14 封印の修復
「…この魔王城に漂ってる瘴気、全部浄化したいな」
「この城の瘴気など大量だぞ? ましてや発生源から溢れているままではキリが無い」
「そうだよね。やっぱり魔王の本体の邪神の封印をどうにか対策立てないと延々と瘴気が出てくるよね」
とりあえず食堂は綺麗な空気になったけど根本的解決にはならない。元栓を閉めないとイタチごっこだ。
「そうだな。ーーやってみるか」
「え?」
「後々やってもらおうと思っていた」
「…つまり?」
「邪神の封印の修復を試みたい」
急に重要課題に取り組むことになった。
「修復っていっても女神様が張った封印の魔法なんでしょ? わたしにできるかなぁ…」
「少なくとも女神エールヒルデも聖女も異世界由来の力だ。この世界のものより親和性があるはずだ。何かわかったらいいくらいのつもりだ、気負わずに見るだけ見てくれ」
「うん…」
瘴気の本丸である謁見の間にわたしたち4人は向かった。
なお今日はお供の魔獣グリフォンはいない。「散歩にでも行ったのか」とガエルに尋ねたら「魔物を狩って遊んでいる」とのこと。バイオレンスな遊びである。
でも実際のところ魔王の指示で魔物を間引きしている立派なお仕事だそうだ。倒しても倒してもキリが無い魔物の数を減らすべく地道にやっているとのことで頭が下がる。
一行は謁見の間の扉の前に着き、ガエルとツヴァイが左右に分かれて両扉を開いた。
扉の向こうは相変わらずの異常に濃い瘴気が満ちていた。
「いつきても瘴気濃いね」
「文句は邪神に言え」
魔王を先頭にしてついていき玉座の裏の目的地へと向かう。一度は目にした結界、そしてその中に瞳を閉じて眠る美貌の男性ーーー魔王の本体。
その一角だけは変わらず瘴気にまみれていない澄んだ空間だった。まるでガラスの棺に眠る白雪姫のような美しさだ。
「キスで目覚めるとかだったりして…」
「なんだ、お前が試すのか?」
「い、いやなんでもないっ」
やばい聞かれてた上にカウンター食らった。
横にいた美貌の男の楽しげな言いようにからかわれたと悔しい思いをしつつ、空気を変えるように結界に近づいて手を伸ばした。
すると結界に触れた。硬い。手を伸ばしておいてなんだが触れるとは思っていなかったから驚いた。
「この結界、聖女の結界と違って物体も通さないんだね」
「ああ、これは何者も内からも外からも通さない」
聖女の使う神聖魔法の結界は魔物や瘴気は通さなくても、それ以外の人や動物や物は通る。
これは何も通さない完全シャットアウト仕様。神聖魔法とはタイプの違う魔法のようで畑違い感がある。
じゃあ瘴気はどうやって出てきているんだろう?
と、表面を見ているとわずかに瘴気の動きが見え、内から外に出てきている。触ってみると小さい引っかかりがある。ヒビが入っている?
「これが漏れる原因かな?」
「もう何かわかったのか? どれだ」
魔王、ツヴァイ、ガエルが結界に顔を近づけて覗き込んできた。
「ほらここ、小さなヒビが入ってて瘴気が内側から漏れてる」
「うん? 俺には見えんがヒビがあるのか?」
「あれ、見えないの? ツヴァイとガエルは?」
「見えません」
「さっぱりだな」
「お前にしか見えていないのではないか?」
これは聖女スキル的な力によってわたしだけに見えているのかな。
しかし見えたけどこれ塞がないとだよね。
どうやって塞ごう?
わたしの魔法で塞がるかな?
うーん、わからない。
「ものは試しで魔法使ってみるね」
「ああ、まかせた」
任せたなんて言ってくれちゃって。
失敗したらどうしようと思いながら初級の魔法をヒビ割れ部分にかけてみる。
「ホーリードロップ」
光の雫がヒビ割れに落ちて輝いた。
そこから金色の光が放たれ、波紋のように結界全体へと広がっていく。初めてみる魔法の動きだ。
そして10秒ほどで光は収まった。
ーーーヒビは塞がっていた。
「あっ 塞がった!」
「本当か!?」
「嘘でしょう!?」
「なにーーーーー!?」
魔王が、ツヴァイが、ガエルが仰天している。
結界のヒビのあった部分をさわっても引っかかりはなにもなく、それどころか表面はすべすべしていて修復前より明らかに滑らかになっていた。
「瘴気の漏れも、止まったみたい」
「瘴気も…」
「こんなに短時間で…!」
「なにーーーーー!?」
3人とも目を見開いて微動だにしなくなった。
数十秒、沈黙が続いた。
「本当に、もう瘴気は漏れていないんだな?」
「うん」
その沈黙を破ったのは魔王だった。
わたしが肯定すると何を思ったか彼はわたしの目の前に跪いた。
わたしは突然の想定外な事態に身動きできなくなりただただ彼を目で追うことしかできない。
魔王はわたしの右手のひらに手を伸ばすと自らの額まで持ち上げた。
「感謝する、リンカ」
とても、深い深い万感の想いが込められた言葉を送られた。
「は、はは、ははははははははっ!! 長年の課題がひとつ解決したぞ!!」
ガエルが笑い出し、ツヴァイが我に帰ったように息を吐き、謁見の間は歓喜に包まれた。
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