第15話 初めての観光
俺は神になった。
……らしい。
「はぁ……」
頭を掻きながら、俺はため息をついた。
まさかあんなにあっさり神になるとは思わなかった。
創造神が「神にしちゃった♪」って指を鳴らした瞬間、光に包まれて……それで終わり。
儀式も試練も何もなかった。
「まぁ……いっか」
少し考えて、俺はすぐに結論を出した。
なってしまったものは仕方ない。
考えても元には戻らないし。
だったら——
「行こう」
俺は笑った。
ずっと、ずっと行きたかった場所がある。
世界管理庫で見た世界を、今度は自分の目と体で確かめたい。
⸻
景色が一瞬で変わった。
目の前に広がっていたのは、果てしなく青い海だった。
「おぉ……」
本物の海。
世界管理庫の映像とは全く違う。
冷たい海水が体を包み、波の揺れ、光の差し込み、全部がリアルだった。
「すげぇ……これだよ。これが見たかったんだ」
俺は嬉しくて思わず笑った。
その時、海底を小さな生き物がゆっくり歩いているのが見えた。
「あっ!」
三葉虫だった。
砂の上を小さな足で這う姿、触角の動き、全部が生きている。
俺は近づいて、じっと観察した。
「こんにちは」
もちろん返事はない。
でも、それだけで十分だった。
「まぁそうだよな」
俺は小さく笑った。
⸻
さらに少し先へ進むと、大きな影が横切った。
「来た!」
アノマロカリスだ。
思ったより大きくて、思ったより速い。
「待てー!」
俺は本気で泳ぎ出した。
アノマロカリスが逃げる。
俺が追いかける。
追いかけっこをしているうちに、気づいたら一緒に泳いでいた。
「すげぇ!」
世界管理庫で見た時から、ずっと夢見ていた光景だった。
本物のアノマロカリスと一緒に海を泳ぐ——
その夢が、今、現実になっていた。
「最高!」
俺は心の底から笑った。
⸻
満足した後、俺は次の時代へ移動した。
今度は少し浅い海。
見覚えのある渦巻き型の殻がたくさん転がっている。
「あった!」
アンモナイトだ。
俺は近づいて、じっくり観察した。
思っていたより普通の貝だった。
「……食べてみるか」
少し悩んだけど、ここまで来たらやるしかない。
俺は一匹捕まえて、口に運んだ。
…………。
「……美味しくない」
生臭くて、硬くて、想像していた味とは全然違った。
「やっぱ焼けば良かったかな……」
少し後悔したけど、それでも笑えてしまった。
三葉虫、アノマロカリス、アンモナイト。
全部、本物だった。
映像でも記録でもなく、本当にそこにあった。
「神になって……良かったかも」
ほんの少しだけ、そう思った。
⸻
満足して神界に戻ると、案内神が驚いた顔で振り向いた。
「ただいま」
「……何か、変わったか?」
「神にされちゃった」
「…………は?」
俺はあっさり説明した。
「創造神が『えいっ』って指鳴らして、パチンって。
それで神になっちゃった」
案内神は固まった。
管理神は静かに目を閉じ、深いため息をついた。
数秒後、案内神が天を仰いで叫んだ。
「創造主様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
神界中に、悲痛な叫び声が響き渡った。
(第十五章 終)
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次回 第16話 初めての縄文
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