10 歳相応なところもある
落ち着きのない800歳越えに動揺してしまったけどいろいろ気になることを聞いてみよう。
「ええと、800年前ってことは魔王の最初の目覚めの時に出会ったの?」
「うむ、そうだ」
「勇者一行として?」
「いや、それは違う。俺様はこの城周辺地域に住んでいた魔物討伐を生業にしていた一族の出でな。強烈な瘴気の発現を察知しこの城に乗り込んだのが出会いだ」
瘴気の発生源に乗り込んだ…
勇敢というか無謀というか…魔物討伐の一族で魔物に慣れてた自信があったので大丈夫と思ったのかな。
「怖くなかったの?」
「邪神を封印した城と言い伝えられていたからな。おおかた封印に問題が起きたのだろうと見当をつけた。遅かれ早かれ調べる必要があった」
「えっ あなたの一族は本当の歴史を知ってたの?」
「ああ、俺様の一族は自然信仰をしていたので聖教会を寄せ付けなかったからな。先祖からの言い伝えを繋げていたのだ。城丸ごと封印されて入ることができないはずが入れてしまいこれはと思い進めば黒ずくめの瘴気を撒き散らす男に出迎えられた。それが王との出会いだ」
「…目が覚め封印が弱まっているのはわかったが、外の状況がわからなかった。そこにふらふらやってきたソイツを捕まえて知っていることを吐かせた」
「言い伝えの英雄と会えてうれしくてな! 配下に加えて欲しいとたのんだのだ!」
「思い切りがいいね…」
「そうでもない。先達がいたから配下に加わることに不安はなかったぞ」
「先達?」
「封印を見守る『墓守』の役の者たちがいたのだ。封印の時からずっと生きる者たちが城の周りにいてな。四天王の原型だ」
墓守。同じ時を生きる人たちがずっと近くにいたのか。
ーーひとりきりで放置されていたわけじゃなかったんだ。
魔王が完全な孤独な状況だったわけじゃなくてよかったと思った。
「その墓守の人たちは今はどこに?」
ガエルは魔王と目を見合わせると口をつぐみ、魔王に手のひらを向けて「後は王が言ってくれ」とばかりに主導権を渡した。
聞いてはまずいことだったのだろうか。
少し遠くを見る目をしたあとに魔王が答えた。
「墓守についてはおいおい話す。まずは昼食をすませろ」
「うん…」
すぐに教えてはくれないのか。
なにか込み入った事情があるのかな?
食事が終わるとテーブルの上の食器をツヴァイがトレーに集めて転移させた。
どこにやったのか聞いたら厨房のテーブルに移したらしい。こっちから任意の場所に送ることもできるのか。本当に便利だ。
「あ、あとでレターセットと書くものとインクを貰える?」
「いいですが手紙を書くのですか?」
「うん、勇者のウィル宛に。転移の魔法で送ってもらえる? 心配してるかも知れないから無事を知らせたいの」
「ほう、勇者殿か。なんだなんだ連れ去りでもしてきたのか王よ?」
「あながち間違いでもないな。用意させよう。書いたら俺に渡せ。勇者に直接送りつけてやろう」
「ウィルの居場所、把握してるの?」
「知っている個人は魔力を感知すれば距離があってもおおよその位置はな。いまはーーーロンバルディの王都近くに複数人といる」
「そっか、無事に王宮につけそうだね。そういえば、あなたわたしの近くに現れてたけどあれも魔力感知して位置を把握してたんだね」
「それもできるがこれを使っていた。いつでもどれほど離れていても常に詳細な位置を把握できる」
魔王がテーブルの上に置いたのは見覚えのある指輪。わたしを監視するべく勇者一行の一員だった魔導士が付けていた魔導具だ。
「え、なんであなたが持ってるの?」
「預かって有効活用した。おかげで位置特定が楽で
重宝した」
「…」
それはちょっと…と思ってしまった。
発信機というかGPS機能が備わっているようなものだから、プライバシー的にそれを使うのは遠慮してもらいたい。なんか、こう、犯罪ぎりぎりなラインな感じがする。
「それ…渡してもらえる?」
「なぜだ?」
「いや…もうわたしこの城にいるわけだし必要ないでしょ?」
「なにかの時に役に立つかもしれんだろう」
「いやなにかの時とかなんの時?」
「危険な目にあうかもしれんだろう」
「いや…」
ガエルはツヴァイに近寄り声をひそめて話しかけた。
「ここに居れば危険など何もなかろうに。我ら配下はもちろん危害を加えぬし、城にいる限り魔物の脅威もない。狂信者どももここには手を出せんというに」
「同意します」
「だとすると少々過保護に感じるな。あるいは真に常に居場所を把握していたいのか。…なににも頓着せず淡々と邪神の封印のため動いてきたお方がなぁ」
「聖女という貴重な協力者だからでしょうかね」
「それだけではないのではないか? からかって遊んで楽しげだった。あんな王ははじめて見た」
「…たしかに楽しげにしていましたね」
ツヴァイのピンときてなさそうな反応に「この手の機微は難しかったか」とひとりごち、ガエルは交渉中の2人を見やった。
ガエルは童のごとき天真爛漫な気性をもちながらも、生きた年月で自然と鍛えられた洞察力をもちあわせた男だった。
変化が起きる兆しを感じ「よいことだ」としばらくそれを眺めていた。
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