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最強の女美人将軍。 ~敵をなぎ倒す~  作者: 百夜


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第二章 戦争

「全軍、攻撃開始かかれ!!」


大将軍エイダ・ケンドルの号令が谷間に響き渡った瞬間、それまで静まり返っていた『嘆きの谷』は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。


崖の上に伏せていた中隊長シルビア率いる弓兵・魔道兵部隊が一斉に姿を現し、容赦のない一斉射撃を浴びせる。

「放てッ! 一矢たりとも無駄にするな!」

シルビア(中隊長)の鋭い声とともに、何千もの矢が雨となって降り注ぎ、同時に魔道兵たちが放つ炎や雷撃の球が、狭い谷底で密集していたガルドリア王国軍の頭上で炸裂した。


「うわあああッ! 敵襲、敵襲だ!」

「上だ! 崖の上から攻撃されているぞ!」


ガルドリア軍の誇る重装歩兵たちは、頑強な全身鎧に身を包んでいた。しかし、それは前方からの物理攻撃に対して無類の防御力を誇るものであり、頭上から降り注ぐ矢の雨や、鎧の隙間を焼き尽くす高熱の魔法に対しては、むしろ機動力を奪う重荷でしかなかった。直撃を受けた兵士たちが次々と泥の中に倒れ込み、後続の兵士たちがそれに躓いて将棋倒しになっていく。


「狼狽えるなッ! 盾を掲げよ! 隊列を崩すな!」

怒号を上げたのは、ガルドリア王国軍の先鋒を率いるバルガス(将軍)であった。身長二メートルを超える巨体に、身の丈ほどもある巨大な戦斧を担いだ彼は、頭上から降ってきた一本の魔道矢を平然と素手で叩き落とし、血走った眼で周囲を睨みつけた。

「小賢しいイレントの狐どもめ、このような見え透いた罠を! 前進だ! 谷を突き抜け、敵の本体を正面から叩き潰せ!」


バルガス(将軍)の圧倒的な威圧感に押され、混乱しかけていたガルドリア兵たちが辛うじて隊列を立て直す。彼らは大盾を頭上に掲げ、強固な亀の甲羅のような陣形テストゥドを組みながら、猛然と谷の出口へと突き進み始めた。流石は軍事大国ガルドリアの精鋭、その統率力と前進への執念は凄まじいものがあった。


その光景を谷の出口付近の本陣から見届けていた大隊長ロイドは、表情を険しくした。

「流石はバルガス(将軍)の私兵たち。これほどの奇襲を受けてなお、壊滅せずに前進してくるとは。閣下、いかがなさいますか?」


エイダ(大将軍)は軍馬の背に跨ったまま、冷徹な目で敵の進軍速度を測っていた。

「慌てることはないわ、ロイド。すべては想定の範囲内よ。ダグラスの準備は終わっているかしら?」


「はっ、すでに完了しております」

ロイド(大隊長)が答えると同時に、谷の出口に陣を敷いていた老将ダグラス(中隊長)が、自らの工兵部隊に向けて手を挙げた。


「よし、小僧ども! 頃合いだ、縄を引けぃ!」

ダグラス(中隊長)の合図とともに、工兵たちが一斉に太い木綱を引く。

次の瞬間、前進を続けていたガルドリア軍の足元の地面が、凄まじい音を立てて崩れ落ちた。ダグラス(中隊長)があらかじめ仕掛けていた、大規模な落とし穴と地盤沈下の罠である。


「な、なんだと!?」

先頭を走っていた数百人の重装歩兵たちが、底に無数の鋭い木杭が植えられた巨大な奈落へと次々に転落していった。さらに、落とし穴の直後には、何重にも組み合わされた頑強な防馬柵と、鉄棘が植えられた障壁がそびえ立っている。


「突撃が止まったぞ! 今だ、叩け!」

罠によって完璧に足止めを食らい、密集して動きが取れなくなったガルドリア軍に対し、シルビア(中隊長)の部隊がさらに激しい追撃を浴びせる。谷底は、倒れた兵士の血で赤く染まり始めていた。


一方、その少し後方。イレント帝国軍の第一歩兵部隊の陣中では、新兵のルーク(二等兵)が盾を握りしめ、歯をガチガチと鳴らせていた。彼の目の前には、凄まじい怒号と、肉が裂け骨が砕ける音が渦巻く、本物の戦場が広がっていた。

