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最強の女美人将軍。 ~敵をなぎ倒す~  作者: 百夜


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第三章 防衛

軍事大国ガルドリア王国の猛将バルガス(将軍)を討ち取り、東部戦線で圧倒的な勝利を収めたイレント帝国軍。しかし、その勝利の余韻に浸る時間は一瞬たりとも与えられなかった。

西の技術大国『セイル共和国』の精鋭部隊が、帝国の国境防衛線を巧妙に迂回し、後方の最重要補給拠点である砦『オルセ』へと迫っていたからである。


オルセ砦が落とされれば、東部に展開するエイダ・ケンドル(大将軍)の軍団は糧食と弾薬を断たれ、完全に孤立無援の窮地に陥る。セイル共和国の狙いは、まさに帝国の生命線を一撃で断ち切ることにあった。


「速度を上げるわよ! 補給拠点を失えば、私たちの勝利はすべて灰になる!」

燃えるような赤髪をなびかせ、漆黒の軍馬を駆るエイダ(大将軍)の声が、強行軍を続ける兵士たちに響き渡る。

ガルドリア戦の疲労が残る中、帝国軍は一睡もせず、西のオルセ砦を目指して泥濘の道をひたすら突き進んでいた。


大隊長ロイドは馬を並べ、険しい表情で報告を口にする。

「閣下、オルセ砦の守備隊からの通信が途絶えました。砦には現在、後方支援を任務とするわずかな手勢しか残っていません。敵の先鋒は、セイル共和国の若き俊英、ニナ(大隊長)率いる『魔導機甲部隊』。計算によれば、我々の到着よりも先に、砦は包囲されている可能性が極めて高いです」


「ニナ(大隊長)……合理主義の塊のような小娘ね」

エイダ(大将軍)は冷徹に呟いた。「彼女なら、砦の守備隊をなぶり殺しにして私をおびき寄せるか、あるいは電撃戦で一気に陥落させるか。どちらにせよ、一刻の猶予もないわ」


その頃、西部のオルセ砦は、すでに濃い硝煙と魔力の残滓に包まれていた。


セイル共和国軍が誇る最新鋭兵器『魔導機甲』——それは、青白く輝く魔力結晶を動力源とし、厚い鉄板の装甲と、一撃で石壁を粉砕する魔導砲を備えた自走式の鋼鉄兵器群であった。地鳴りのような駆動音を響かせ、数条の青い光を放ちながら、魔導機甲の列が砦へと迫る。


「第一班、第二班、砲撃開始。砦の北側外壁の耐久度はすでに限界です。次の斉射で完全に瓦解させなさい」

セイル共和国軍の本陣で、冷徹な指示を出していたのは、ニナ(大隊長)だった。眼鏡の奥の瞳は、戦場をただの「計算式」として捉えているかのように冷ややかだった。彼女はまだ二十代半ばという若さでありながら、徹底したデータ主義と冷酷なまでの効率性で、どの国にも共通する軍の階級制度を瞬く間に駆け上がり、大隊長にまで上り詰めた天才戦術家である。


「はっ! 直ちに!」

ニナ(大隊長)の傍らに控える中隊長ユーリが、素早く無線機に向かって怒鳴る。

「各機、目標、北側外壁! 照準修正、放て!」


ドォォォンッ!!

凄まじい爆音とともに、数条の熱線がオルセ砦の石壁に直撃した。頑強を誇った砦の壁が、まるで乾燥した粘土細工のように脆く崩れ落ち、大量の土煙が舞い上がる。


「壁が破られたぞ! 敵の鉄の化け物が突入してくる!」

崩壊する砦の内側で、イレント帝国軍の防衛隊は完全にパニックに陥っていた。

この砦を守っていたのは、前線から退いた負傷兵や、経験の浅い下級兵士たちが大半だった。


「慌てるな! 隊列を崩すな!」

怒号を上げたのは、守備隊の指揮を執るジャン(一曹)だった。彼は飛来する破片を盾で防ぎながら、必死に部下たちを鼓舞する。

「二曹のレン! 三曹のアル! お前たちはそれぞれの班を率いて、崩れた瓦礫の影に陣取れ! 敵の歩兵が突入してきたら、槍で突き落とせ!」


「了解です、ジャン(一曹)!」

顔を煤で汚したレン(二曹)と、腕に包帯を巻いたアル(三曹)が、それぞれ生き残った兵士たちを引き連れて瓦礫の隙間へと滑り込む。


しかし、セイル共和国軍の進撃は容赦がなかった。魔導機甲の陰から姿を現したのは、共和国軍の精鋭歩兵たちである。

「突撃! 帝国軍の残党を掃討せよ!」

セイル軍の小隊長ブラッドが剣を抜き、自ら先頭に立って崩壊した壁から突入してくる。その後ろには、曹長クリスや軍曹マックスといった歴戦の下士官たちが、鍛え上げられた動きで銃剣を構えて続いていた。


