第2話 最初の観光地
意識が途切れた俺の精神は、何もない空間に送り出されていた。
肉体が再形成され、意識が再び戻り始める。
「起きたか」
知らない声が聞こえた。俺はゆっくりと目を開ける。
真っ白で天井も床も無い空間。
「あれ?俺死んだはずなんだけどな」
自分の体を触る。肉体がある、意識がある。自分の姿を見ると若い頃の姿に戻っていた。
「うぉ!若い時に戻ってるじゃん!」
「服もあの頃のままだし・・・」
黒いパーカーに白いシャツ、ジーパンを履いた姿。若い頃によく着ていた服だった。
俺は辺りを見回す。
「ここはどこだろう?何も無いなぁ。」
後ろを見ると男が立っていた。年齢はわからない、若くも年老いても見える。不思議な男だった。
男は俺を見て言った。
「ここは死後の世界だ」
俺は固まった。『死後の世界?何言ってんだこいつ。でも確かに俺死んだよな?』
俺は思わず立ち上がった。
「マジで!?」
男は眉をひそめた。
「信じるのか?」
「だって死んだし?」
「そうだが・・・」
「じゃあ本物じゃん」
男は黙った。俺はまた辺りを見回した。
「本当に何も無いねぇ。想像してた死後の世界とは全然違うや」
「死後の世界に何を期待していた」
「そうだなぁ、もっとこう・・・花畑とか暗いとか川とか?」
俺は生きていた時に何かで見た、天国や地獄の絵の事を言っていた。
男はため息をついて言った。
「はぁ・・・、ここは入口だ。死んだ者はここで神から判決を受ける」
「へぇ〜、入口かぁ」
男は嫌な予感がした。目の前の男の表情が変わったからだ。絶望では無い、期待に満ちた顔だ。
「観光してきていい?」
「ダメだ」
即答だった。
「え、なんで?」
「まずは説明を聞け」
「うん」
「死後の世界は幾つかの領域に分けられている。貴様が言っていた、天国や地獄がそうだな」
「死者はここで選別され、それぞれの場所へ送られる。わかったか?」
「わかった。じゃあ観光してきていい?」
男は天を仰いだ。『ダメだ、こいつ話聞かねぇ』、一瞬で理解した。
「貴様はまだ判決されていない、大人しく待っていろ」
「待っている間勿体無いじゃん、判決にどれだけかかるかわからないし」
「話を聞いていただろう、何故そうなる?」
「だって見たいじゃん!」
こいつは説明では満足しない、実際に見ないと気が済まない。非常に厄介だ。
「ところで、あんた誰?」
男は驚いた顔をした。
「今更か」
「そういえば聞いてなかったなって」
男は考えた。
『こいつに神と言っていいのだろうか、言えば確実に興味を持つ、だがそういう他ない』
「神だ」
少しの沈黙、そして俺は呟いた。
「へぇ〜」
今度は神が固まった。
「それだけか?」
「うん」
「驚かないのか?」
「驚いてるよ?」
「そうは見えんが・・・」
「死後の世界の話や判決の話を聞いて、いるだろうなぁと思ってたからね。まさか目の前にいるとは思わなかったけど」
「それよりも、神って事は神の世界もあるよね?どんなところ?」
神は黙った。それから小さく呟いた。
「面倒な人間が来たな」
俺は笑った。
「よく言われる、だって気になるじゃん、見た事ないし」
「お前は、生きていた時からそうなのか?」
「そうだよ〜」
「何故そこまで気になる」
「経験出来るのにしないのは勿体無い、見れるのに見ないのは勿体無い、だから全部見たいし体験したい」
「お前の頭はどうなっているんだ」
「だって気にならない?」
「・・・」
神は答えられなかった。
数兆年神として生きてきた。知識は山ほどある、だが、いつからだろう。そういった事を思わなくなったのは。
「神様」
男が聞いてきた。
「なんだ?」
「神様は全部見たの?」
「いや」
「じゃあ見たいと思わない?」
「必要ないからな」
俺は少し考え、そして。
「もったいないなぁ」
神は固まった。数兆年ぶりにただの人間に価値観を揺さぶられたのは。
だが、不思議と腹は立たなかった。
むしろ、少し面白くなってきた。
「面白いやつが来たな」
「ん?」
「いや、なんでもない」
そういうと神は少し笑った。
読んでいただきありがとうございました!
次回 第3話「観光案内神」
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