#6 特等席で良かったな
大破した漆黒の装甲。風穴の空いた胸部から立ち上るどす黒い煙が、鬱蒼と茂る木々の隙間を這い上がり、鉛色の空をさらに暗く塗り潰していく。
硝煙と焦げた潤滑油の臭気が立ち込める森の中、片翼と左腕を失ったツバサとソラのアルマ『Ferrum AvisMk-II』が、地に膝を突くようにして沈黙していた。その満身創痍の鉄の塊を見下ろす位置に立つ、真紅のアルマ。その外部スピーカーから、くぐもった電子音が静寂を破る。
『引くのは勝手だけど、優しい先輩が命の恩人になったんだ。礼くらい言ってくれてもいいぞ?』
ノイズ越しの軽口が響く。
衝撃感知のアラートが流れたままの狭い操縦席の中で、ツバサの強張っていた肩がわずかに下がり、操縦桿を握る指先から力が抜けた。
コックピットの扉を叩く音が聞こえ、ツバサがロックを解除すると、転がり込むようにソラが入ってきて、器用に自分の席に座る。
「お、おぉ…ソラ」
操縦桿に体を預け、首だけで振り返り、気の抜けた声をこぼすツバサ。
そんなツバサには目もくれず、ソラはコンソールを手際よく操作し、アラートを鳴り止ませて通信を開始した。
「本当に助かりました!ありがとうございます、先輩!」
見えていないにもかかわらず、ソラは深々と頭を下げる。
『うむ、苦しゅうない……って、冗談でも言ってやりたいが、とりあえず場所を移す。さっきの騒ぎで、後続が来るかもしれない。疲れてるとこ悪いが、急ぐぞ。ついてこい』
アネッサのひどく冷静な声に、二人は背筋が伸びる。
聞きたいことは山のようにあったが、自然とそれらを呑み込んだ。
「は、はい!」
「ウス」
ツバサは姿勢制御ペダルを深く踏み込む。残された右腕の巨大なマニピュレーターを地面に突き立て、土塊をえぐりながら無理やり機体を持ち上げた。
駆動系から金属の軋む鈍い音が響き渡り、装甲の隙間から細かな火花が散る。なんとか直立を保った不格好な機体は、滑らかに歩み去る真紅の背中を追って、重い足取りで踏み出した。
太い枝葉をかき分けながら進む道中、回線越しに低い声が流れてくる。
『お前らが戦ってた、さっきの黒いヤツ……あれは何だ?』
「え?……アルマ、じゃないんですか?」
イマイチ要領を得ない質問にソラは、少し眉を顰める。
淡々とした声調のまま、アネッサは続ける。
『ハイルゼンの軍用機かと思ったが、そうじゃなかった』
「……ど、どういうことですか?っていうか先輩、そんなことわかるんですか!?」
『戦ったら分かるだろ。明らかに装甲が違う。まぁ、私が知らないだけで現行機がアレになったのか、それとも……』
アネッサの返答に、ソラはコンソールを操作する指先をわずかに迷わせた。
そんな中、不意に、別の声が通信に割り込んだ。
『話の途中ですまないが、少しいいかい?』
それは、アネッサと共にアルマに乗り込んでいるオペレーター――カケルの声だった。
『二人とも無事で何よりだが……荒木と橘さんに、何かあったのか……? どうして、さっきの場所に二人のアルマがあったんだ?』
薄暗いモニターの灯りの中、ソラは膝の上で両手を強く握り込んでいた。爪が手のひらに食い込む。固く結ばれた唇の端からじわりと血の味が広がるが、そこからは嗚咽の一歩手前の、かすれた呼気しか漏れない。
沈黙を破ったのはツバサだった。前方のモニターから一切視線を外さず、抑揚のない平坦な声だけをマイクに乗せる。
「……死んじまった」
『っ!?』
息を呑む音が通信機を震わせる。
『し、死んだって……あの爆撃に巻き込まれてか!?おい、阿波峯! 本気で言ってるのか!?』
スピーカーから鼓膜を突き刺すような叫びが響いても、ツバサは微動だにしなかった。瞬きすら忘れ、濁った目で、前方を歩む真紅の機影だけを凝視している。
その指先は、操縦桿を握り締めたまま硬直していた。
