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#4 これってもしかして、

 ――ピロリロリン、ピロリロリン。


 処理落ちしたPCのように止まっていたツバサの世界に、間の抜けた電子音が鳴り響いた。


 ポケットの中で震え続けるデバイスからの着信音。


 その日常の残り香のような音に、ツバサの心臓がドクンと大きく跳ね上がった。瞬間、頭に分厚くかかっていたもやが吹き飛ぶ。


 遠ざかっていた耳鳴りが晴れると同時に、それまで水の中にいるようにくぐもっていた音が、濁流のように脳内へなだれ込んできた。


 燃え盛る炎の爆ぜる音。ひしゃげた鉄骨が軋む音。そして、四方八方から絶え間なく上がる悲鳴と叫喚。火薬と、焦げた肉と、生温かい血の臭いが、一気に現実味を帯びて鼻腔を焼く。


「……っ、はぁっ、はぁっ……!」


 浅く、速い呼吸は落ち着く気配すらない。


 いつも通りに、ただポケットへ手を伸ばすだけのはずなのに、どうしても指先がうまく動かない。そんな簡単なことすらままならないほど、ツバサは激しく動揺していた。


 もつれる指先で、何とかデバイスを引っ張り出す。液晶に躍る文字は――『ソラ』。


 ツバサは、狂ったように通話ボタンを強く押した。


『やっと出た!ツバサ――』


「大丈夫か、ソラ!!」


 鼓膜を刺す火災報知器の絶叫も、校舎を揺らす地鳴りも、周囲のおぞましい悲鳴も、すべてを怒鳴り散らすような声で掻き消す。


 しかし、返ってきたのは――無機質な機械ノイズと、通話を容赦なくぶった切る「プツッ」という短い音だけだった。


 次の瞬間、ツバサの身体は弾かれたように動いていた。先ほどまでの動揺など、綺麗さっぱり消し飛んでいる。


 近くの階段へと我先にと殺到する、生徒たちのパニックの渦。ツバサはその怒涛の流れを、強引に、力任せに押し退けた。目指すのは真逆――ソラがいるはずの教室のみ。


 視界の端を、無惨に転がる大勢の“人だったもの”が通り過ぎる。足元からは、今にも事切れそうなうめき声が縋りついてくる。


 だが、ツバサの足は一歩も鈍らない。そんなものは、今のツバサを引き留める理由には、1ミリたりともなり得なかった。


 煙に巻かれた廊下を抜け、ツバサは記憶を頼りにソラの教室があったはずの場所へと辿り着いた。だが、そこには崩落した天井と、無惨にひしゃげた鉄骨の山があるだけだった。


「ソラ……ッ!」


「ツバサ!!」


 瓦礫の向こう側から、悲痛な叫び声が聞こえてくる。


 声の先へ駆け出すと、崩れた壁の隙間で、ソラとシュンが取り憑かれたように巨大なコンクリート片に縋り付いていた。ソラの足元には、先ほど通話が途切れたデバイスが放り出されている。


「ごめん、急に繋がらなくなって……!手伝ってツバサ! チサが、チサが……!」


「ツバサ!そっち持ち上げてくれ!!」


 ソラとシュンは煤にまみれながら、言葉を交わす余裕もないまま、それに手を掛ける。視線を落とすと、巨大な瓦礫の下敷きになり、苦痛に顔を歪めるチサの姿があった。


「っ!!」


「いくぞ!せーのっ!!」


 シュンの掛け声に合わせてツバサも無言で飛び込み、三人で死に物狂いになってコンクリート片を持ち上げようとする――が、微塵も動かない。人間の力ではびくともしない質量を持つそれは、高校生数人の力でどうにかなる代物ではなかった。