訓練学校での模擬戦とは何もかもが違う。漂ってくるのは、焦げた肉の臭いと、強烈な血の生臭さだ。


「おい、ルーク(二等兵)! 腰が引けてるぞ! 武器をしっかり構えろ!」

隣に立つベテランのハンス(曹長)が、ルーク(二等兵)の背中を強く叩いた。

「罠が効いているとはいえ、敵はあのガルドリアの化け物どもだ。ここを突破されれば、次はお前が肉片になる番だぞ!」


「は、はい! ハンス(曹長)!」

ルーク(二等兵)は必死で槍を構え直したが、膝の震えは止まらない。


その時、谷の奥から咆哮のような声が響き渡った。

「退くなぁぁぁッ! この程度の障害、我が斧で粉砕してくれるわ!」

バルガス(将軍)だった。彼は自ら最前線に飛び出すと、目の前に立ちはだかる頑強な防馬柵に向かって、巨大な戦斧を振り下ろした。

凄まじい破壊音が響き、大人が数人がかりで設置した太い丸太の柵が、まるで乾燥した小枝のように一撃で粉砕された。さらにバルガス(将軍)は、近くにいたイレント軍の防衛兵を、鎧ごと真っ二つに叩き斬った。


「ヒッ……化け物だ……」

ルーク(二等兵)の目に見えたのは、返り血を全身に浴びて鬼神のごとく吼える、ガルドリアの猛将の姿だった。バルガス(将軍)の尋常ならざる突破力に呼応するように、ガルドリア兵たちも再び息を吹き返し、防衛線を押し上げ始める。


「中隊長! 敵の先鋒、バルガス(将軍)が防馬柵を突破! 防衛線が持ちません!」

第一歩兵部隊の伝令が、中隊長グレイに叫んだ。

グレイ(中隊長)は顔をしかめ、自ら腰の長剣を抜いた。

「チッ、あの筋肉ダルマめ、本当に人間の枠を外れてやがる。トーマス(小隊長)! お前の小隊を率いてバルガスの側面に回れ! 動きを少しでも止めろ!」


「了解です、中隊長! おい、お前ら俺に続け!」

先ほど敵を誘い出す大役を果たしたばかりのトーマス(小隊長)が、再び勇敢に叫び、数十人の兵を引き連れてバルガス(将軍)の側面へと突撃した。

「ガルドリアの将軍! お前の相手は俺たちだ!」

トーマス(小隊長)が鋭い突きを放つ。しかし、バルガス(将軍)はそれを視線すら向けずに戦斧の柄で弾き飛ばし、そのまま流れるような動作で斧を横になぎ払った。


「ぐふっ!?」

凄まじい衝撃を受け、トーマス(小隊長)は数メートルも吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。辛うじて命は取り留めたものの、立ち上がることができない。

「小蝿どもが、群がるなッ!」

バルガス(将軍)の戦斧が、今度は動けないトーマス(小隊長)の頭上へと振り下ろされようとした。


「トーマス(小隊長)!」

グレイ(中隊長)が叫ぶが、距離がありすぎて間に合わない。ハンス(曹長)もルーク(二等兵)も、その圧倒的な武威の前に体がすくんで動けなかった。


その時——。


キィィィンッ!!


金属同士が激突する、鼓膜を揺さぶるような高い音が戦場に響き渡った。

バルガス(将軍)の巨大な戦斧を受け止めていたのは、一本の美しい漆黒の長剣だった。それを片手で平然と支えているのは、燃えるような赤髪の女性。


大将軍エイダ・ケンドルであった。


「が、閣下……!」

地面に倒れていたトーマス(小隊長)が、息を呑む。

エイダ(大将軍)はいつの間にか愛馬を下り、最前線へと身を投じていたのだ。彼女の細い腕のどこにそんな筋力があるのか、バルガス(将軍)の渾身の一撃を、微動だにせず受け止めていた。


