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最強の女美人将軍。 ~敵をなぎ倒す~  作者: 百夜


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第五章 襲撃

赤砂平原の風が、血と焦げた肉の臭いを運んでいく。

イレント帝国の誇る『七将天』の一人、エイダ・ケンドル(大将軍)の漆黒の長剣が、ルミナ神国の総司令官であるザカリー(将軍)の首筋にピタリと添えられていた。


「ひ、開くな! 悪魔め! 神よ、我が身に加護をぉぉっ!」

ザカリー(将軍)は狂乱し、手にした金色の杖から目も眩むような「極光の魔術」を放った。それは常人であれば一瞬で灰と化すほどの超高熱の光線だった。しかし、エイダ(大将軍)は微動だにしなかった。彼女の長剣が流れるような軌跡を描き、光の魔術そのものを物理的に両断したのだ。


「なっ……光を、斬っただと!?」

「あなたの神は、無辜の民を虐殺する者に奇跡など与えない。これは、あなたが焼いた帝国の村人たちの怒りよ」


氷のように冷たい宣告とともに、一閃。

ルミナ神国のザカリー(将軍)の首が、美しい弧を描いて宙を舞い、赤砂の上に転がった。彼が縋り付いていた金色の杖もまた、主を失って光を失い、乾いた音を立てて落ちた。


「ザ、ザカリー(将軍)閣下が……討たれた……」

「神の加護が……破られた……!」


絶対的な信仰の対象であった指揮官を失い、さらにガルドリア王国のバルト(将軍)、セイル共和国のオズ(将軍)までもが既に討ち取られているという事実は、死を恐れないはずのルミナ神国の狂信者たちにすら、根源的な「恐怖」を植え付けるのに十分だった。


「敵将、ザカリー(将軍)は討ち取った! 追撃せよ! 一兵たりともこの平原から逃がすな!」

大隊長ロイドの号令が響き渡る。

中隊長グレイ、シルビア、ダグラスらが率いるイレント帝国軍の各部隊は、完全に戦意を喪失して崩壊した三国同盟軍の残党に襲いかかった。


「おらぁっ! 帝国の領民に手を出した報いを受けろ!」

ハンス(曹長)が長剣を振るい、逃げ惑うルミナの二曹を叩き斬る。

その横では、新兵であったルーク(二等兵)が、もはや新兵とは呼べないほどの鋭い動きで槍を繰り出し、敵の三曹を正確に突いた。彼の隣では、カール(軍曹)やテオ(一等兵)、ガイル(上等兵)といった下級兵士たちが見事な連携を見せ、かつては無敵と思われた神殿騎士団を次々と制圧していく。


「よし、そこまでだ! 深追いはするな、陣形を整えろ!」

小隊長トーマスの声が響き、戦闘はようやく終結の時を迎えた。

東部、西部、そしてこの南部。大将軍エイダ・ケンドル率いる軍団は、絶望的な兵力差を覆し、見事に三方面すべての防衛に成功したのである。


平原に勝ち鬨が上がる中、エイダ(大将軍)は剣の血糊を払い、静かに鞘に収めた。

「……終わったわね」


しかし、勝利の余韻に浸る時間は、今回も彼らには与えられなかった。

本陣の天幕に戻り、負傷者の報告を受けていたエイダ(大将軍)のもとに、帝都ヴェルグからの早馬が飛び込んできたのだ。伝令の兵士は全身泥だらけで、今にも倒れそうなほど消耗していた。


「ほ、報告いたしますッ! 帝都ヴェルグより緊急伝令! 三国同盟の『真の主力部隊』が、帝都の目前、ヴェルグ平原に出現しました!」


天幕の中にいた将校たちが、一斉に息を呑んだ。

「真の主力だと!? ばかな、我々が今ここで戦っていた七万の軍勢が主力ではなかったというのか!」

ロイド(大隊長)が血相を変えて伝令に詰め寄る。


「は、はい! ガルドリア、セイル、ルミナの三国が秘密裏に集結させていた連合大軍……その数、およそ十五万! 敵の総大将は、ガルドリア王国の最高司令官、ヴォルデン(大将軍)です! 我々が三方面の国境防衛に戦力を割いている隙を突き、中央の山岳地帯を強行突破して帝都へ直接迫った模様です!」


「ヴォルデン(大将軍)……!」

エイダ(大将軍)の顔色が変わった。

ガルドリア王国のヴォルデン(大将軍)。イレント帝国の七将天に匹敵、あるいは凌駕するとも噂される、三国同盟の事実上の最高指導者である。彼は単なる猛将ではなく、セイル共和国の魔導技術とルミナ神国の信仰魔術を完全に軍隊に組み込んだ、恐るべき戦術家でもあった。


「やられたわね。東のバルガス(将軍)も、西のニナ(大隊長)も、そしてこの南のザカリー(将軍)すらも……すべては私たち七将天を帝都から引き剥がし、戦力を分散させるための壮大な『囮』だったのよ」

