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一緒に地獄に堕ちるか。  作者: 雨宮ツムグ


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18/23

揃いの

幸一君と付き合うこと、同性で付き合うこと。

そのことについて、最近よく考える。

多分、高二が近付いてきて、早くも進路の話が出てきているからだと思う。

先生は進路の話をする度に、『まだ先だと思ってたら遅れるぞ』ってよく言う。

それは長年、数々の生徒を見てきたからこそのアドバイスなんだと思った。

僕も実際、まだまだ先の話だと思っていたし、先生からそう急かされても、僕は何になりたくて、何になることができるのか、僕自身のことなのに、僕は全然分かっていない。

中学の頃は、どの高校へ行くか、偏差値は足りるか、そういう話が主だった。

けれど、高校生の今は、就職、という二文字も僕の中でチラついていて。

僕は、ずっと一人で育ててくれたお母さんに恩返しがしたい。

それに今年、誓ったのだ。

いつもパンを食べている幸一君に、僕のお弁当をあげる為、僕はお母さんに嘘を吐いて、お弁当の量を増やしてもらった。

そうした負担も掛けている分、僕は早く自立して、お母さんに楽をさせてあげたかった。

美味しいものを沢山食べさせてあげたいと、そう願ってもいる。

けれど、大学に行ってみたい気持ちもあって。

それ以前に、二年は幸一君と同じクラスになれるのかな、とか。

三年はどうなんだろう、とか。

幸一君は進路どうするんだろう、とか。

卒業しても、僕たちは一緒に居られるのかな、とか。

見えないこと、分からないことへの不安が、少し大きくなっていた。

それと同時に、やっぱり僕は幸一君と一緒に居たくて。

思い浮かぶのは『結婚』とか、そういう、法で縛られたものだった。

けれど僕たちは簡単に、結婚とはいかない性別の壁があって。

ずっと一緒に居たいだけだけれど、僕たちが二人で居ることに、嫌な顔をする人が居るということも、理解はしていて。

だから時々、泣きたくなるのだ。

好きなだけなのに、難しいことについて。

様々な人が戦ってくれて、いろんな制度が生まれ始めていることも知っている。

もちろん幸一君の気持ちだって大切で、けれど幸一君に、将来どうしたい?なんて聞く勇気はまだ無くて。

それなのに、僕は。

幸一君は、僕たちがずっと一緒に居ることで、家系が途絶えてしまうことに悩んでいたけれど。

僕はまだその手前の、ずっと一緒に居られる、居ても良い、という証明の方で引っかかっていた。

未来はどうなるか分からない。

だからこそ、繋ぎ止めておける何かが欲しかった。

僕たちのクラスや、進路が、もしバラバラになってしまったとしても。

僕たち二人はこれからも、ずっと傍に居ていいのだと。

これからもずっと、傍に居るのだという、証が欲しかった。

「……最近、静か」

「うん」

「何かあったか」

「ううん。幸一君が好きだってことを考えてた」

考え事をしている間は静かな僕を、気にしてくれた幸一君。

ぎゅっとその体に抱き付くと、幸一君も優しく抱き締めてくれる。

僕はこの温もりから離れたくない。

今すぐ幸一君を連れ去って、遠い島で、二人だけで生きていけたら良いのに。

でも僕たちはまだ学生で、僕たちは二人共、家族のことが好きだった。


寒くなるのと同時に、暗くなるのも早くなってきて。

危ないからって、早めに見送ってくれる幸一君に、優しさを感じると共に少しだけ、不満も感じていた。

僕は、こんなにもずっと一緒に居たいと思っているのに。

それは不満というより、ただの拗ねかもしれないけれど。

僕はちょっとだけ、モヤモヤとしていた。

だから。

「やだ」

「……」

そろそろ、って目をした幸一君に、僕はぎゅっと抱き付いて離れない。

だって、今から帰っても、まだお母さんが帰ってくるまでたっぷりと時間がある。

それならその分だけ、僕は幸一君と一緒に居たかった。

多分、将来のことを考える時間が増えたせいで、今こうして一緒に居られる時間がどれだけ貴重か、少し実感したせいもあったと思う。

「幸一君は寂しくないの」

僕から出た声は、思っていたよりも小さくて、そして拗ねている感情が明らかに漏れ出ていた。