「もう……いいよ、みんな……逃げ、て……」


 そう言ったチサの表情は、今にも押しつぶされそうな圧迫感と全身に走る鈍い痛みによって、ひどく歪んだ笑顔になっていた。


 その言葉に、シュンが顔を真っ赤にして怒鳴った。


「なに言ってんだよ! こんな時にそんな……!!」


 周囲の火の手は、刻一刻と勢いを増している。崩落の危険も迫る中、ソラはどうしていいか分からず、激しく動揺していた。横にいるツバサに聞こえるほど、息を吸う音は激しくなり、リズムも不規則になっている。


「早くしないと……早くしないとチサが!!」


「二人とも落ち着け!!」


 ツバサの鋭い一喝が、焦燥を切り裂いた。


 「――っ!」


 滅多に聞かないツバサの張り上げた声に、二人は反射的に我に返った。


「アルマだ……部室にアルマを取りに行くんだ。アルマを使えば……これくらいの瓦礫なら、退かせるはずだ」


「そんな、部室に行くなんて危険だよ!!何が起こってるか――」


「俺が行く!」


 妙案かと思われたツバサの意見を安易に肯定しないソラだったが、シュンが割り込み立ち上がる。


「俺が行くから……それでいいだろ?」


 振り返ったシュンの表情は、痛切なまでに硬かった。


 迫る火の粉を浴びながらも、その面持ちはびくとも動かない。声にならない悲鳴のような神妙さが宿った眼差しが、ソラを真っ直ぐに射抜く。その気迫に気圧けおされ、ソラは言葉を喉の奥に詰まらせた。


 その横で、ツバサがシュンに一歩近づく。


「一人はダメだ、俺も行く。提案したしな」


「ツバサ……よし、それじゃあ行くか」


 シュンは最後にチサと目線を合わせるように屈む。


「チサ、すぐに戻るからな」


「みんな……ごめん、ね」


 精一杯場を和ませようとする微笑みと、それに似つかわしくない絞りだしたようなかすれた返事。


 シュンの顔に、耐え難い苦悶が一瞬だけ這ったが、次の瞬間には、いつもの安心させるような笑みを浮かべる。


「なあに、いつものこったろ?そんじゃ行ってくる。ソラ、ちょっと頼むわ。わりぃな」


「シュン……」


 シュンは再び立ち上がり、今度こそ出発するというまさにその時。


 ソラが無言でその腕を強く掴み、引き留めた。


「やっぱりダメ! シュンはチサの傍にいてあげて! 私が行くから!」


「……っ!は、はぁ!?何言ってんだよ」


「お願い」


 ソラの真剣な眼差しにシュンは思わずたじろぎ、逃げるように視線を落とした。その視界の端に、いつの間にか笑顔の消えたチサが、苦しげに深く俯いている姿が映り込む。


 その視線を追ったツバサは短く息を吐くと、シュンの真正面に立つ。そして、無造作にシュンの前へ手を伸ばした。


「アルマのキー……早く寄越せ。時間ねーぞ」


 シュンは一瞬唇を噛み締めると、ポケットから乱暴に自分のアルマのキーを引き抜き、ツバサに託す。


「格好付かねぇな……すまん、頼んだ……絶対に、死なないでくれよ!」


 血が滲みそうなほど強く、シュンは両手の拳を握り込んだ。


「当たり前のこと言ってんじゃねーよ……ソラ、さっさと行ってすぐ戻るぞ」


「うん……!」


 ソラとツバサは二人をその場に残し、粉塵の中に消えていく。


 シュンは小さくなっていくその背中を見送りながら、チサの手を握り、ただ祈ることしかできなかった。



    ◇



 雪崩のように逃げ惑う生徒たちも見かけなくなったころ、ツバサとソラは部室のガレージを目指して敷地内の森を駆けていた。幸い、森の方にはまだ火は回っておらず、崩れかけた校舎に比べればはるかに安全な状態が保たれている。それもあってか、先ほどから、木陰のあちこちで生徒たちが身を寄せ合っている。


 ツバサはポケットからデバイスを取り出し、カケルとアネッサにも救援を要請しようと試みたが、画面には小さく“NO SIGNAL”と表示されており、まともに発信すらできない。


