そう遠くないかも
「……あの」
「……」
「開かないんですけどっ」
大慌てでシャワーを浴びて来たのに、今度は脱衣所の扉が開かないから慌てる。
鍵は開けていて、多少押せはするのに開ききらないのだ。
なんとなくそこに幸一君が座っているんだろうなと思って、声を掛けるのに無反応で。
どういうこと??と混乱しながら、僕もその場に座り込む。
スマホは幸一君のお部屋に置いてきたから、話すには直接声を掛けるしかなかった。
「どうしたの、幸一君」
「……」
「僕早く幸一君に会いたいよ」
扉を触れると、感じない筈なのに、扉の向こう側の幸一君の、熱が伝わって来るような気がする。
「幸一君、ちょっと寒い、から、温めて」
シャワーの熱気で脱衣所も、僕自身もまだ温かかったけれど、床はひんやりとしていたからそう言う。
すると扉の向こうが動く気配がして、引っ掛かりが無くなった扉が開いていく。
僕は床に座り込んだまま、高い位置にある幸一君の顔を見るけれど、丁度朝日の差す廊下で逆光になって、あまり幸一君の表情は分からなかった。
「幸一君?」
幸一君の顔を見上げたまま言うと、手が差し出されるから、僕は手を乗せる。
「わっ」
勢い良く引かれて、立ち上がって、そのまま咄嗟に幸一君に抱き付くと、しっかりと受け止められた。
今日は幸一君の力強さを感じる日だ。
そう思っていたら、パジャマの裾から幸一君の冷えた手が入って来るから驚く。
「こっ、幸一君、冷たいよ」
「……涼太」
「うん」
「涼太がここで生活してるって思ったら、閉じ込めたくなった」
「ははっ」
なあにそれ、と思うけれど、逆の立場なら確かに、嬉しくて同じことをしたくなるかもしれない。
僕の日常に幸一君の姿があったら、確かにきっと、とても嬉しい。
「でも幸一君冷えちゃったね。お風呂入ってくる?」
「うん。部屋で待ってて」
「分かっ、んっ」
分かった、は最後まで言わせてもらえずに、強いキスが落とされて、それから幸一君がお風呂に行く。
なんだか、いつもの幸一君には無い焦りや強引さが今日の幸一君にはあって、ドキドキする。
僕は階段を登って、幸一君のお部屋に戻って、何処で待つか迷って、ベッドに腰掛ける。
幸一君のお部屋は、初めて来た時と変わらず、ベッドと机以外は何も無かった。
「あ」
そうだ、全然気が付いていなかった姿見!
僕は慌てて持ってきたカバンから、昨日着ていた服を取り出すと、姿見の上に掛ける。
ベッドから見えるということは、その、僕たちが触れ合っている姿も、きっと映ってしまうということで。
それは流石に恥ずかし過ぎるから、服で覆わせてもらった。
大きな布じゃなくて服だから、姿見の上半分しか隠れなかったけれど。
無いよりはマシかな、と納得してベッドに戻る。
丁度そのタイミングで幸一君が戻ってきて、何も言わずにベッドに腰掛ける僕の足を跨いで来るから焦った。
「あっ、ちょっと、幸一君」
「……」
なに、と目で問われて、その胸を押す。
「カーテン……閉めたい」
いつしか朝日も登りきって、すっかり明るくなった部屋では、全てが鮮明で。
こんな中で触れ合うのは恥ずかしい。
何より、刺激が強過ぎると思った。
だからもう一度、幸一君の胸を押す。
「……」
幸一君は渋々、ではあるけれど、ちゃんとカーテンを閉めに行ってくれた。
そのお陰で明るさは少しだけマシになったけれど、それでもまだ、幸一君の表情がハッキリと分かる程には明るくて。
「……あ、の、やっぱり」
「眼鏡、外すから」
「え?」
「外したら見えないから。もう待てない」
「わっ」
僕を押し倒す幸一君は、眼鏡を外して床に落とす。
それから沢山のキスが降ってきて、もう明るさは気にしていられなかった。
「んっ、う」
僕の声に、幸一君の喉が鳴る音がする。
その音で僕は堪らない気持ちになって、幸一君にしがみついた。
僕たちの土曜日は、始まったばかりだった。
「うう」
恐ろしく丁寧に愛されて、僕は逆にヘトヘトだった。
それに、幸一君からの優しくも執拗な触れ合いから逃れようとしている最中、気付いてしまった。
ベッドの上で横になった状態だと、姿見の真ん中辺りに僕たちの姿が映るから、僕が掛けた服は何も機能していなかったということに。
僕はそれなりに目が良くて、だから普通に、ハッキリと、クッキリと見えてしまって。
僕に被さる幸一君の色気が凄くて、僕は二重にも三重にもやられていた。
「涼太」
「……うん」
フラフラになりながらも引き起こされて、連れて行かれた先は、お風呂場で。
本当に足腰が立たなかったから、電気を消すという条件で、僕たちは一緒にシャワーを浴びた。
「こ、こら」
けれど幸一君が直ぐに触れてくるので、次からはもう一緒に入らないぞ!!という目で見る。
するとようやく、幸一君は僕を大人しく洗うだけに留めてくれた。
僕も幸一君を洗ってあげたかったけれど、まだ刺激が強過ぎて駄目で。
先に退散して、僕はリビングのソファに倒れ込んでいた。
本当に、本当に凄かった。
恥ずかしい以上に、僕を求めてくれる幸一君を嬉しく想って、愛しく想った。
「涼太」
浸っていたら、お風呂から戻った幸一君が傍に来るから、僕は手を伸ばして幸一君の手に触れる。
「僕……ちゃんとできてた?」
幸一君の指を握ると、絡め取られて、息を吐く。
ずっと僕と繋いでいてくれたこの手に、僕は安心と、少しの興奮を覚えてしまっていた。
「ちゃんとどころか天才だった」
「……へへ」
嬉しくて笑うと、身をかがめた幸一君がおでこにキスをしてくれる。
だから上を向くと、ちゃんと唇にもキスを落としてくれて、心地いい。
「お弁当食べよう」
「うん」
起き上がろうとした僕は、そのまま幸一君の手によって阻止されて。
大人しくソファで横になったまま待っていたら、幸一君がお弁当を温めてきてくれた。
そのお弁当を受け取って開くと、中身はいつも以上に賑やかで、華やかな仕上がりで。
お母さんが張り切って作ってくれたのだと分かって、少し心がむず痒くなった。
「幸一君がお兄ちゃんになる日もそう遠くないかも」
僕がそう言うと、幸一君は少しだけ複雑そうな顔をしたので、笑った。