「死ね、帝国の犬どもが!」

セイル軍のギル(上等兵)が、正確な射撃でイレント軍の一等兵を撃ち抜く。さらにハル(一等兵)とトム(二等兵)が、手榴弾を瓦礫の奥へと投げ込んだ。


激しい爆発が巻き起こり、イレント軍の防衛線は一瞬で引き裂かれた。

「ぐわああっ!」

アル(三曹)が爆風に吹き飛ばされ、血を流して倒れる。レン(二曹)も敵の軍曹マックスの銃剣に突かれ、壁際まで押し込まれていた。


「ここまで、か……」

守備隊長であるジャン(一曹)は、包囲してくるセイル軍の圧倒的な物量と、背後にそびえ立つ鋼鉄の魔導機甲を見上げ、絶望に目を閉じた。セイル軍の曹長クリスが、冷酷にジャン(一曹)の胸元へ銃口を向ける。


その時だった。


ヒュオォォォンッ!


戦場に響き渡ったのは、大気を切り裂く、尋常ならざる一筋の風の音。

次の瞬間、ジャン(一曹)の目を狙っていたクリス(曹長)の頭部が、跡形もなく消し飛んだ。遥か彼方からの、超遠距離狙撃。


「何だと!?」

セイル軍の小隊長ブラッドが驚愕して振り返った瞬間、砦の地平線から、土煙を上げて突進してくる漆黒の騎兵集団の姿が視界に飛び込んできた。


その先頭を走るのは、燃えるような赤髪。

大将軍エイダ・ケンドル。


「間に合ったわね。オルセの守備隊、よく持ちこたえてくれたわ!」

エイダ(大将軍)の声が、絶望に沈んでいた砦の中に轟いた。

「全軍、突入! 鋼鉄の人形どもを、すべて鉄屑に変えてやりなさい!」


「おおおおおおおっ!!」

帝国軍の主力部隊が、怒涛の勢いでセイル軍の側面に激突した。

崖の上からは、先ほどの狙撃を放った中隊長シルビア率いる弓兵・狙撃兵部隊が、今度はセイル軍の歩兵たちを次々と正確に射抜いていく。さらに中隊長グレイの第一歩兵部隊が、崩壊した壁へと一斉になだれ込んだ。


「新兵、遅れるな! 敵の歩兵を中へ入れるな!」

ハンス(曹長)が長剣を振るい、突入してきたセイル軍の上等兵ギルを叩き伏せる。

「はいっ!」

前回の戦いで少しだけ逞しくなったルーク(二等兵)が、ハンス(曹長)の背中を守るように槍を突き出し、迫り来る敵の一等兵ハルを突き流した。ルーク(二等兵)の隣では、同じ部隊のカール(軍曹)が「よくやった、ルーク(二等兵)! そのまま押し込め!」と叫び、ガイル(上等兵)やテオ(一等兵)といった同僚たちも、下士官たちの指示のもとで見事な連携を見せていた。


一瞬にして戦況がひっくり返った。

本陣でその光景を見ていたセイル軍のニナ(大隊長)は、初めてその冷静な表情を歪めた。眼鏡の奥の目が、信じられないものを見るように見開かれる。


「……あり得ません。データが間違っている。ガルドリア軍を殲滅した直後のイレント軍が、これほどの短時間でこの距離を移動できるはずがない。人間の行軍速度の限界を、少なくとも三時間は超えている……!」


「ニナ(大隊長)! 敵の第一波によって、我々の前衛小隊が壊滅しつつあります! 敵将、エイダ・ケンドル(大将軍)が自ら前線に出て、魔導機甲を破壊しています!」

中隊長ユーリの悲痛な叫びが響く。


モニターに映し出された映像の中で、エイダ(大将軍)は漆黒の軍馬から飛び降りると、立ち塞がる全高三メートルもの魔導機甲の正面へと躍り出ていた。

機甲が放つ魔導砲の熱線を、彼女は信じられない身のこなしで完全に回避する。そして、機甲が次のエネルギーを充填するわずかな隙を見逃さず、跳躍した。


「いかに硬い装甲を誇ろうとも、動力を循環させる『ライン』は隠しきれていないわよ!」

エイダ(大将軍)の漆黒の長剣が、魔導機甲の関節部に走る、魔力供給用の光るパイプを一撃で切断した。

一瞬の後、機甲の内部の魔力結晶が暴走し、激しい火花を散らして機能停止した。鋼鉄の巨体が、ただの巨大なゴミと化して崩れ落ちる。


「化け物め……!」

セイル軍の小隊長ブラッドが、自ら別の魔導機甲に乗り込み、エイダ(大将軍)を押し潰そうと突進する。しかし、エイダ(大将軍)は冷ややかに微笑むと、今度は機甲の頭部にある照準用ガラスを剣の柄で叩き割り、内部にいたブラッド(小隊長)を引きずり出して一刀の下に斬り捨てた。