「ダメだ、繋がらねー」


「……アンテナ塔に何かあったのかも。さっきの通話もいきなり途切れたし」


「まじかよ、なんでもありだな……」


 ツバサは役に立たなくなったデバイスをポケットへ滑り込ませた。


「「…………」」


 静かな森の中を、二人が土を蹴る足音だけが規則的に響く。先ほどまでの肌を焼く熱気も、鉄骨の軋む不快な音もない。たまに聞こえるひそやかな人の声と、木々のざわめき。そして遠くで鳴り続ける小さなサイレンの音。


 冷たい空気を肺に入れるうち、今日の朝から、ずっと置き去りになっていたツバサの思考が、徐々に輪郭を取り戻し始めていた。


 視界を流れる穏やかな森の木々と、背後にある地獄のような惨状。そのあまりの落差に、ツバサからふと、感情の薄い声がこぼれる。


「なぁ……これってもしかして、戦争……なのか?」


「は!?いきなり何!?……って、きゃっ!」


 気を取られたソラが、隆起した木の根に足を引っ掛けて派手に転倒してしまう。


「ソラ!」


「い、痛たた……平気、ちょっと擦りむいただけだから、走れ――」


 言い終わるより早く、ツバサはソラの前に背中を向けてしゃがみ込んだ。


「早くしろ」


「え、でも私――」


「俺が背負った方が早い。急ぐぞ」


 迷う隙すら与えない短い言葉に、ソラは慌ててその首に腕を回し、大人しくその背に身を預ける。ソラを背負っているとは思えない身軽さで、ツバサは速度を落とすことなく森の奥へと突き進んだ。


 息を少し乱し、額に汗を滲ませた二人がガレージへ滑り込むと、そこにはいつものように三機のアルマが静かに鎮座していた。


 ツバサは、エメラルドグリーンとホワイトの塗装がなされたシュンたちの機体へ向かい、装甲を手際よく駆け上がってコックピットへ滑り込む。


 一方のソラは、自分たちのアルマ『Ferrumフェルム Avisアヴィス Mk-II(マークツー)』を見上げ、小さく息を吸い込んでからハッチへと這い上がった。


 アルマは基本、パイロットとオペレーターが同乗する“二人乗り仕様(ツインフレーム)”となっている。4人全員で安全にこの地獄から離脱するために、二機のアルマを起動する。


『いけるか?』


『私なら大丈夫!』


 ソラの返答とほぼ同時に、『Ferrumフェルム Avisアヴィス Mk-II(マークツー)』のメインカメラが点灯する。普段から弄り倒しているだけあって、機体を立ち上げるまでの計器操作はツバサ以上に早い。


 だが、自分の手足を動かすように滑らかに立ち上がったツバサの機体に対し、ソラの機体はひどくぎこちない。本来、オペレーターであるソラはアルマの操縦に関しては初心者同然だった。少しおぼつかない足取りで、ゆっくりと、しかし転倒しないよう確実に姿勢を起こす。


 二機のアルマが、重々しい駆動音を森の中に響かせながら、逆走を開始する。


 ツバサはソラを先導するように前を進む。その視線は、メインモニターと、後方を映す小さなサブモニターの間を何度も往復していた。自身の機体のスロットルを微妙に緩め、背後から聞こえるひどく不格好な駆動音と歩幅を合わせる。ツバサがスロットルを握る手を、それ以上深く押し込むことはなかった。


 二人はお世辞にも速いとは言えないスピードで校舎まで一直線に進み続ける。


「……なんだ?」


 木々をかき分け、不格好な歩みで進む二機の前に、逃げ惑う生徒たちの悲痛な声が森の奥から流れてくる。


 だが、その声に混じって――明らかに異質な音がツバサの耳を打った。


 自分たちのアルマとは全く違う、ズゥン、ズゥンと、地鳴りのように重く、腹の底を揺らす駆動音。


 木立が乱暴に薙ぎ払われ、砂埃の向こうから“それ”は姿を現した。


 競技用の鮮やかな塗装など一切ない、光を吸い込むような艶消しの黒い装甲。背丈こそ自分たちの機体を一回り上回る程度だが、全身を覆う装甲の分厚さが異様な圧迫感を放っている。そして、その右腕には、およそ学園には存在するはずのない無骨な銃器が握られていた。


