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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第六章 -Together-
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「面倒臭いから嫌だ」で逃げるのではなく

 頭の中を空っぽにして帰宅し、理沙からトークアプリで連絡があったので、倉敷さんに対する自分の言動の数々について研究するのはゲームをプレイし終えたあとになりそうだ。空っぽにしたはずの頭の中に、再び積み上がりつつあったものを一旦、措いておく。これで、なんだか気持ちはスッと楽になった。


「嫌なんだよ、女の子に……そういう、妄想をしたり、自分のことを“好き”になってもらいたいみたいな、願望なんて」


 大嫌いだ。大嫌いだからこそ、避け続けて来た。けれど、いつまでも僕も“お子ちゃま”のままでは居られないし、“お爺ちゃん”のような感情で女の子を見つめ続けられるわけじゃない。他人を慮るようになってから、空気は読めないけれど、嘘も平気でつくけれど、僅かずつではあるけれど僕は変化している。変わり始めている。それを自覚しつつある。傍目からじゃまだ分かりにくい変化なのかも知れない。でも、なにかが変わっている。


「怖い、生き辛い……でも、僕が僕を否定するわけにも行かない」


 今までが反抗期だったのか、それともこれから反抗期なのか。そういう変化である可能性も少なからず残っているが、自分自身に対する否定や思い込みのような乖離した感情も歳月を経て自己へと吸収され、一つになる。だから、受け入れる。


「難しく考えなくて良いんだ。そう……リラックス、リラックス」

 理沙から連絡があったのはまさに渡りに船だ。どれだけ困っていても、悩んでいても、理沙の声を聞けば安らかな気持ちになれる。僕は夕食の支度もそこそこにパソコンを起動させ、HMDを被り、『NeST』のケーブルの先端にある針をうなじに刺して、神経接続の確認のために流れる小さな痛みを体感しつつ、全てが良好であることが確認されたのち、『Armor Knight』にログインする。


 広場には既にルーティの姿があって、僕は彼女の前へと移動する。


「あ、今日は私の方が先だったね。って、どうしたの?」

「なんでもありませんよ」

「なんでも無いって顔してないけど?」

 こんな仮想世界であっても、仮想の肉体が作り出す表情であっても、ルーティは僕の声音からその心情も、そして現実の表情も読み取れてしまうのだろう。それがルーティの“異常性”だ。けれど、そんなものが無くても、ひょっとしたらルーティは僕が変化に悩んでいることを雰囲気から察していたと思う。いつもいつも、彼女には助けられてばかりだ。困っている時も、悩んでいる時も、苦しい時も、辛い時も、ルーティ――理沙が近くに居るってだけで、穏やかな気持ちになれる。安心できて、考えていたことが全て馬鹿らしくなって、素の自分を出せる。


 それがとてもありがたい。


「私が本当に、変わってしまって良いのかって不安になっていました」

「変わる?」

「はい。人付き合いの変化や、その……特定の誰かを考えながらも、私が真っ当に、真っ直ぐに、その人のことを(おもんばか)ることができるのか、不安で……だから、境界線を踏み越えたくないし、踏み入れたくもない、のかも知れません」

 面倒臭いと思うのも、そのせいかも知れない。相手の気持ちを汲んで、相手の気持ちを考えて、相手の言葉から察して……そういうことを実践しても、果たして本当に僕はまともなことを言えるのかどうか。空気の読めないことを言わないだろうか。素になって、相手を傷付けないだろうか。そういう怖さを僕は総じて“面倒臭い”で片付けて、逃げようとしているのかも知れない。


 逃げちゃ駄目だと思いつつも、口にしつつも、実のところ、逃げたくてたまらないのだ。


「スズって人と話す時って、色々と考えてから喋るでしょ?」

「そりゃ、私はいつ爆弾発言をするか分かりませんから」

「友達と話している時はどう? 私と話している時は?」

「……そういえば、あとのことなんて考えていませんね。取り敢えず、言いたいこと言って、怒られることも多いと言いますか」

 倉敷さんと話していた時も、スラスラと言葉が出て行き、その先でなにを言われるかなんて全く考えちゃいなかった。

「顔見知りや、友達、知り合いと話す時はそれで良いんじゃない? あんまり考え込まずに喋った方が、言葉が軽くて根っこに残らないよ。考え込まれ過ぎて、言葉が重いとこっちまで言葉を重くしなきゃならなくなる。初めて会った人や、それほど知らない人に対しては、考えて出した言葉の方が好印象かもね。それでも長く考えられると、間が保たないから、注意すること」

「はい」

「人と話すのってさ、思ったより難しいことじゃないんだよ。ただ、好印象を持たせたい、変な人に思われたくない、見下されたくないって思いが強くて、なんとかして“普通”を貫こうとするから難しくなっちゃう。それで空回りする子も居るけど、私は、この子は人付き合いが苦手なのかな、って分かってからは接し方を変える。でも、スズはそういうの怖くてできないもんね」

