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一緒に地獄に堕ちるか。  作者: 雨宮ツムグ


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13/27

伝えるから

僕があまりにも泣くから、久保井君はお粥どころじゃなくなって、ティッシュを箱ごと僕にくれる。

けれどそれでも全然止まらなくて、涙を吸い切ったティッシュが山のように生まれて申し訳なかった。

でも、止まらないのだ。

止めようと思っているのに、止まらなかった。

久保井君を傷つけているのは、他の誰かの正しさだと思っていて。

だからその誰かの正しさに、怒りすら感じていたのに。

それ以前に、久保井君の心を傷付けていたのは僕だと気付いた。

申し訳なくて、なんて最低なんだろうと思って、悔しくて、涙が止まらなかった。

でも、伝えておかなきゃいけないことがある。

僕は久保井君のことを、忘れてしまった訳では無いと。

「僕、峰君……山口君たちと、席が近くなった時」

「ん」

「それでも久保井君と一緒に居たいって思ってたんだよ」

「……え、」

「お昼も久保井君と食べたくて、声を掛けようとした。でも久保井君はもう一人で食べていたから、僕とは食べる気が無くなっちゃったのかなって思って。移動教室でも、僕、いつもみたいに、最後まで残るつもりだった。でも、峰君たちに連れ出されて。あの時、久保井君のことを見たら、久保井君は僕のこと全然見ていなかったから……ああもう、終わっちゃったんだ、って思って」

膝に置いた、半分くらいになったお粥を見る。

でも僕の頭には、あの移動教室の光景が広がっていた。

久保井君はもう、こちらを向くことはなかった。

その光景に、胸が痛くなる。

今思い出しても悲しくて、痛くなる。

「でも、ちゃんと話せば良かった。久保井君の仕草だけじゃなくて、ちゃんと話を聞けばよかった。僕、あれからもずっと久保井君のことが好きで、忘れられなくて、苦しかった。同時に久保井君を傷付けてもいた、ごめんなさい。本当はずっと……好きだった」

「……秋村」

久保井君の、戸惑ったような声が聞こえる。

だから僕は視線を上げる。

久保井君は僕を真っ直ぐと見ていて、それから本当に、少し驚いた顔をしていた。

「僕が振られちゃった、悲しい側だと思ってた。本当にごめんなさい。僕、これから久保井君に、ちゃんといっぱい好きって言いたい。好きって堂々と言える立場、今からでももらえる、のかな。僕……久保井君の恋人になりたい。だめかな」

今更かもしれない。

良い意味でも、悪い意味でも。

僕たちは昨日好きって言い合って、今こうして一緒に居て、キスも沢山した。

だから良い意味で、今更かもしれない。

けれど、僕は久保井君を深く傷付けていて、それはトラウマにも成り得るものだった。

だから悪い意味で、もう今更、無理な望みなのかもしれなかった。

久保井君は、迷っている、みたいな顔をしていて。

僕が久保井君に対して、傷付けてしまった申し訳なさを感じているように。

久保井君も僕の、家系を考えて、申し訳なさを抱えているのかなと思った。

「僕の気持ちは変わってない。好きな人と一緒に居たい。久保井君と一緒に居たい。でも僕と一緒に居たら、久保井君は辛い?僕の家系がって思って、辛い?それなら、それなら……僕」

