魔王に説明しろと問い詰められた。

白状すると納得してくれたけど拍子抜けしたような表情をしていた。



「ーーそれでお前の寝室は瘴気がなくなっていたのか」

「王は聖女殿の寝室に入ったのか」

「何か問題ありますか?」

「お前にはこれも難しかったか、ツヴァイ」



野郎二人がなにやらこそこそしているようだけどまあいい放っておこう。



「お前にはこの城はずっと視界が悪かったのか」

「うん、今この時ももやもやしてる」

「聖女殿には難儀だな。風で追い払うか?」

「そうしたところでこの辺一帯瘴気だからまた瘴気が入り込んでくるだけだよ」

「…食堂も浄化するか? 視界が悪いままでは居心地が悪いだろう」

「みんなに痛い思いをさせちゃうからいいよ」



攻撃魔法のホーリージャベリンやホーリーアローなんかは物体に放つものだし、今朝使ったホーリーエリアは空間を遮断してその内側に効き目がある。

食堂内を浄化するならホーリーエリアが向いているけどわたしはともかく、魔王一派のみんなには攻撃になっちゃうからね。



「他に向いてそうな魔法はないのか?」

「うーん、あったかな…」



空気だけ浄化できたらいいんだけどそういうのあったかな?

他に使ってたのといえば大規模攻撃魔法のホーリーレインーーーいやあれは大惨事になりそうだ。一帯が無差別に浄化されてしまう。

ホーリージェイルは足止め用の物体に絡みつくタイプだから却下。

あとは回復魔法のホーリーヒールとか?

そういえばあれホーリーってついてるからには浄化能力があるのかな。ケガの治療にしか使っていなかったから瘴気相手に使ってみたことなかった。

あれは手のひらで魔法を発動したままで、直接患部に触れて治したり離れた味方に球状に放っている。

手にひらで魔法を発動していれば効果があるかも?



「試しに、ホーリーヒール」



手のひらが光輝き、手の周囲の瘴気が浄化されている。どうやら予想が当たっていたようだ。

そのまま発動し続ける。



「リンカ様の周囲の瘴気が浄化されていますね」

「聖女殿を中心にして空気が渦巻いているな」

「回復魔法にそんな使いようがあったのか」

「ねえ? 初めて浄化のために使ったけどこんな使い方教えられてなかったなぁ」



エルグラン王国での聖女講座では空気中の瘴気の浄化に使えるなんて言ってなかった。

なんか前にも「聖女講座で教えてもらってない」件があったよなぁ。



「当てにならないもんだね」

「情報の伝達が上手くいかなかったか、ろくに研究してこなかったか」

「リンカ様が色々試して研究してはどうですか?」

「なんなら新しい魔法でも作ってはどうだ!? 面白そうだ!」

「そんな簡単に作れるもんじゃないでしょ」



研究はしよう。

新発見がこう何度もあるなら掘り下げたら便利な使い道が見つかりそうだ。

それから効率的な使用法も。

さっきから使ってるホーリーヒール、長時間発動し続けるのはキツい。要研究だ。



「それにしても、わたしは脱臭炭というよりON/OFF機能のある空気清浄機のほうが正しいかな? 無意識だと低出力モードとかおやすみモードみたいな運転してるのか?」

「なにをぶつぶつ言っている?」

「お気になさらず」



食堂の空気は浄化されてスッキリした。

瘴気のない状態だけど魔王以下配下の2人に悪い影響はないらしい。空気を浄化するのはわたしのやりたい時にやっていいそうだ。

瘴気ナシの綺麗な空気の中での食事は気分が良い。まぁどうせ自室も食堂もこの状態は一時的ですぐに瘴気が充満するんだろうけど。


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