「人によって態度を変えるのは、良くないんじゃ」

「スズの場合は態度を変えるわけじゃなくて、嘘をつくから。態度の変え方にもよるけどね。露骨な変え方じゃなくて、その人に合った、付き合い方。スズだって、にゃおと私に対する態度は一緒じゃないでしょ?」

「そうですけど」


「面倒臭いからって逃げたって、逃げようとしたって、無理だから。もし逃げることが出来たって、またいつか面倒臭いことって起こるよ? だから、面倒臭いことへ対処できるように経験を積むっていうのが大事なんじゃない? 私も言っていて、全然これっぽっちも経験なんて積めていないなって思っているけど」

 ルーティの言葉は臨床心理士のカウンセリングと同じぐらい僕の心へとストンッと入って来る。宗教じゃないけど、ルーティを信仰している感はある。


「なんだか、いつも相談に乗ってもらってばかりですいません」

「でもスズは私の愚痴を聞いてくれるし、それでおあいこでしょ。はい、この話は終わり。あとは自分で考えること」

 僕は首を縦に小さく振って答える。

「それじゃ、スズ。今日も武装の強化改修のためにミッションお願い」

 COMランクを上げるだけでも強化の解放はされて行くのだが、特定のミッションを終わらせることでも解放される武装もある。ソードやエネルギーライフルのような定番武装がそれに該当する。

「でも、ルーティのレア武装のミッションって面倒臭いんじゃ」

 けれど、中には定番武装とは異なる武装の改修ミッションもある。ルーティの銃爪も、ランクが上がってKnightに乗り換えてからすぐのミッションで解放できる。

「だから面倒臭いことへの対処法を学んで行こうって言ったじゃん」

「……上手く乗せられているだけな気がするんですけど」

「銃爪の強化と、あと変形機構のミッションでしょ、それに、」


「多すぎです」


「数をこなさないと解放されないのはスズも同じでしょ。行ける行ける」

 確かにKnightに乗り換えたあとは、一部の武装がArmorから引き継いで、Knightの一般的な武装や装甲まで能力が上乗せされるけど、実際にKnight用への武装改修を施さないと、その後の強化が進まない。

「変形機構搭載するんですか?」

「やってみるだけやってみたいし。Knightになったらコクピットも変えられるんだっけ? 変形機構を搭載している場合、どうなるの?」

「コクピット内まで変形しません。ただ、シート、バイク、運動認識の三つぐらいまでレパートリーは増えますけど」

「シートは今まで通りの座席での操作でしょ? バイクと運動認識って?」

「バイクの中でも大型バイクに乗る感じに近いと思います。ただ、それよりも前のめりで、四つん這いの方が近いかも知れませんけど」

「それで操縦できるの?」

「四脚だとこっちの方が速いです。機体の体勢に自身を近付かせるんで、状況が把握しやすくなります。二脚でも、変形機構を搭載するならバイク式が好まれます。ただ、足ではなくブレーキとアクセルが両手に移るので、慣れるのに時間が掛かりますけど、それ以上に利点もある……らしいです」

「らしい?」

「私はずっとシート式なので。にゃおが言うには足の操作が器用にできるようになってからが面白くなって来るとか」

「じゃぁ運動認識は?」

「自身の動きと機体の動きが直結します。マップ画面などの一部はコンソールでの操作になりますが、自身を中心に前方約百八十度全てが大型スクリーンになり、外の景色が投影されます。自身が首を動かせばその通りに機体が動きます。一番、機体との操縦のラグが少ないので、反射神経が良いとちょっと変態的な動きも取れますね。ただ、機体と自身の動きが直結しているので、僅かな体の動きも隙に変わりますし、不慣れの内は始めたてのように酔います。あとは“飛ぶ”や“ブーストを掛ける”というのは体の動きだけでは表現できませんので、意思と直結します。これも物凄くラグは短いんですが、体を動かしつつ、行動の意思も維持していないと機体が思うように動き切ってくれません」

「うーん……なら一回、バイク式で行ってみようかな」

「変形機構を搭載するんなら、一度は挑戦してみても良いかなとは思います」


 ルーティが目指すのはきっとネムネムさんの乗っているケットシーのような操縦や動きに違いないから、試すのは良いことだ。


「それじゃ早速ミッションに……どうかした?」

 こうしてルーティとゲームを楽しむのは気分転換するには良い。けれど、啓二さんのことが頭からチラついて離れない。

「ミッションを一つ、二つ終わらせたら、ちょっとサールサーク卿のところに行きたいんだけど、良いですか?」

「良いよ。スズが気になるなら、どこへでも」

 この気楽さが、心強い。多分、一人だったら行こうとも考えなかっただろう。

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