『そうか……』
カケルの上擦った叫びを圧し潰すように、アネッサの酷く冷めた声が割り込む。
しかし、その背後で、彼女の機体の駆動音が一瞬だけ不自然に跳ね上がった。
『……二人とも思いつめるのは勝手だが、あんまり無理はすんなよ。自分が壊れてちゃ世話ないぞ』
「……っ、すみません」
ソラが振り絞った声は、自嘲的なノイズに掻き消された。
真紅のアルマはようやく動きを止める。それに倣ってツバサも少し後ろでアルマを休ませた。
風の音すら遠のくような、重苦しい沈黙。
左の腕と翼を失い、著しく重心の狂った機体からは、姿勢を維持しようと低く唸る油圧系の負荷音だけが、コックピットの床を伝って足の裏に不気味に響いていた。
短い間のあと、重い空気を振り払うようにアネッサが口を開く。
『さて、どうするか……今、私たちが取れる現実的な選択肢は二つ。“ここから少し離れた場所にあるハイルゼン軍の駐屯地へ向かう”か、それとも“軍の到着を信じて、このまま森の奥深くに隠れてやり過ごす”……か。お前らはどっちがいい?』
「ぇ……」
平坦な声で選択肢を並べるアネッサに対し、コックピット内には油圧の駆動音だけが重く響き続けている。
しかし、それを切り裂くようにカケルの力強い声が響く。
『僕は隠れるべきだと思う。これ以上無暗に動いても、却って危険に晒されるだけだ。それに、これだけの規模の爆撃。軍は既に動いていると見ていいだろう。僕らが何かをする必要はない』
駐屯地までの道のりが安全な保障はどこにもない。生存を最優先とするならば、もっとも理にかなった選択だった。
「…………そう、だな」
芯の抜けた声がコックピットに落ちる。ツバサは操縦桿を一瞬だけ強く握り直すと、顔を伏せた。
後部座席のソラは、正面のコンソールモニターには目もくれず、目の前にあるツバサの背中だけをじっと見つめている。
「あの……」
ソラは小さく息を吸い、ツバサの後頭部にそっと語りかけるように、細い、しかし輪郭のくっきりとした声を発した。
「家族の、安否確認に行きたい……なー、なんて」
「は?」
ツバサは思わず振り返る。
『街に降りるということか』というアネッサの問いに、ソラは一度だけ深く頷き、「はい」と返す。
『はぁ!?いきなり何を言ってるんだ!そんなの無茶に決まってるだろ!!』
悲鳴のように、カケルの声がひっくり返る。
「ソラ、コイツの言う通りだ。今は生き残るのが先決で、そんなことは後回しで――」
「……無理はしちゃダメだよ、ツバサ」
静かな遮りに、ツバサの言葉が宙で止まる。
後ろへ向けたままの顔を上げると、すぐ近くからソラが覗き込んでいた。その左右の眉根は、わずかに中央に寄せられている。
ツバサは次の言葉を紡ごうとした形のまま、唇が微かに戦慄く。
ソラのまっすぐな瞳が、ツバサの視線を正面から捕らえて離さない。その濁りのない瞳孔の奥に、冷静を装おうとして哀れなほど強張っている、自分自身の顔が小さく映り込んでいた。
――ハッと弾かれたように、ツバサはソラから視線を逸らす。
油の染み付いた自身の掌に視線を落とす。膝の上で、指先が制御を失ったように小刻みに震えていた。やがて、喉の奥の塊をすべて吐き出すように深く長い息を漏らすと、少し乱暴に髪をかき上げ、コンソールの通信スイッチを叩いた。
「……すみません、やっぱり俺も親父の安否が知りたいです」
『お前らなぁ……』
スピーカーから、温度を感じさせない冷ややかな声が降ってくる。
『ハッキリと言わせてもらうが、ここは今、間違いなく“戦場”だ。そして、戦場じゃそういう私情が一番命取りになる……分かってるのか?』
前方にそびえる真紅の巨躯は、アイドリングの重低音を響かせたまま、微動だにせず沈黙している。スピーカーから流れる声のピッチが、一段と低くなった。
