第40話 同じ方向へ
俺たちは城を出た後、旅館に向かっていた。
道中、相変わらず元気な創造神、街並みを眺める魔王、魔界と人間界について話している影宰と校長、ただ歩く影刃、料理のことを考えている店主。俺は後ろからみんなを見ながら『仲直りできたら、これが日常になるのかな』と思い歩いていた。
旅館ーー
旅館に到着し、外観を見た魔王が呟いた。
「昨日とはまた違った宿だな」
「この国特有の宿なんだ〜」
「おっきいね〜♪」
「じゃあ入ろうか」
みんなで旅館の中へ入る。女将が出迎えてくれた。
「よくお越しくださいました。高木様」
「知り合いなの!?」
創造神が驚いた顔をしていた。
「違うよ〜。予約してたからわかったんじゃないかな?」
「はい。ご予約のお名前を頂戴しておりますので」
女将が笑っていた。
「どうぞこちらへ」
女将が部屋へ案内してくれた。
「靴を脱ぐのか」
「この国の家や旅館では靴を脱ぐのが普通なんだ」
「これも魔界にはない文化ですね」
部屋に着くまでにみんなが気になることを聞いてきた。
部屋に到着し、中へ入る。
「ひろ〜い♪」
「何やら草のような匂いがするな」
「畳の匂いだね。この国独自の床だよ」
「昨日のホテルとは全く別物ですね」
「人間界ではホテルは洋室、旅館は和室なんだ」
「ご飯まで時間があるから少し休もうか」
そう言うとみんな荷物を置いてくつろいだ。
「いいにお〜い♪」
創造神が畳でゴロゴロしていた。
ドンッ
魔王にぶつかった。創造神は慌てて俺の後ろに隠れた。
「創造神、ちゃんと謝らなきゃ」
「・・・ごめんなさい」
「・・・うむ」
魔王はこちらを見ずに、畳を触っている。
『ちょっとは前に進んでいるんだろうか』
俺は少し心配になっていた。
相変わらず影宰が質問してきた。
「この国の建物は木造が多いのですね」
「木材が手に入りやすく、加工しやすかったからだよ」
「火災に弱いのでは?」
「確かに弱いけどそれを上回るメリットがあったんだ」
そこへ校長も参加してきた。
「子供たちにはこの和室というのが良さそうですね。ホテルだと部屋が分かれるので心配です」
「そうだね。もし行く事になったら手伝うよ〜」
答えている間も、創造神は俺の横で小さくなっていた。だが、視線だけはずっと魔王を見ていた。
「お食事の用意ができました。宴会場へお越しください」
俺たちは宴会場へ向かった。
すでに何品か食べられる料理やこれから火をつけて調理する料理が並んでいた。魔王が座る。その向かいに創造神が自分から座った。魔王も気付いた様子だが何も言わなかった。
女将が料理の説明をしているが、すでに店主だけは食べ始めていた。
「鍋は火が消えてからお食べください」
女将は説明が終わり、下がっていった。
「店主よ、女将の説明聞いていたか」
「聞いてました!」
「・・・なら良い」
それぞれが食べ始めた。珍しく創造神は大人しく食べ始めていた。今までは『おいしい♪』と我先に言っていたが、今回だけは違っていた。
「この"刺身"というのは昼に食べた寿司と何が違うのだ」
「あ・・・」
創造神が何か言いかけたが、口を閉じた。
「・・・これは魚本来の味を楽しむ食べ方だよ」
「ほう・・・、創造神よ話したければ話せ」
その言葉を聞いて全員が驚いていた。
店主だけは料理に夢中で気付いていなかった。
「・・・いいの?」
「かまわん、食事とは皆で楽しむ物だろう、好奇神よ」
「・・・そうだね!」
魔王から歩み寄ってくれていた。これまで創造神が守ってきたことが実をつけ始めていた。
その後、食事はいつも通りに戻っていた。店主の暴走を俺と魔王が止め、影宰と校長は質問を投げ、影刃は黙って食べていた。
創造神はいつもより嬉しそうに食べていた。
食後、部屋へ戻ると荷物が片付けられており、布団が敷かれていた。
「わ〜♪」
創造神が布団へ飛び込む。
「ここまでしてくれるのですね」
影宰は少し驚いていた。
「旅館では大体こうだよ。この国の人はおもてなしの心を持っているんだ」
「魔界にも取り入れられるでしょうか」
「俺も詳しくはないけど教えられるところは教えるよ」
「ぜひお願いします」
「これが浴衣というものですか?」
校長が浴衣を広げていた。
「そうだね。旅館に来たら浴衣を着る人が多いよ」
「お風呂の後でみんなで着てみましょうか」
全員が賛成した。
お風呂までの間、三人は"おもてなしの心"について興味深そうに話を聞いていた。
「さて、キリがいいからこの辺で終わりにしてお風呂にしよう」
俺は創造神を呼んだ。
「なに〜?」
