第2話:星の導き、未知の迷宮、そして冒険の資格
神殿を出た俺の視界には、依然として肩の黒烏――瑞兆の星にちなんで『景星』、呼び名は『ケイ』と名付けた――が放つ、まばゆい光の矢印が伸びていた。
高校を辞め、テイマーとして生きると決めた俺がまず向かったのは、探索者たちを束ねる政府直轄の機関「ダンジョン管理ギルド・関西本部」だった。
近代的な高層ビルのロビーは、重武装したテイマーや、煌びやかな精霊を連れたエリートたちでごった返している。俺は受付の列に並び、ようやく自分の番を迎えた。
「次の方どうぞ。――あ、本日15歳になられた方ですね。神授の儀、お疲れ様でした。ギルドカードの新規発行手続きでよろしいですか?」
窓口の女性職員は、営業スマイルを浮かべながらテキパキと端末を操作する。
「はい、お願いします。今日からプロのテイマーとして活動したいので」
俺がそう答えると、職員は「分かりました」と頷き、デスクの上に一枚のタッチパネル端末を滑らせてきた。画面には、現代ダンジョンにおける厳格な「ランク制度」と「入場規制」に関する説明書が表示されている。
「手続きの前に、基本的な規約の確認をさせていただきますね。ご存知の通り、現代のテイマーおよびダンジョンは、命の安全を守るために厳格なランク制度によって管理されています」
職員は画面を指差しながら、慣れた口調で説明を続けた。
「テイマーランクは上から【S、A、B、C、D、E、F】の7段階に分かれています。本日登録される天野様は、一律で一番下の『Fランク』からのスタートとなります」
画面には、それぞれのランクに対応するダンジョンの「入場制限」が詳しく記載されていた。
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【ギルドランクと入場規制ルール】
Sランク: 国内すべての既知ダンジョンへの立ち入りを許可。
A〜Bランク: 深層エリア(上級・「京都御所ダンジョン」など)への進入許可。
C〜Dランク: 中層エリア(中級・「生駒山ダンジョン」など)までの進入許可。
Eランク: 各ダンジョンの浅層エリア(初級・「大阪城公園ダンジョン」など)の進入許可。
Fランク: 各地にある政府指定の「訓練用ダンジョン」のみ進入許可。
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「ダンジョンの入り口には強力な魔力障壁のゲートが設置されており、ご自身のギルドカードをかざしてランクが認証されなければ、物理的に中へ入ることはできません。Fランクのテイマーが、許可なくEランク以上の階層へ足を踏み入れることは法律で禁じられています。……天野様のパートナーの初期レベルは1、戦闘力評価は測定不能とのことですので、まずはここから近い『扇町公園訓練用ダンジョン』で、最低でもレベル10を目指していただくことになりますね」
「分かりました」
俺は素直に頷いた。確かに、レベル1のカラスを連れて普通のダンジョンに入れば、一瞬で命を落とす。だから国がこうして入場を厳しく制限しているのは当然だ。
……だが、俺の視界の端では、ケイの「導く力」が放つ光の矢印が、訓練用ダンジョンとは全く違う方向をハッキリと指し示していた。
その先にあるのは、中級テイマー以上しか立ち入れないはずの「生駒山ダンジョン」。しかし、ケイが見せているのは、ギルドの監視がある正規の入場ゲートではなく、山林の結界が歪んだ「警備の穴」――内部の完全な未踏エリアへと直接繋がっている隠しルートの入り口だった。
国が敷いたルールの外側を、この烏は見ぬいている。
「それでは、ギルドカードの発行に移ります。こちらの魔力認証板に、利き手を置いてください」
差し出された黒い金属板に手を置く。
肩のケイが「カー」と短く鳴くと、手のひらを通じて俺たちの魔力が金属板へと吸い込まれていった。直後、機械が電子音を鳴らし、スリットから一枚の半透明なカードが排出された。
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【ダンジョン管理ギルド公認カード】
氏名: 天野 漣(15)
テイマーランク: F(最下級)
登録パートナー: 黒烏(Lv.1 / 星属性)
所属支部: 関西本部
入場可能エリア: 扇町公園訓練用ダンジョン、およびF級指定区域
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「カードの発行が完了しました。天野様、テイマーの世界は完全な実力主義です。レベルを上げ、ギルドの昇級試験を突破すれば、より深い階層へ挑む資格が得られます。……どうか、ご無事で」
「ありがとうございます」
手に入れたばかりの冷たいギルドカードをポケットに押し込み、俺はギルドのビルを飛び出した。
ロビーでは、強力な竜や精霊を連れたエリートテイマーたちが、ランクアップの報告をして周囲から歓声を浴びている。レベル1のカラスを連れた俺など、誰も一瞥すらしない。
だが、それでいい。
「よし、ケイ。まずはギルドの言う通り、訓練用ダンジョンで肩慣らしだ。お前の力を試してみよう」
俺はポケットのカードに触れながら、まずは実力をつけるために、「扇町公園」の訓練場へと足を進めた。
この最下級のカードが、いずれ世界を震撼させる百鬼夜行のマスターキーになることを、今はまだ俺しか知らない。