エイダ(大将軍)はギリッと唇を噛んだ。


「帝都の防衛戦力は!?」

グレイ(中隊長)が叫ぶ。

「現在、皇帝陛下直属の近衛兵団および、ゼノン(大将軍)閣下、ガザ(大将軍)閣下、リリス(大将軍)閣下の部隊を合わせても、四万に満たないとのことです!」


十五万対四万。

帝都の堅牢な城壁があるとはいえ、セイル共和国の魔導砲を無数に備えたヴォルデン(大将軍)の軍勢の前では、落城は時間の問題であった。


「全軍に告ぐ! 休息は終わりよ!」

エイダ(大将軍)は即座に天幕を出て、血と泥に塗れた兵士たちに向けて叫んだ。

「帝都が危ない! 私たちの真の敵は、ヴォルデン(大将軍)率いる十五万の連合軍よ! これより我々は踵を返し、帝都ヴェルグの救援に向かう!」


兵士たちの間に、絶望的な疲労の色が浮かぶ。

東部から西部、そして南部へと、彼らは既に人間の限界を超える強行軍と激戦を繰り返してきたのだ。立っているだけでも奇跡に近い状態であった。


しかし、エイダ(大将軍)は自らの軍馬に飛び乗り、兵士たちを力強く見渡した。

「辛いのは分かっている! だが、ここで私たちが倒れれば、守るべき家族も、友も、帝国そのものもすべてが灰になる! お前たちは私の誇りだ! 限界を超えたその先にある『奇跡』を、私と一緒に帝都の空に見せてちょうだい!」


「「「おおおおおッ!!」」」

大将軍の言葉は、魔法よりも強く兵士たちの心を打ち、彼らの萎えかけた足に再び炎のような活力を与えた。


出立の直前。

第一歩兵部隊の陣営では、中隊長グレイと小隊長トーマスが兵士たちの前に立っていた。

「ルーク(二等兵)、前へ出ろ」

グレイ(中隊長)に呼ばれ、ルークは緊張した面持ちで進み出た。


「東部、西部、そしてこの南部におけるお前の奮戦、ハンス(曹長)から報告を受けている。敵の三曹を自らの槍で討ち取った功績は大きい。野戦任官となるが、お前を本日付で『一等兵』に昇進させる」

グレイ(中隊長)はそう言うと、新しい階級章をルークの胸に押し当てた。


「あ、ありがとうございますッ!」

ルーク(一等兵)は直立不動で敬礼した。

「よくやったな、ルーク(一等兵)。もう新兵とは呼ばせねぇぜ」

ハンス(曹長)がニヤリと笑い、カール(軍曹)やジャン(一曹)、レン(二曹)たちも、疲労にまみれた顔に笑みを浮かべて祝福した。階級が上がったとはいえ、これからの戦いがさらに過酷になることは全員が理解していた。だが、この小さな昇進が、死地に赴く彼らに確かな絆と誇りを与えていた。


数日後。イレント帝国、帝都ヴェルグ。

堅牢な城壁に囲まれた帝都の目の前に広がる大平原は、見渡す限りの絶望によって埋め尽くされていた。


ガルドリア王国軍の重装歩兵団。

セイル共和国の巨大な魔導機甲と長距離砲撃陣地。

ルミナ神国の白銀の神殿騎士団。

三国の軍旗が風にはためき、十五万の軍勢が完璧な陣形を組んで帝都を完全に包囲していた。


その中央、巨大な移動式司令塔の頂点に座しているのが、三国同盟軍総司令官、ヴォルデン(大将軍)である。

全身をセイル共和国製の特殊魔導合金の鎧で覆い、手にはルミナ神国の教皇から授けられた聖剣を持つ、体長二メートル半に達する初老の巨漢。その双眸は、あらゆる感情を排した冷徹な知性に満ちていた。


「イレント帝国の命運も、今日で尽きる」

ヴォルデン(大将軍)の重々しい声が、魔導拡声器を通じて平原全体に響き渡る。

彼の傍らには、ガルドリアの将軍、セイルの大隊長、ルミナの将軍クラスの指揮官たちがずらりと並び、恭しく首を垂れていた。


「帝都の防衛力は四万。七将天のゼノン(大将軍)、ガザ(大将軍)、リリス(大将軍)が指揮を執っているようだが、絶対的な質と量の差はいかんともしがたい。全砲門、開け。まずはあの忌々しい城壁を塵に変えろ」


ヴォルデン(大将軍)の命令が下ると同時に、セイル共和国軍の数百門の魔導砲が一斉に火を噴いた。

ズドォォォォォンッ!!