「これからお風呂なんだけど、俺は一緒には入れないからね?何か面白いことがあっても手を出さないようにしてね?」
「わかった〜♪」
『本当に大丈夫か?』
創造神以外の全員が同じことを思っていた。そしてみんなで風呂に向かった。
「じゃあ後でね」
「は〜い♪」
創造神と別れ、男風呂に入る。
「ほう、外にも風呂があるのか」
「露天風呂っていうんだ。行ってみる?」
「うむ」
俺たちは体を洗い、露天風呂へ向かった。
「自然を楽しみながらのお風呂ですか。いいですね」
影宰が喋ると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「すご〜い♪外にお風呂だ〜♪」
間違いなく創造神だった。
俺たちは聞こえないふりをした。
「そういえば店主さんの姿が見えないけど、どこ行ったの?」
「あの人なら『ちょっと話を聞いてくる』って言って厨房に向かいましたよ」
校長が静かに答えた。
「あ〜・・・、聞かなかった事にする」
その後露天風呂を堪能し、俺たちは風呂から出た。
全員が浴衣に着替え、外に出る。創造神はすでに出ていたようだ。
「みんなとお揃いだ〜♪」
創造神はお揃いが嬉しかったのか、はしゃいでいた。
「みんなこの中から選んで!」
俺は自動販売機を指差した。中には牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳が入っていた。
俺と魔王、そして影刃がコーヒー牛乳。
影宰と創造神がフルーツ牛乳。
校長が牛乳を選んだ。
「じゃあこうやって飲むんだよ〜♪」
俺は腰に手を当てて飲み始めた。
みんなもそれを見て真似て飲む。
「あま〜い♪」
「まろやかの中にフルーツの爽やかさと甘さがいいですね」
「うまいな」
「・・・うまい」
「これが牛乳というものですか。優しい味ですね」
「やっぱり温泉といったらこれだよね!」
「風呂上がりにこれを飲むのも文化なのか」
「うん!温泉に来たらやる人が多いんだ!」
その後、部屋に戻りくつろいでいた。風呂から戻ってから創造神は落ち着きがなかった。
それをみた校長は
「影宰さん、中庭を見にいきませんか?」
「いいですね」
影宰と校長は中庭を見に部屋を出た。
影刃も2人の後を追いかけるように出て行こうとしていた。
「影刃もどこか行くの?」
「・・・土産」
「そっか♪」
『みんな気を遣ってくれたんだな』
こうして部屋には俺と創造神、魔王の3人になった。
創造神が縁側に座っていた魔王に近付いていく。
「あの・・・、その・・・」
「座れ」
「うん・・・」
「・・・」
静寂が続く。俺は2人に干渉せずに見守っていた。そして魔王が口を開く。
「旅行は楽しいか?」
「うん」
「そうか」
「貴様と話すのは数千年ぶりだ。作られたあの日から、我は貴様のことを恨み続けてきた」
「・・・」
「貴様がしてきた仕打ちを、我は許すことができなかった」
「だが、好奇神が来たあの日から神に対する考えが変わった。このような神もいるのだと知った。そして貴様も以前とは違うようだ」
「我は家族を持ち、好奇神に出会い、このような考えでは家族を幸せにしてやれないと思い始めていた」
「我は争いを望まん。出来るならば神族と親交を深めたいと考えておる」
「貴様はどうだ、創造神」
創造神は真面目に魔王の話を聞いていた。
「昔の私は、魔界とあなたを作ったのも『面白そうだったから』だった」
「でも、この前あなたの話を聞いた時胸が苦しくなった。あなたをこんなにも苦しめてたんだって」
「ごめんなさい。私の身勝手な行動があなたや家族を苦しめたことは無くならないけど、今の私には謝ることしかできない」
「ここまで来れたのも、好奇神が一緒に居てくれたから叶ったこと。私1人じゃ何もできなかった」
「だから好奇神と一緒に、あなたとの関係を取り戻していきたい」
魔王は創造神の話を聞いて、静かに口を開いた。
「貴様が考えていることはわかった。だが、我も魔界の王である以上、簡単に許すわけにはいかない」
「うん・・・」
「時間をかけて魔界と神界の蟠りを解いていけばいい」
「そのためにも好奇神よ、貴様の協力が必要だ」
「協力してくれるか」
「協力する。俺も争いは好まない。仲がいい方が面白いしね」
「相変わらずなやつだ」
「だね♪」
完全には蟠りは解けた訳ではない。お互いが歩み寄った結果、二人が同じ方向を向いて歩き始めた。これからも神界と魔界の仲の橋渡しとして忙しくなるだろう。
読んでいただきありがとうございました!
次回 第41話 笑顔と悲鳴
感想・誤字報告などいただけると励みになります!