久保井君を頑張って、諦める。

僕は好きな人と一緒に居たい。

でもそれ以上に、好きな人をもう、傷付けたくない。

久保井君が僕と居てくれたら、僕は幸せだけれど。

代わりに久保井君がずっと辛くなるなら、それは僕の望みじゃない。

だから、頑張って、諦める。

でも、それが最後まで言葉にできなくて、また涙が出る。

言ってしまったら、もう取り返せない言葉だから言い出せない。

僕は本当は久保井君と居たい。

でも久保井君を傷付けたくはない。

その狭間で、ずっと、板挟みで抜け出せなくて、涙が出る。

僕は、僕が幸せにする、と、宣言する力がなかった。

僕はまだ学生で、保護者であるお母さんに、守られている存在で。

そんな僕に、何ができるのかと問われたら、多分、何もできない。

でも傍に居たい。

久保井君と一緒に居たい。

久保井君が好きで、好きな人と、一緒に居たい。

全部本音だから、決断できない。

一緒に居たいと、傷付けたくない。

またボロボロ涙を零す僕を、久保井君はじっと、ずっと見ている。

「別れたくなったら、ちゃんと話して相手を納得させる、ってのはどう」

「……別れたくない」

「っは、うん。今はそう。でも、もしいつか別れたくなったら、お互いちゃんと納得して別れよう」

「…………」

「泣くなよ」

困ったように笑いながら、久保井君は言う。

でも好きな人に、大好きな時に、別れたくなった時の話なんてされたら、泣くに決まってる。

でも、久保井君が伝えようとしてくれている意味は、ちゃんと分かった。

僕たちは、殆ど思い込みで、悲しいすれ違いが起きていたから。

だからもし、別れたくなった時。

その時は、ちゃんと話をして別れよう。

そういうことなのだと思った。

別れたがっているのかも、嫌われたのかも、って、想像したり、勝手に察しちゃうんじゃなくて。

今回の反省を活かして、ちゃんと話し合おうって、久保井君は提案してくれている。

なら、それなら。

「分かった、別れない」

「……頑固者」

「僕が別れないって言い続けたら、別れられないね、久保井君」

「……まあ。でも、すれ違うよりは、ぶつかる方がいい。秋村となら、そうしたい」

「…………」

「泣ぁくなよ」

ぐい、と雑にスウェットの袖で目元を拭われて、笑う。

きっと久保井君は、僕が別れたいって言ったら、理由も聞かずに頷くのだろう。

僕のことを、僕よりも深く考えてくれている久保井君のことだ。

僕が他の人を好きだとか、子供が欲しいとか、そんなことを言い出したらきっと、それ以上の理由は聞かずに、受け入れるのだろう。

だから、ちゃんと言えよ、って。

もしそういう感情が芽生えた時は、ちゃんと言えよ、って。

そういう意味も含まれている約束事なのかなと思って、胸に強く突き刺さる。

逆に、もし久保井君に他の好きな人ができた時。

僕は受け入れられるのかな、と思う。

きっと沢山泣いて、絶対やだって思って、でも。

好きな人には幸せで居てほしいから、受け入れられるのかもしれない。

だからこそ、約束事を追加しなきゃいけないと思った。

「僕の為を思って、久保井君自身の気持ちに嘘を吐くのは禁止」

「……」

「もし……何かあれば、ちゃんと言うって約束、する。だから久保井君は、好きなら好きって言って、僕を幸せにして」

涙は漸く止まっていた。

その目でじっと、久保井君の目を見る。

久保井君はちょっと視線を逸らした後、ちょっと悩んだ顔をしていて。

「……好きって言われて、幸せなのか」

そんなことを言うから、ちょっと怒った顔を作る。

「幸せに決まってる。久保井君は僕に好きって言われて幸せじゃない?嬉しくない?」

「……幸せ。嬉しい」

「それと同じだよ。嬉しくてにこにこしちゃうよ」

真剣に言うと、久保井君は頷く。

「分かった」

「約束だよ」

「ん」

「……約束のちゅーする?」

「して」

「うっ、えっと」

「して、涼太」

「……う」

こ、ここで名前を呼ぶのは、ずるいと思う……。

照れる久保井君が見られるかなって、ちょっとした悪戯心で言ったのに返り討ちにされた。

だから僕は覚悟を決めて、ちょっと久保井君に寄る。

でも久保井君が一向に目を閉じないから、ちょっと拗ねた。

「目、閉じて……よ」

「ん」

お願いすると、ちゃんと目を閉じてくれる。

けれど目を閉じて僕のキスを待つ久保井君、という光景は、それはそれで刺激が強くて。

ちょっと迷って、悩んで、深呼吸をして、気合を入れて、ちゅ、とキスをする。

そうしたら、器用にお粥の入ったお皿を回収しながら沢山キスが返ってきて、また僕はヘトヘトになってしまう。

散々キスした後、僕の目尻にもキスをした久保井君が、自分の唇を舐めて。

「……しょっぱい」

ちょっと嬉しそうに呟くから、僕はまた泣いてしまった。

「泣くなって」

「だって、だって」

久保井君の味覚が戻って、嬉しいから。

お粥を美味しそうに食べていたのも、理由が分かって、繋がって、また泣く。

苦しませてごめん、久保井君。

これから沢山、いっぱい好きって伝えるから、だから。

二人で幸せになろう、きっと、ずっと。


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