『――マジで学生がアルマに乗ってんじゃん』

『世知辛いねぇ~』


 木々をなぎ倒し、二機の前に立ちはだかったのは――正真正銘の「軍用アルマ」だった。


 外部スピーカーから漏れ出した、ひどく気怠げで場違いな男たちの声。


 しかし、ツバサとソラの思考は、突然目の前に現れた異形の鉄塊に完全に支配され、その声の意味を処理することすらできない。


 鈍く光る軍用機の真っ暗な銃口が、身動き一つとれないソラの機体に真っ直ぐ向けられた。


「――っ!!」


 ガギンッ!!


 金属が激しくぶつかり合う轟音が森に響き渡る。


 弾き飛ばされたソラの機体すれすれを、轟音と共に大口径の弾丸が通り抜けていく。


 事態に追いつけずモニターの前で硬直していたソラは、コックピットを揺らす強烈な衝撃で我に返った。


「ツバサ!?」


 視界の先には、ソラの機体に思い切り肩から体当たりし、射線から強引に弾き飛ばしたツバサのアルマがあった。


『行けソラ……お前はシュンたちのところへ急げ』


 通信越しに響くツバサの声は、いつもより落ち着いていた。


「そ、そんなのダメだよ!ツバサも一緒に――」


『俺が時間を稼ぐ』


「無茶だよ! あんなの、競技用でどうにかなる相手じゃないって!」


「いいから行け!! チサのこと助けんだろ!!」


 通信越しに響いたツバサの怒声に、ソラは息を呑む。


「っ……すぐ戻るから!!絶対に!!」


 ギリッと奥歯を噛み締め、ソラは涙で滲む視界を振り切るように、機体を無理やり反転させ、不格好な足取りでできる限りの全速力で森を駆け出す。


 そのひどく遅い背中を逃がすまいと、黒いアルマが再びゆっくりと銃口を追従させる。


だが、その射線を遮るように、ツバサのアルマが驚異的な反応速度で跳躍した。


「舐めんな……ッ!」


 緑と白の装甲が風を切り、黒い機体の懐へと完璧なタイミングで飛び込む。機体の全質量と遠心力を乗せた、渾身の後ろ回し蹴り。装甲をへこませるほどの強烈な一撃が、敵の頭部に深々と突き刺さる。


 ――しかし。


 ガァンッ!!と鈍い金属音が響くと共に、敵機はわずかに数歩後ずさっただけ。


 反対に、蹴りを放ったツバサの機体は、まるで分厚い鉄壁を蹴りつけたような反動で無惨に弾き飛ばされ、地面を転がる。


「く……っ!」


 コックピット内には、関節部の損傷を知らせる赤いアラートがけたたましく鳴り響いた。


 競技用と軍用。その馬力の差、装甲の強度は、技術や気合いで埋まるような次元ではなかったのだ。


『っと。おいおい、カメラいかれちまったぞ。なんだぁ、今の』

『ハハッ、もしかして“カラテ”って奴かぁ?』

『へぇ~、カラテは攻撃した方がダメージを受ける競技なのか~。アッハハッ!!』


 男たちの小馬鹿にしたような笑い声が、律儀に外部スピーカーから垂れ流される。


 逃げるソラの背中から銃口を下ろすと、重々しい駆動音を唸らせながら、ゆっくりと――ひび割れたメインカメラの奥底で鈍く光るレンズで、足元に倒れ伏すツバサの機体を見下ろした。



