第2章(前編) 最初の観光地
老人は人生の終わりを迎えていた。だが恐れていたのは死ではない。「死後の世界ってどんな所なんだろうな」そんな好奇心を抱いたまま死んだ男の物語。
「起きたか」
知らない声だった。
俺はゆっくり目を開いた。
真っ白だった。
天井もない。
壁もない。
窓もない。
何もない。
病室でもなかった。
「あれ?俺死んだはずなんだけどな」
自分の姿を見る。
「うわ!俺若い時に戻ってるじゃん!」
黒いパーカーに白いシャツ、ジーパンを履いた姿。
「服もあの頃のままだし」
俺は辺りを見回した。
「どこだここ?」
「何も無いなぁ」
後ろを見ると男が立っていた。
年齢は分からない。
若くも見える。
老人にも見える。
不思議な男だった。
男は俺を見て言った。
「ここは死後の世界だ」
俺は固まった。
数秒。
いや。
一秒くらいだったかもしれない。
そして思わず立ち上がった。
「マジで!?」
男が眉をひそめた。
「信じるのか?」
「だって死んだし」
「そうだが」
「じゃあ本物じゃん」
男は黙った。
俺はまた辺りを見回した。
何もない。
本当に何もない。
「なんか想像してた死後の世界と全然違うね」
「死後の世界に何を期待していた」
「もっとこう・・・」
少し考える。
「天国っぽい感じ?」
男はため息をついた。
「ここは入口だ」
「入口?」
「そうだ」
「じゃあ奥があるのか」
男は嫌な予感がした。
何故なら。
目の前の男の目が輝き始めたからだ。
「観光していい?」
「ダメだ」
即答だった。
「え?なんで?」
男は頭を抱えた。
この会話を今後何度もすることになる。
まだ彼は知らなかった。
「まず説明を聞け」
「うん」
「死後の世界には幾つかの領域がある」
「うん」
「死者はここで選別され」
「うん」
「それぞれの場所へ送られる」
「うん」
「分かったか?」
「じゃあ観光に行っていい?」
男は天を仰いだ。
理解した。
あぁ、こいつはダメだ。
「話を聞いていたか?」
「聞いてた」
「理解したか?」
「した」
「なら何故そうなる」
「だって見たいじゃん」
男は初めて理解した。
こいつは説明では満足しない。
実際に見ないと気が済まない。
厄介だ。
非常に厄介だ。
「ところで」
俺は聞いた。
「あんた誰?」
男は少し驚いた顔をした。
「今さらか」
「気になったから」
男は少し考えた。
そして答える。
「神だ」
沈黙。
数秒。
そして俺は頷いた。
「へぇ」
今度は神が固まった。
「それだけか?」
「うん」
「驚かないのか?」
「驚いてるよ」
「そうは見えん」
「それより神の世界ってどんな所?」
神は黙った。
しばらく黙った。
本当にしばらく黙った。
それから小さく呟いた。
「面倒な人間が来たな」
俺は笑った。
「よく言われる」
「だって気になるじゃん。」
「見たことないんだから。」
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(第二章 前編 終)