『それで死んだら、その“家族”を恨むことになるぞ?』
「そんなことない……とは言い切れないっすけど、オレの親父なら、それくらい許してくれますよ」
ツバサの声には、先ほどまでの震えが嘘のように消えていた。操縦桿を握る右手が、ギュッと固く鳴る。
『……父親を、随分信頼してるんだな』
回線の向こうで、ふっと短い空白が生まれた。マイク越しの微かな衣擦れのあと、吐き出されたため息とともに、声のトーンが変わる。
『……はぁ、そこまで言われちゃ仕方ない。かわいい後輩のために一肌脱ぐとするか』
『んあ!? ちょっとアネッサ先輩! 本気ですか!?』
スピーカーの向こうでカケルの上擦った声が爆発する。それを遮るように、アネッサの割り切ったトーンが重なった。
『私とカケルは学生寮だから、どのみちここでの安否確認は不可能だ。付き合ってやる』
カケルの抗議を完全に無視したまま、アネッサは淡々と条件を突きつけていく。
『ただし、条件付きだ。ルートは私が決める。私の指示は絶対。あと、危険を少しでも感じたら、戦わずに必ず逃げること。どれか一つでも破ったら、強制的に作戦は取りやめだ。いいな?』
「わかりました」
「ああ」
『いや、良くな——!!』
カケルが叫びかけた抗議の悲鳴は、ブツリ、という無機質な電子音によって無慈悲にも掻き消された。
◇
森を抜け、傾斜を下った先、視界が開ける。
市街地から遠く離れた郊外へと出たが、そこに広がる光景も、見慣れた日常とはかけ離れた異界だった。
爆撃の高熱で溶解したアスファルトは、無数の気泡を抱え込んだまま不気味な波模様を描いて硬化している。かつて鮮やかな看板を掲げていた店舗群は、原型を留めない黒焦げた鉄骨とコンクリートの山へと姿を変えていた。
ひっくり返ってひしゃげた車体の傍らや、崩落した建材の隙間に、炭化した黒い塊が無造作に転がっている。外気を取り込むベンチレーターからは、粉塵と、剥き出しになった鉄筋の錆、そして焦げたタンパク質の生々しい臭気が絶え間なく流れ込んでくる。
――その異界を先導する、真紅のアルマのコックピット。
前後に分かれた複座式の狭い操縦席の中、後部席のカケルが乾いた唾を飲み込む音だけが響く。
「よそ見するなよ。集中しろ」
メインモニターを鋭く睨むアネッサの硬質な声が、張り詰めた空気を切り裂く。
黒煙を避け、倒壊した家屋の陰に機体を滑り込ませた。その時、自分たちのものと似た駆動音が、周囲の澱んだ空気に微かに混じった。前方の交差点の奥から、重い金属が等間隔で地面を叩く音と、這い寄るような振動がコックピットのシートを揺らす。
「二人とも、そこで止まれ」
通信越しに響くアネッサの声に、ツバサはピタリと機体を止める。
アネッサの指がコンソールを叩き、メインモニターの映像を望遠に切り替える。
瓦礫の奥、交差点付近に、不気味にうごめく複数の鉄塊――森で見たものと同じ漆黒のアルマだった。しかし、そのどれもが、アネッサたちに銃口を向けてはいない。
「せ、先輩!さっきのアルマがいます!しかも4機!! 」
「知ってるわ、私がズームしたんだろうが」
後部席からの大げさな声に、アネッサはモニターから目を離さずに返す。
「どうしますか!?このままアルマに乗っていたらレーダーに捕捉されますよ!一度降りて、民家に隠れ——」
「却下」
食い気味にアネッサが遮る。
「論外だ。敵が目の前に居て自分から丸腰になるやつがあるかよ。まあ、瓦礫の下敷きになるか、挽肉にでもなりたいなら止めないけどな」
「うっ……」
笑えない冗談にカケルの顔が引き攣り、シートに身をすくめる。
アネッサは手元のスイッチを弾き、回線を開くと息を吐くのと同じくらい自然なトーンで続ける。
