9 四天王ガエル
魔導書の中身は空になった。
あの後上級の魔物をポイポイっとみんな投下することおよそ20数体。ガエル率いる魔獣一味に噛み付いては引きちぎられ後ろ足で蹴られ燃やされ魔物たちは非業の死を遂げた。
中庭は壊滅状態で陥没したり隆起したり焦げて色が変わっていたり氷が溶けてびちゃびちゃになっている。
中庭に向けて魔王が手をかざした。
「タイダルウェイブ」
居館の奥側から中庭に水が波となって手前の城門側へと押し寄せた。ガエルと魔獣一味がまだいるがお構いなしに水責めされている。
水が城壁の向こうへとすべて流れ出ると、また魔王が魔法を使った。
「ヒート」
今度は中庭が熱で温められて一面から湯気がでている。乾燥させているわけか。中庭のガエルたちは地面の熱さにバタバタと慌てている。
中庭は綺麗に整地され平らになった。
魔王は整地とお仕置きを同時にしたわけだ。
荒らされた中庭に真顔で目を眇めていたからちょっと御立腹だったのだろう。
「魔導書は左ページすべて白紙になりました」
ツヴァイに近寄り手元の魔導書をのぞきこんだ。
『魔物図鑑』にいた魔物は全部いなくなったせいか魔物の説明書きがされていた左ページは真っ白になっていた。
ただ右ページの魔法陣はそのまま残っていた。
「魔法陣はまだ機能していますね。なにかに使えそうです」
「なにか。…そっか、魔物じゃなくても封印しておけるのか」
本なら持ち運べるし小さなものから大きなものまで相当な数が入りそうーーーあ。
「アイテムボックスにできるんじゃない!?」
「アイテムボックス? アイテムを入れて置くのか?」
「うん! わたし転移は使えないからものをどっかから取り寄せられないから。この本持ち歩けば荷物にならずになんでも携帯できる!」
よく剣と魔法の世界に出てくる便利なアイテムボックス。この世界で無限に収納できるというアイテムボックスはないみたいだし、そういう魔法もないようで荷物として持ち歩くしかない。これが旅の間にかさばって重くて嫌だった。
でもこの本一つ持ち歩けば夢のアイテムボックスだ!
「なるほど。ならこれはお前が持て」
「ではどうぞ」
「ありがとう!」
こころよく譲ってくれたので大事に使おう。肩かけとかベルトで体に固定とかすれば使い勝手が良さそうだ。なにをいれようか、どう持ち運ぶかと考えるのが楽しくなってきた。
「おーい、俺様抜きで盛り上がるな!」
ガエルが騒ぎ出したので魔王はため息をつくと、またもやわたしをお姫様抱っこして屋根から飛び降りた。また体温が上がり顔が熱くなる。
不意打ちはズルいと思いながらまた顔を背けた。
「陛下」
ツヴァイが魔王を見て驚いたような声を上げる。ちらりと魔王を盗みみればニヤリと笑っている。
…もしやわたしの反応を面白がっているのか。
からかわれているようでこっちは面白くない。
「聖女ではないか! なぜこの城にいる?」
「いまごろ気づいたか」
「ガエル、陛下に帰還の挨拶が先だ」
「おおっ そうであったな! 王よ、ただいま帰参した」
ガエルは片膝をついて跪き、胸の前で右手の平に左拳を当てて魔王にいい笑顔で帰還の挨拶をした。
「ああ、ご苦労。で、報告はあとだ。聖女のリンカだ。俺への協力に同意しこれからはこの城に暮らす。俺の客だ、大事に扱え」
「おおっ とうとう聖女に協力を取り付けたか! 快挙だ! めでたい! ガエルだ、よろしく聖女殿!」
「よ、よろしくガエルさん。とうとうって?」
「ガエルでよい。ふむ、それはだなーー」
リンゴーン…リンゴーン…リンゴーン…
ん? これは鐘の音?
「昼の鐘です。昼食の用意がされていますので続きは食堂でしましょう」
「おっ 今日は何の肉かな」
「肉ならあなたはなんでもよいのでしょうに」
知らない間にずいぶん時間が経っていたようだ。
そういえばお腹も空いている。
さっさと歩き出したガエルは居館に向かわずにあらぬ方向にいく。どこに行くのかと目で追うとグリフォンに跨り飛び上がると居館の5階の壁の大穴に着地した。
「あれが壁に大穴を空けた馬鹿だ」
「あいつか!」
とても納得した。
食堂に移動するとまたもすでにテーブルには料理が並んでいた。チキンソテーにザワークラウト、バケットにミートパイとほぼ炭水化物とお肉でガッツリメニューだ。
野菜はあまり手に入らないのかもしれないけれど、あまり好きではないので全然かまわない。
この料理も全部おいしいので大満足だ。
塩加減はちょうど良くて肉のイヤな臭みもなく、パイもサクサクで腕のいい料理人さんのようだ。
まったく姿が見えないのが不安だけど…
「おいしい…」
「そうだろうそうだろう! 遠慮せずたんと食え! 肉を食えば強くなれるからな!」
「は、はい」
「お前様は痩せ過ぎだ。戦うには何ものにも揺るがぬ強靭な肉体が必要だ! だからたくさん肉を食え!」
「はい…」
短い袖からのぞく自慢の上腕二頭筋を見せびらかしながら肉ばかり食べるガエルは筋肉信奉者でもあるようだ。
プロテインドリンクに出会ったら愛飲するに違いない。
魔王とツヴァイは目も合わせずスルーしている。
この熱い筋肉語りに慣れきっていて相手をする気がないようだ。
わたしにガエルの聞き手の役目を押し付けてるのか? こんな熱い人会ったことないからどう対応したらいいのかわからないんですが。
ちなみにグリフォンはガエルの足元でお昼寝をしている。おっかない見た目だけどおとなしいいい子のようだ。
と、そういえば聞きたいことがあったのだった。
例の日記にあったようにガエルは400年前、聖女アスカさんと戦った人物の表現に当てはまる。
やはり本人なのだろうか。
「あの、ガエル、聞きたいことがあるのだけど…」
「なんだ? なんでも聞くがいい!」
「400年前、聖女アスカさんと戦った?」
「ん? ああ、ツヴァイの時の聖女殿か? 戦ったな。歴代の中では強い方だったか」
やはり本人のようだ。
そうなるとガエルは少なくても400年以上生きているのか。若者的な情熱を感じるからツヴァイより年上なのが意外。
「あなたはいつ頃から生きているの?」
「うむ、800年程か」
「え」
「こいつはこれで四天王最古参だ。中身はいつまでもガキのようだがな」
魔王による最古参発言に驚愕した。
800年生きてこんなに落ち着きないひとがいるのか!
…ツヴァイという落ち着きあるのが四天王入りしてよかったね、魔王一派。
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