第六章 世界の記録
老人は人生の終わりを迎えていた。
だが恐れていたのは死ではない。
「死後の世界ってどんな所なんだろうな」
そんな好奇心を抱いたまま死んだ男。
そして死後の世界で神と出会った彼は――
「観光していい?」
神界、世界管理庫、魔界、冥界。
見たいものは全部見る。
これは好奇心だけで神々を振り回す男の物語。
管理神は管理庫を見上げていた。
俺も見上げていた。
案内神は頭を抱えていた。
ずっと。
本当にずっと。
「管理神」
「なんだ」
「見せてくれるの?」
管理神は少し考えた。
「本来ならダメだ」
「そっかぁ」
俺は素直に頷いた。
管理神は少し驚いた。
「引き下がるのか」
「ダメなんでしょ?」
「そうだ」
「なら仕方ないじゃん?」
管理神は黙った。
この男は本当に不思議だった。
見たい。
だが。
無理やり見ようとはしない。
ただ純粋に知りたいだけ。
「だが」
管理神が言う。
俺は顔を上げた。
「少しだけならいい」
沈黙。
案内神が固まった。
「おい管理者!」
「なんだ」
「今なんと言った?」
「少しだけならいいと言った」
「ただの人間に見せるのか?」
「そうだな」
「重要機密だぞ?」
「管理者の俺が決めたんだ」
「文句を言うな」
案内神は天を仰いだ。
終わった。
何かが終わった。
完全に終わった。
管理庫の扉が開く。
俺は息を呑んだ。
そこにあったのは本ではなかった。
世界だった。
無数の光。
無数の記録。
生まれた文明。
滅びた文明。
生まれた星。
消えた星。
あらゆる世界の記録。
「おぉ・・・」
思わず呟く。
しばらく言葉が出なかった。
管理神は少し笑った。
「どうだ?」
「すげぇ」
それしか言えなかった。
今まで見たどんな景色とも違う。
今まで見たどんなものとも違う。
ただ圧倒されていた。
管理神は静かに頷く。
「そうか」
その横で。
案内神は呟いた。
「全部見たいと言うぞ」
「言うだろうな」
管理神は即答した。
そして。
案の定。
「全部見たい」
案内神は顔を覆った。
「やはりな」
管理神は少し笑った。
その時だった。
俺の視線が一つの光で止まる。
他とは違う。
妙に気になった。
「管理神」
「なんだ」
「あれ何?」
管理神の表情が少し変わった。
初めてだった。
管理神が表情を変えたのは。
「あれか」
管理神はその光を見つめる。
しばらく黙った。
「どうしたの?」
俺は聞いた。
管理神は静かに答えた。
「お前の世界だ」
俺は固まった。
「俺の?」
「そうだ」
管理神は頷く。
「お前が生きた世界の記録」
俺は光を見る。
今まで無数の世界が気になった。
だが。
初めてだった。
自分がいた世界を外から見るのは。
「・・・見てもいい?」
管理神は答えなかった。
案内神は嫌な予感を覚えた。
とてつもなく嫌な予感だった。
管理神は光から目を離さない。
そして。
小さく呟いた。
「本来なら見せるべきではない」
案内神は頷いた。
珍しく管理神に同意だった。
だが。
次の言葉で全てが終わった。
「だが」
案内神は頭を抱えた。
「管理者・・・」
管理神は聞いていなかった。
「少し気になるな」
「何が?」
管理神は答えた。
「もしお前が自分の世界を見たら何を思うのか」
沈黙。
案内神は理解した。
終わった。
完全に終わった。
管理神まで好奇心に感染していた。
(第六章 終)




