皆を幸せにしたいのに
それから暫く、僕たちは平和に過ごしていた。
お昼は幸一君と食べて、休み時間で時々峰君たちと話して、幸一君も後ろの席の人と、程々に仲が良くて。
移動教室でのキスは、しなくなった。
代わりに幸一君のお家で、少しだけ触れ合う。
幸一君が録画してくれていたドラマを観たり、一緒に宿題をしたり、ただ話して、そうして、時々キスをする。
幸一君の体の薄さは元に戻りつつあって、同時に筋トレを始めたらしくて、肩幅がよりしっかりとしてきた気がする。
時々見せてもらえる筋肉は、ムキムキというより、しなやかに隆起する筋肉、という感じで、正直かっこよくて悔しい。
僕も頑張ってみようかなと思ったけれど、幸一君には、涼太はそのままでいい、って言われたので、素直に頷いた。
僕はちょっとだけ、運動が苦手だったから。
変わったことといえば、みんなマフラーとか、手袋とか、防寒具を着けるようになったこと。
季節はすっかり冬で、堂々とくっつける、とてもよい気温だった。
だから僕はソファの上で、幸一君の足に絡まって、くっついていた。
「俺は里芋が好きだった。父さんは厚揚げが好きだって言ってた」
「そっか、お母さんに伝えるね。いつも凄く喜んでるよ」
「ん」
幸一君は僕のお母さんのご飯を食べた後、必ずメッセージをくれるけれど、こうして会っている時にも直接、また別の感想を聞かせてくれるからマメだなぁと思う。
それから幸一君は、幸一君のお父さんのことを、『父さん』って呼ぶようになった。
少し前は『父親』って、少し他人行儀だったから、一緒に晩御飯を食べるようになって、ちょっと仲良くなれたのかなと思うと嬉しかった。
「最近、父さんが早く帰ってくる日が増えた」
「……えっ!?本当!?」
一瞬考えて、慌てて体を起こす。
それって凄いことだ!と思うと、幸一君も少し嬉しそうに笑っていて。
「本当。涼太のお陰。涼太と、涼太のお母さんのお陰」
「…………」
「泣くなよ」
だって。
それは泣くに決まってる。
幸一君のお父さんは、ずっと残業をしていて、幸一君が寝てから帰ってきて、起きる時にはもう出社していたと聞いていたから。
せめて僕のお母さんのご飯を受け取る時くらいは早めに帰って、幸一君とご飯を食べてほしいと願ったのは僕だ。
だから五日に一回くらいは、一緒にご飯を食べられるようになっていて、それでも凄いことだったのに。
それ以外の日も早くに帰って、幸一君とご飯を食べようと努力してくれていることが、自分のことのように嬉しかった。
僕の提案に嫌な顔せず頷いてくれた幸一君、快く頷いて協力してくれた僕のお母さん、突っぱねたりせず、受け入れてくれた幸一君のお父さん。
きっかけは僕だったけれど、そうして三人が、三人共協力してくれたから生まれた幸せで。
協力するだけじゃなくて、幸一君は毎日感想と感謝を伝えてくれて。
僕のお母さんは最近、定番になっていた料理教室のレシピを一新して、幸一君と、幸一君のお父さんの為に、少しだけお肉料理のレパートリーを増やしてくれた。
それから、幸一君のお父さん。
幸一君のお父さんは、忙しい中でもなんとか時間のやりくりをしてくれて、幸一君とのご飯を時間を、大切にしてくれている。
皆、提案を受け入れるだけじゃなくて、それ以上の行動を起こしてくれていて嬉しかった。
だから僕も何か、もっと皆を幸せにできる方法がないか、考えたいのに。
僕の発想は、駄目な方に行きがちだった。
そう、最近の僕はまたおかしかった。
皆を幸せにしたいのに、一番最低な方法で、僕が一番、幸せになりたがっていたから。