「落ち着いて聞け。この少し先に、さっきと同じアルマが4機いる。今から私が囮になって引き付けるから、お前たちは路地を抜けて目的地へ向かえ。いいな?」
『え!?な、急に何言ってるんですか!?そんな……私たちも加勢します!』
ソラが声を上げ、ツバサがペダルを踏み込む。
「僕も囮なんですか!? ちょっと待ってくださいよ!」
「うっさい」
悲鳴を遮り、アネッサが言い捨てる。
「片腕もない状態でうろつかれても、足手まといだ。さっき言ったこと、もう忘れたか?私の指示は絶対だ」
なおも踏みとどまる手負いの機体に向け、真紅の装甲がメインカメラの緑光をギラリと瞬かせる。
『で、でも……!』
直後、サブモニターのレーダーに赤い光点が浮かび上がり、等間隔の点滅を繰り返しながら中心へと寄ってくる。
「先輩!敵機、こっちに迫ってきてます!」
カケルの悲鳴と同時に、交差点の奥の敵影が前傾姿勢になり、一斉に加速した。砂塵が巻き上がり、モニター越しの機影が急激に膨張する。
「早く行けッ!!」
真紅の背面から青白い炎が猛然と噴き上がった。アネッサの機体は残骸を蹴散らし、一直線に交差点へ躍り出る。
『……すみませんッ!』
ツバサは操縦桿を引き倒し、機体を反転させると、“Ferrum AvisMk-II”は土煙を上げながら指定された細い路地へと姿を消す。
『アネッ——』
声を上げたソラは、すぐにきつく唇を噛み合わせる。後方カメラの映像の中、赤い装甲が敵機の群れに単騎突入する赤い装甲を見つめ続けた。
敵の一機がツバサたちの駆動音を拾い、方向を転換する。
瞬間、空気を裂く金属音。
追跡機の脚部に、鋼鉄のワイヤーで繋がれた十字の大鎌が巻き付く。真紅の機体がスラスターの逆噴射で急制動をかけ、その反動でワイヤーを力任せに引き絞った。
バランスを崩した敵機が轟音を立てて前のめりに転倒すると、間髪入れず真紅の影が肉薄し、首元の装甲の隙間へライフルの銃口を押し当てて引き金を引く。
弱々しい火花が飛び散った。装甲の隙間から黒煙が吹き出し、追跡者は完全に沈黙。
「特等席で良かったな、カケル。私といる方が安全らしい」
不適笑みを浮かべるアネッサの後ろで、カケルはシートベルトをきつく握りしめていた。
「い、生きた心地がしない……」
コンソールが明滅し、サブモニターに見知らぬ通信信号がポップアップする。
「っ!先輩!恐らく敵から——」
「ハロー、こちら『Rubertal』パイロットのアネッサでーす……てめぇは?」
カケルが制止する間もなく応答し、せせら笑う。
『な、なんだ貴様!!パイロット!?やはり軍の!』
「誰かって聞いてんだ。答えないなら――」
アネッサの手がスロットルレバーを限界まで押し込んだ。
「用無しだ」
言い終わるや否や、通信を切断。真紅のアルマ“Rubertal”は、残る三機の敵機へ向けて全速力で突進する。
目の前にいた三機のアルマは横一列の陣形を組み、一斉射撃で迎え撃つ。
真紅の機体は、乱れ飛ぶ銃弾の雨を紙一重で躱していく。スラスターの細かな噴射によるステップと、ワイヤーを支点にした振り子のような機動。
アネッサの両手は、操縦桿とスイッチ類の間を目まぐるしく行き来していた。右へ左へと倒し、引いては押し込む。操作音だけがコックピットに連続して響く。カケルはその手の動きを目で追うことすらできない。
「ほら、働けオペレーター。つっても、いつも通りでいいけどな」
「え、は、はい!」
乱高下するGに耐えながら、カケルは必死にモニターにしがみつく。
メインカメラの奥では、横一列に陣取った三機の分厚い軍用機が、逃げ場のない弾幕を展開し続けていた。一発でも被弾すれば、装甲の薄い競技用機体など紙切れのように消し飛ぶ。
だが、カケルの前で操縦桿を握るアネッサの背中は、そんな致命的な質量差など存在しないかのようにリラックスしていた。弾雨の隙間を縫うようにペダルを滑らせ、コンソールを叩く彼女の呼吸は、“いつもの競技”の時と一寸の狂いもなく、静かに一定のリズムを刻み続けている。