幸一君の優しさは、僕の為を思ってのものだと分かっている。

分かっているけれど、寂しいものは寂しかった。

「はぁ」

「っ」

首元で、大きな溜息が聞こえて、息が詰まる。

その吐息が僕の首を撫でたせいもあるけれど、それ以上に、溜息が出るほど、呆れられたのだと思って。

体が固まって、一気に冷える。

ずっと幸一君と一緒に居たいのに、その幸一君に呆れられてちゃ駄目だろ、僕。

呆れられただけならまだ良くて、幸一君の中の、僕への気持ちがマイナスに傾いてしまったらそれこそ終わりだ、と怖くなる。

僕は抱き付いていた腕の力を緩めて、離れる。

幸一君の足に乗せていた足も途端に恥ずかしくなって、慌てて降ろした。

好きって気持ちを押し付け過ぎていたかもしれない。

好きって気持ちが溢れ過ぎて、独りよがりになっていた。

僕は泣きそうになるのを堪えながら、ちゃんと離れて、側に落ちていたカバンを拾う。

「ごめんなさい、あの、また明日」

そう言ってから、本当に僕たちに明日は来るのかなと思ってしまった。

仲が良いままの明日は来るのかなと、不安に思ってしまった時点で駄目だった。

目から涙が溢れて、次々に頬を伝って零れていく。

「おい、」

「上手くできなくてごめんなさい」

「え?」

「僕、全然上手くできてない。好きな人ができるのも、お付き合いも、全部初めてで、ごめんなさい」

本当はもっと上手に甘えたいのに。

本当はもっと上手に甘えさせてあげたいのに。

僕が最近考えていることだって、本当はもっと上手くできるはずなのに。

迷って、悩んで、躊躇して、結局、下手で。

情けなさが積み上がって、今崩れた。

ボロボロ泣く僕に、幸一君は何も言わないけれど、戸惑っているのを感じる。

「僕、幸一君が幸せで居てほしいのに」

僕自身も戸惑っていた。

僕も僕が変だと思う。

一度考えてしまった案が頭から離れなくて、絶対駄目なのに、絶対良いと思ってしまって、忘れたいのに忘れられなくて、僕はもう、ずっと、ずっとおかしい。

「僕のお母さんと幸一君のお父さんが結婚すればいいのに」

「……」

「そうしたら幸一君と家族になれるのに」

「……りょう、」

「そうしたらお揃いの苗字で、ずっと一緒に居られるのに」

「……」

「ごめん幸一君。僕ずっと最低なんだ」

僕と幸一君は、同性で。

学生で。

何も持たない、子供で。

そんな中で、家族になりたいと願ってしまった。

そんな中なのに、結婚すれば得られる同じ苗字に憧れてしまった。

順当にいけば得られるはずのそれらを、僕たちが得るにはハードルが高くて。

僕は皆の幸せを願っていて、好きな人には幸せでいてほしいと思っているのに。

皆を利用して、僕の望みを叶えようとしていて、僕のぐちゃぐちゃだった。

幸せで居てほしい。

幸せになりたい。

望んだものを得たい。

幸一君とずっと一緒に居たい。

多分、普通の恋人に向ける感情よりも重い僕のそれは、いつしか僕自身も押し潰していて。

自分の行動や思考に嫌気が差していた。

こんな危ない思考の持ち主は、真っ直ぐで純粋な幸一君や、僕のお母さん、幸一君のお父さんの、側に居てはいけないと思った。

自分勝手で、自己中心的なのに、気付いてしまってからは願うことを止められなかった。


『二人共凄く美味しいって喜んでくれてる』


『一生懸命感想を伝えてくれるの、嬉しいね』


『大切な時間として扱ってくれて幸せだね』




『なんかもう、家族みたいだね!』




僕は。

そうやってお母さんに、久保井家の二人と、関わることは幸せだ、という認識を刷り込むように、話していた。

僕はお母さんに、幸一君に、幸一君のお父さんに、顔向けできないほどのことをした。

罪悪感で押し潰されそうで、それ以上に、手に入れたくて仕方なかった。

『久保井』という、幸一君と揃いの苗字が。


「涼太」

僕の腕を掴んだ、幸一君の声が聞こえる。

涙が止まらないから、前はよく見えない。

それでも顔を上げると、幸一君とぼんやり目が合って。

瞬きした直後だけ、クリアになった視界で。

「一緒に地獄に堕ちるか」

幸一君が、そう言った。


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