   ◇



 不格好な足取りで木々を抜け、ソラはどうにか校舎の敷地内へと戻ってきていた。


 操縦桿を握る手は汗で滑り、モニターを見つめる視線は何度も森の方角へと彷徨う。頭の隅には常に、背後に残してきたツバサのことがへばりついて離れなかった。


 ようやく視界がひらけた時、崩れかけた校舎の壁の向こうに、小さく動く人影が見えた。


「シュン……!」


 こちらに向けて大きく腕を振るシュンの姿を視界に捉えた瞬間、ソラは自分の為すべきことを思い出し、ようやく集中力を取り戻した。乱れた呼吸を整えると、強引に目の前の操縦へと意識を引き戻す。


 ――その時だった。


 視界の端、海を背にして崩落した校舎の向こう側に広がる空に、不自然な黒い影がいくつも並んでいるのが見えた。


 鳥の群れではない。凄まじいスピードで空を裂き、一直線にこちらへと向かってくる――戦闘機。


「え……?」


 直感的な死の予感に、全身の血の気が引く。


 ソラはなりふり構わず、機体のスロットルを全開に押し込んだ。ぎこちない足取りなど気にする余裕はない。ただひたすらに、シュンとチサのもとへ急ぐ。


 モニター越しに拡大されたシュンの顔は、まだ何も気づいていなかった。空からの死の接近など知る由もなく、瓦礫の中で安堵の笑みを浮かべ、ソラに向かって何かを呼びかけているように口を動かしていた。


『逃げて!! シュン、逃げてぇぇぇっ!!』


 力の限り声を上げた、その直後。


 ソラの絶叫は、耳をつんざく爆音に呆気なく掻き消された。


 ――第二波が、街に降り注いだ。


 世界を白く塗り潰すような強烈な閃光と、鼓膜を破壊するほどの爆撃音。ソラの視界は、一瞬にして燃え盛る火の海へと変貌した。


 シュンが。


 チサが。


 見慣れた校舎が、一瞬にして爆発の炎と黒煙のうねりに飲み込まれた。


 直後、想像を絶する爆風がソラのアルマを直撃する。数トンの質量を持つ機体がおもちゃのように後方へと吹き飛ばされた。激しい衝撃で機体は地面を転がり、暴力的なGがシートに固定されたソラの全身を押し潰す。装甲が発する凄惨な金属音が鼓膜を破らんばかりに響き渡り――ソラの意識は、そこで途切れた。


 一瞬の暗転。いや、どれだけの時間が経ったのかも分からない。


「……ッ、げほっ、かはっ……!」


 肺に詰まった鉄の匂いと焦げ臭さに、ソラは激しく咽せ返りながら目を覚ました。全身の骨が粉々に砕けたのではないかと錯覚するほどの激痛。シートベルトの圧迫で内臓が焼けるように痛み、額から流れ落ちる生温かい血がツーッと視界を赤く染める。ソラは痙攣する腕をどうにか動かし、震える手で手動のハッチ解放レバーを引いた。


 重い金属音を立ててハッチが上に開く。外の空気を吸い込んだ瞬間、ソラの肺は熱を帯びた煤に激しく咽せた。


「…………嘘、でしょ」


 眼下に広がっていたのは、見慣れた学園の風景ではなかった。


 ただの、焼け野原。


 さっきまでシュンが手を振っていた崩れかけの校舎は、跡形もなく消え去っている。周囲は一面の焦土と化し、赤黒い炎だけがバチバチと音を立てて舐めるように燃え広がっていた。


 つい今朝まで、クラスメイトと笑い合っていた場所。


 そこにはもう、何もない――シュンも、チサも、もういない。


 呆気にとられ、俯くことさえできない。


 そして、炎の向こう、完全に崩壊し見る影もない校舎の奥に見えるのは、荒廃した街の姿。毎朝通っていた通学路も、寄り道したお気に入りの本屋も、全てが黒い瓦礫の山に変わって過去のものになっていた。


 ただ、その終わってしまった世界の中で、幾機ものアルマたちだけが、激しい金属音を打ち鳴らしながら絶え間なく激突していた。

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