実弾の飛び交う戦場では、狂気の沙汰でしかない。
「……な、なんなんだ、この人」
シートベルトに胸を締め付けられながら、カケルは血の気の引いた唇から無意識に言葉をこぼす。死の壁と化した火線を、たかが競技用機体で完璧にすり抜けていく。目の前で淀みなく動くその背中へ、カケルは頼もしさよりも、悪寒に似た震えを覚えていた。
真紅の機体はワイヤーを巻き取りながら建物の壁面を滑走し、敵機の死角へ回り込むと、腰の懸架装置からもう一つの十字鎌を引き抜き、敵の銃身をかち上げる。がら空きになった膝の関節部へ、至近距離からライフルの弾丸を叩き込んだ。
アネッサは煙を吹いて動かなくなったアルマの背後に回り込み、盾にするようにしてコックピットへ銃口を押し当てた。
戦場に訪れる刹那の凪――。
『我々の負けだ!降伏する!!』
外部スピーカーを通じて、切羽詰まった声が響き渡る。
「はぁ?何言ってんだよコイツ」
アネッサは不満げに息を吐き、首を傾げた。
『おい、聞こえないのか!?我々は降伏し、捕虜になると言ったんだ!その銃を下せ!』
「や、やったぞ!降参した!勝ったんだ!先輩!」
「チッ……」
アネッサは舌打ちし、突き指しそうな勢いでパネルを叩いて外部音声を拾う。
「生憎私たちは軍の人間じゃなくてね。ただ住んでた街が、あんた達にいきなり爆撃されて、焼け野原になっただけの民間人なの」
『は……?』
「だから、“意味ない”って言ってんの」
敵に呆れかえった一瞬。隙を突くように残りの敵機のうち一機が、ライフルの銃口を真っ直ぐにこちらへ向けた。
「っ!?まじかよっ」
アネッサは咄嗟にペダルを踏み込み、盾にしていたアルマを蹴り飛ばして横へ跳躍する。
弾丸は蹴り飛ばされた機体の装甲に直撃したが、同時に、盾にされていた機体の背面から緊急脱出のコックピット・カプセルが空中へ射出される。
「しまっ——」
ガシュ……!
「……!!」
肉を断つような鈍い音が、戦場に響いた。
宙を舞う脱出カプセルに、巨大な「質量」が突き刺さっている。両端に刃を備えた長大な薙刀。
衝撃の直後、カプセルは空中で激しく爆発し、火球へと変わった。
「な、何がどうなってるんだ!コックピットがいきなり!」
視線を激しく泳がせながらカケルが身を乗り出す。
その時、アネッサのメインモニターが驚異的な光景を捉えた。
猛烈に巻き上がる爆炎の中へと、“何か”が飛び込んだ。それは空中のカプセルの残骸から薙刀を力任せに引き抜くと、凄まじい風圧とともに、立ちこめる黒煙の奥からアスファルトの上に降り立った
全身を覆う純白の装甲。胸部の正面右側を中心に交差する十字の赤いライン。
割れたノイズ混じりの肉声が、周囲の空気を震わせた。
『おいおい……おもちゃに降伏するような奴のどこが兵士なンだよ……あぁ?!』
「っ!速い!」
アネッサがスラスターを吹かして後退しようとした——それより速く。
純白のアルマが一歩で距離を詰め、両手で握った薙刀を真横に薙ぎ払う。
アネッサは咄嗟に機体の姿勢を低く沈み込ませた。頭頂部が紙一重で掠め飛ばされる。しかし、残りの二機は反応すらできずに胴体を上下に両断されて崩れ落ちた。
「はぁっ、はぁっ……」
カケルは両手で頭を押さえ、座席にズレ落ちるように深く沈み込んだ。ずり落ちた眼鏡の奥で、瞳孔が恐怖に縮こまっている。
『雑魚ばっかり寄越しても意味ねンだよ』
アネッサは一瞬で戦場を壊滅させた純白の機体を睨みつける。その頬を冷や汗がなぞる。だが、その口角は微かに、歪な弧を描いて吊り上がっていた。
「……こういう先輩には、なりたくねえなぁ」
次回の更新は、明日(7/12)の夜になります。