「各機、距離を保て! 正面からの接近を許すな!」

セイル軍の三曹レオンや二曹ハインが、恐怖に駆られながら魔導機甲の銃座から連射するが、エイダ(大将軍)の影を捉えることすらできない。それどころか、帝国軍の中隊長ダグラスが率いる工兵部隊が、セイル軍の機甲の足元に特殊な『魔力撹乱地雷』を次々と設置し、その機動力を完全に奪っていった。


「ニナ(大隊長)、これ以上の戦闘は不経済です! 敵の戦術は我々の予測モデルを完全に逸脱しています!」

中隊長ユーリが撤退を進言する。


ニナ(大隊長)は深く歯噛みした。彼女にとって、戦いは緻密な計算の上に成り立つべきものであった。しかし、目の前のエイダ・ケンドルという大将軍は、その圧倒的な個人の武力と、兵士たちの精神力を限界まで引き出すカリスマ性によって、セイルの誇る科学的データをことごとくゴミ箱へと叩き込んでいた。


「……認めざるを得ませんね。これがイレント帝国の『七将天』。数値化できない不確定要素の極みです」

ニナ(大隊長)は冷酷に、しかし迅速に判断を下した。

「全軍、撤退。これ以上の兵力消耗は非合理的です。オルセ砦の攻略を破棄し、本隊と合流します」


「撤退! 撤退せよ!」

ユーリ(中隊長)の命令が下り、セイル共和国軍の残存部隊は、魔導機甲を殿しんがりにしながら、整然と後退を始めた。彼らはガルドリア軍のように崩壊することはなく、撤退の動きさえも極めて統率が取れていた。


「追撃はここまでよ、深追いは禁物」

逃げていくセイル軍の背中を見送りながら、エイダ(大将軍)は剣を収め、追撃を止めさせた。

セイル軍の撤退の速さと陣形の崩れなさは、彼らがまだ牙を残している証拠だった。ここで深追いすれば、今度は逆にニナ(大隊長)の得意とする巧妙な伏兵の罠に嵌められる危険性がある。


「閣下、お見事です。オルセ砦を守り抜きました」

大隊長ロイドが駆け寄り、深く頭を下げる。


砦の内側からは、生き残った守備隊のジャン(一曹)やレン(二曹)たちが、涙を流してエイダ(大将軍)を見上げていた。

「大将軍閣下……感謝いたします。我々のような下級兵のために、まさかこれほどの強行軍で駆けつけてくださるとは……」


エイダ(大将軍)は馬から下りると、傷ついたジャン(一曹)の肩を優しく叩いた。

「二等兵から這い上がってきた私に言わせれば、前線で命を張るあなたたち下士官や兵士こそが、この帝国の本当の盾よ。よく持ちこたえてくれたわ。胸を張りなさい」


その言葉に、ジャン(一曹)だけでなく、周囲にいたルーク(二等兵)やテオ(一等兵)までもが胸を熱くした。この大将軍のためなら、命を投げ出しても惜しくない——兵士たちの心に、より強固な忠誠心が刻まれた瞬間だった。


しかし、西の空が赤く染まる中、エイダ(大将軍)の表情は依然として険しかった。

ガルドリアを破り、セイルを退けた。だが、まだ「三国同盟」の最後の一国が残っている。


「ロイド(大隊長)、南の『ルミナ神国』の動きは?」

エイダ(大将軍)の問いに、ロイド(大隊長)は表情を曇らせ、一通の報告書を差し出した。


「……すでに動いています。ルミナ神国の将軍ザカリー率いる、総勢五万の『神殿騎士団』が、我が帝国の南部国境を突破しました。彼らはセイルやガルドリアとは違い、退却という概念を持たない狂信者の集団です。さらに……」

ロイド(大隊長)は言葉を詰まらせた。


「どうしたの?」


「ルミナ神国の軍勢は、進軍ルート上にある帝国の村々を、異端審問と称して完全に焼き払っているとのことです。兵士だけでなく、一般の領民にまで容赦のない虐殺が行われています」


天幕の中に、激しい怒りの空気が満ちた。

ハンス(曹長)は拳を握りしめ、新兵のルーク(二等兵)もその残虐行為に顔を歪めた。


エイダ・ケンドル(大将軍)の瞳に、これまでにない激しい怒りの炎が灯る。

「神の名を騙り、無辜の民を虐殺する狂信者どもめ……。いいわ、その歪んだ信仰ごと、私の剣で叩き潰してあげる」


東の猛将、西の天才を退けた帝国の戦乙女は、今度は南から迫る、死を恐れぬ狂信の軍勢との、最も凄惨な戦いへと身を投じることになる。

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