空を引き裂くような轟音とともに、無数の熱線と爆発の雨が、帝都ヴェルグの城壁に降り注ぐ。


「結界魔術、最大出力! 城壁を死守しろ!」

城壁の上で指揮を執る七将天の老将、ゼノン(大将軍)が叫ぶ。帝国の魔道士たちが決死の覚悟で防壁を展開するが、十五万の軍勢が放つ圧倒的な火力の前に、結界はガラスのように次々とひび割れていく。


「ちぃっ! 敵は遠距離から一方的に削る気か! ならば俺が出て、敵の砲兵陣地を粉砕してくる!」

剛の者であるガザ(大将軍)が大弓を背負い、自身の重装騎兵部隊を率いて城門を開け放とうとした。


「早まるな、ガザ(大将軍)! 敵の陣形は完璧だ。お前が出れば、待ってましたとばかりに包囲されて終わるぞ!」

リリス(大将軍)が鋭く制止する。


「だが、このままでは城壁がもたん! 皇帝陛下に危険が及ぶ前に、打って出るしかない!」

帝都の守備軍が焦燥に駆られ、まさに絶望の淵に立たされた、その時だった。


パァァァンッ!!

三国同盟軍の最後尾、セイル共和国の魔導砲兵陣地のド真ん中で、突如として巨大な爆発が連続して巻き起こった。


「な、何事だ!?」

ヴォルデン(大将軍)の傍らにいた副官が叫ぶ。


土煙と炎の中から現れたのは、帝国の軍旗を高く掲げ、怒涛の勢いで敵陣の背後から突撃を仕掛ける、二万五千の軍勢だった。

満身創痍でありながら、その闘志は天を衝くほどに燃え上がっている。


「……間に合ったわね」

軍勢の先頭を駆け抜けるのは、漆黒の軍馬に跨る赤髪の戦乙女。

大将軍、エイダ・ケンドル。


「エイダ(大将軍)か! まさか、あの距離をこの短期間で走破してくるとは!」

城壁の上で、ゼノン(大将軍)が驚愕に目を見開く。


「大将軍閣下がお戻りになられたぞぉぉッ!」

帝都の防衛兵たちから、割れんばかりの歓声が上がった。


エイダ(大将軍)はそのままの勢いで、敵の最後尾陣地を蹂躙していく。

「グレイ(中隊長)、第一歩兵部隊は左翼の歩兵を抑えろ! シルビア(中隊長)、右翼の魔導砲を狙撃して無力化! ダグラス(中隊長)、前衛に防馬柵と地雷を展開して本陣の足場を固めなさい!」


矢継ぎ早に下される指示に、帝国軍の将校たちは完璧な連携で応える。

「突撃! 帝都を指差す敵を一人残らず駆逐しろ!」

グレイ(中隊長)の号令の下、トーマス(小隊長)が部隊を率いて突っ込む。


「うおおおおッ! 俺は一等兵だ、もう足は引っ張らねぇ!」

ルーク(一等兵)が槍を構え、セイル共和国の防衛兵を次々と薙ぎ払う。その背後を、ハンス(曹長)やカール(軍曹)、レン(二曹)らが強固にカバーし、部隊は一つの巨大な刃となって敵陣を切り裂いていった。


司令塔の上で、ヴォルデン(大将軍)は初めてその目を細めた。

「ほう……バルガス(将軍)、ニナ(大隊長)、ザカリー(将軍)。三人の指揮官を立て続けに葬ったという帝国の雌獅子か。疲労困憊の軍を率いて、十五万の我が軍に背後から牙を剥くとは。その狂気じみた用兵、褒めてやろう」


ヴォルデン(大将軍)はゆっくりと立ち上がり、手にした聖剣を抜いた。

「だが、戦術を無視した特攻は、ただの暴虎馮河に過ぎん。遊撃隊を反転させよ。エイダ・ケンドル(大将軍)の首を、この場で落とす」


十五万の軍勢の一部が、うねる巨蛇のように反転し、エイダ(大将軍)の軍団を包み込もうと動き始める。

「敵が陣形を変えてきます! 数が多すぎる、このままでは完全に包囲されます!」

ロイド(大隊長)が叫ぶ。


エイダ(大将軍)は馬上で不敵な笑みを浮かべた。

「包囲される前に、敵の頭を叩き潰す! 狙うはヴォルデン(大将軍)の首ただ一つ!」


彼女は愛馬を蹴り、自らが巨大な矢の矢尻となって、敵の密集陣形の中へと単騎で突入していった。

「止めろ! あの赤髪を討ち取れば、我らは英雄だ!」

ガルドリアの小隊長や、ルミナの曹長たちが群がってくるが、エイダ(大将軍)の漆黒の剣は、もはや剣閃すら見えないほどの神速で彼らを薙ぎ払っていく。


(二等兵から這い上がり、幾千もの死線を越えてきた私の剣……ここで止まるわけにはいかない!)


血飛沫が舞い、鋼と鋼が激突する轟音が帝都の空に響き渡る。

エイダ・ケンドル(大将軍)とヴォルデン(大将軍)。

両国の最高戦力同士の激突が、今、帝都ヴェルグの平原を舞台に幕を開けようとしていた。

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