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一緒に地獄に堕ちるか。  作者: 雨宮ツムグ


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19/23

ありがとう

幸一君に全部話すと、「なんてもん抱えてんだ」「抱え過ぎだ」「もっと早く話せ」って矢継ぎ早に言われた。

それから、「良いな」って言うから、駄目だよって泣く。

「駄目じゃない。俺の父さんはもう胃袋掴まれてる」

「……でも、人の心を操るみたいなこと」

「決めるのは本人たち。促すくらいは良いと思う。俺も涼太と家族になりたい」

「…………」

「泣くなよ」

もう散々泣いたのに、まだ出る涙は幸一君が雑に拭ってくれる。

その雑さが何故か嬉しくて、ちょっと笑って、息を吐く。

決めるのは本人たち。

それは確かにそうだ、と思う。

それから幸一君の、家族になりたい、って言葉が、僕の心に刺さる。

そう思ったのは僕だけじゃない、幸一君も思ってくれたってことが、深く突き刺さる。

「父さんは俺もおすすめできる。仕事人間だけど、酒もタバコもギャンブルもしない。暴言も暴力も振るわない。俺の母親が仕事から呼び戻せなかった父さんを、涼太のお母さんはもう連れ帰らせることができてるし、望みもある」

真面目な顔で教えてくれるから、本気なのだと伝わってきて、僕も頷く。

「おすすめ……うん、僕のお母さんも素敵な人だよ。料理が上手で、僕とちゃんと向き合ってくれる、愛情深い人。料理教室でおば様たちから息子を紹介されても、全部僕の為に断ってくれてた。だからもし幸一君のお父さんと合うなら、僕はお母さんに一人の人としても幸せになってほしい、とも……思ってる」

「ん」

僕は自分の目的の為に、僕のお母さんと幸一君のお父さんを利用しようとした。

その罪悪感でここのところは頭がいっぱいだったけれど、幸一君が前向きに受け取ってくれて、絡まった糸が解れていくみたいに、視界が開ける。

「幸一君、僕のこと、引かないの」

「……」

幸一君とお揃いの苗字が欲しいなんて願ったこと、お墓まで持って行く秘密、くらいの感情だったから、平気そうにしている幸一君に聞く。

幸一君は、なんで?って目をしているから、強い人だ、と思って俯く。

幸一君は、強い人だ。

最初からずっと真っ直ぐで、強い人。

自分の信じたことを、最後まで信じられる強い人。

「俺は涼太を想ったまま死にそうだった。そんな俺が、こんなにも想われてるなんて嬉しい。それに俺の父さんがダメな人間だったらマズイけど、本当に結婚しても、涼太のお母さんを幸せにできる人だと思う。だから大丈夫」

「……」

「俺も父さんを促していく。だから罪は半分ずつ。行き着く先が地獄でも、俺は涼太と居たい」

「…………」

「泣くな、枯れるぞ」

またポロポロ涙が零れるから、幸一君が少し笑って、どこかへ行く。

僕だってもう泣きたくない。

なのに幸一君の意見を聞く度に、涙が止まらなくなる。

ソファの上で幸一君と向き合っていた体勢のまま、泣き過ぎてフラフラする頭をソファの背に預ける。

そうしたら、タオルとお水を持ってきてくれた幸一君が、僕の頭を撫でるから。

いつかの転けた日のことを思い出した。

僕が落ち込んでいる時、いつも必ずこの手が僕が慰めてくれる。

「兄弟になったら、僕たち、どっちがお兄ちゃんになるのかな」

貰ったお水を飲みながらそう言うと、幸一君はきょとんとして、それから口を開く。

「さあ。涼太の誕生日は」

「僕は10月」

「俺は6月」

「じゃあ、幸一君がお兄ちゃんだ」

微笑むと、持っていたコップが取られて、残り少なかったお水を幸一君が飲む。

ぼんやりとその上下する喉仏を見ていたら、最後まで飲み切った幸一君が僕の上にきて、近付いてきて。

「変な扉開きそう」

「んっ」

濡れた唇でキスしてくるから、いつもより音が響く。

変な扉、と考えて、幸一君をお兄ちゃんって呼びながら甘える僕の姿を想像する。

確かにちょっと、何か、目覚めてしまいそうかも。

「お兄ちゃん……?」

「……こら」

キスの合間に零せば、唇を噛んで叱られる。

そうして離れていってしまうから、少しだけ追い掛けて、僕からも触れるだけのキスをした。

「僕たち、もう二人共今年の誕生日を迎えてたんだね」

「ん」

「来年はお祝いさせてね」

「うん」

「再来年もだよ」

「……分かってる」

その先もずっとだよ、という僕の願いを、汲み取ったように幸一君が笑う。

その笑顔に、大好きだと思う。

これからもずっと、そうであればいいなと思う。


「……さっき」

「ん」

「なんで溜息、吐いたの」

あの溜息を聞いた時、幸一君は甘える僕に、呆れたのかと思った。

けれどキスをしてくれて、キスができるくらいには、気持ちの熱があるのだと感じる。

「……最近、よくくっついてくるから」

「うん」

「キス以上がしたくなる」

「……へ」

じっと幸一君に見つめられて、顔どころか、体中が熱くなる。

キス以上、ってつまり。

「ずっと我慢してる。多分耐える為の溜息が漏れた。怖がらせてごめん」

「……あっ、そ、そうなんだ」

呆れられた訳じゃないならよかった、そう安心して息を吐くと、幸一君は僕の上から退いて、僕の直ぐ近くでソファに座る。

「涼太は」

「……え……あ、あの」

「……」

幸一君は目でも、涼太は、と問い掛けてくるから、泣き過ぎとはまた別のフラフラが僕を襲う。

僕は幸一君の真っ直ぐな目に弱い。

なんでも全部、打ち明けたくなってしまうから。

「僕……も、したい……」

言ってから、恥ずかしくて仕方なくて、両手で顔を覆う。

けれどその手は簡単に幸一君に回収されて、僕を見る幸一君と目が合う。

「それなら、来週末。父さん出張だから、泊まりにきて」

「……えっ、」

「しよう、涼太」

「し……」

「俺が愛したい」

「あ、あい……」

幸一君の真っ直ぐさの過剰摂取で倒れてしまう、と思った。

真剣な幸一君の態度が、色気を増していてクラクラする。

来週、来週……来週。

いつかできたらいいなとは思っていた。

それが、こんなに早くとは思っていなかった。

まだ心の準備ができていなくて焦る。

僕は何からしたらいいんだろう。

どうすれば幸一君と上手くできるんだろう。

「やってみよう、できるところまで」

「……幸一君」

「涼太。お願い」

「……うう」

幸一君のお願いなんて凄く珍しいと思う。

だからドキドキして、僕は参ってしまう。

それから小さく頷くと、掴まれた腕に力が込められる。

「ありがとう涼太」

「……うん。あの……こちらこそ、ありがとう」

聞いてくれてありがとう、受け止めてくれて、ありがとう。

それから、好きでいてくれて、ありがとう。


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