「ほう……お前がイレントの『七将天』、エイダ・ケンドル(大将軍)か」

バルガス(将軍)はニヤリと醜悪な笑みを浮かべ、斧にさらに力を込めた。

「女の身で大将軍にまで上り詰めたというから、どんな化け物かと思えば、随分と華奢な小娘ではないか。俺の斧の錆にしてくれる!」


エイダ(大将軍)は、バルガス(将軍)の凄まじい怪圧を前にしても、眉一つ動かさなかった。それどころか、その冷徹な瞳に微かな蔑みの色を浮かべた。

「大言壮語は、私を倒してから言うことね。ガルドリアの猪将。あなたの戦術は単調で退屈だわ」


「何だとッ!?」

激昂したバルガス(将軍)が斧を引き、凄まじい速度で横一文字に薙ぎ払う。空気を切り裂く風圧だけで、周囲の兵士たちがよろめくほどの一撃。

しかし、エイダ(大将軍)はそれを紙一重の動作で後ろに跳んでかわした。斧の刃先が彼女の髪をかすめる。


「死ねぃ!」

バルガス(将軍)は休むことなく、上段からの叩きつけ、斜めからの斬り上げと、連続で猛攻を仕掛ける。そのたびに、戦場に破壊の嵐が巻き起こった。地面はえぐれ、飛び散る土塊が兵士たちの顔を打つ。


新兵のルーク(二等兵)は、ただただ圧倒されていた。

「速すぎる……あんな巨体なのに、なんて動きだ……。大将軍閣下でも、あれを受け続けるのは……」

「馬鹿言え、ルーク(二等兵)。よく見てみろ」

ハンス(曹長)の声は、先ほどまでの緊張が嘘のように落ち着いていた。


ルーク(二等兵)が目を凝らすと、確かに奇妙なことに気づいた。

バルガス(将軍)の攻撃は激しく、圧倒的に見える。しかし、エイダ(大将軍)はそれをすべて、最小限の動きで完璧に見切って回避していた。彼女の漆黒の軍服には、泥一つついた形跡がない。まるで、敵の攻撃がどこに来るのか、最初からすべて知っているかのような軽やかなステップだった。


エイダ(大将軍)は、二等兵から曹長、小隊長、中隊長、大隊長、そして将軍を経て大将軍へと、その実力のみで叩き上げてきた本物の武人である。戦場におけるあらゆる状況、あらゆるタイプの武人の動きを、彼女はその肉体に叩き込んできたのだ。バルガス(将軍)のような「力任せの豪傑」など、彼女にとっては過去に何度も葬ってきた、ありふれた敵の一人に過ぎなかった。


「どうした、もう終わりかしら?」

エイダ(大将軍)が冷ややかに言い放つ。


「チョコマカと逃げ回りおって! 正面から受け答えんかぁぁ!」

息を荒くしたバルガス(将軍)が、自身の全筋力を爆発させ、この日最大の一撃を上段から振り下ろした。完全に防御を捨てた、一撃必殺の構え。


エイダ(大将軍)の目が、鋭く輝いた。

「そこよ」


彼女は今度は避けなかった。一歩前に踏み込み、バルガス(将軍)の懐へと潜り込む。

振り下ろされる戦斧の軌道に対し、自身の長剣を斜めに滑らせるように接触させた。真っ向から受けるのではなく、敵の破壊力を受け流し、軌道を逸らす技——『無刀流むとうりゅう弾弾だんだん』。


ガキィィン! と重い音が響き、バルガス(将軍)の戦斧はエイダ(大将軍)のすぐ横の地面に深く突き刺さった。全力を込めていたバルガス(将軍)は、過度な前傾姿勢となり、完全に体勢を崩した。無防備な首筋が、エイダ(大将軍)の目の前に晒される。


「しまっ——」

バルガス(将軍)の目が、恐怖に見開かれた。


「帝国軍の階級を、力だけで上がってきたと思わないことね」

エイダ(大将軍)の声は、氷のように冷たかった。

流れるような一連の動作で、彼女の漆黒の剣が閃いた。


鋭い一閃。

空間を切り裂くような美しい軌跡を残し、エイダ(大将軍)はバルガス(将軍)の背後へと通り抜けていた。彼女は剣についた血を、静かに一振りして鞘に収める。


一瞬の静寂の後。

ガルドリア王国の猛将バルガス(将軍)の巨体が、どさりと音を立てて地面に崩れ落ちた。その首からは大量の鮮血が噴き出し、泥を赤く染めていく。彼自慢の戦斧は、主を失って虚しく地面に突き刺さったままだった。


「バルガス(将軍)閣下が……やられた……?」

「嘘だろ……あの化け物が、一撃で……」


指揮官を失ったガルドリア王国軍に、爆発的な動揺が広がった。彼らの拠り所であった最強の盾、最強の矛が、目の前の赤髪の女性によってあまりにも容易く粉砕されたのだ。戦意は一瞬にして消え去り、絶望が彼らを支配した。


エイダ(大将軍)は反転し、自軍の兵士たちに向かって剣を高く掲げた。

「敵将、バルガス(将軍)! このエイダ・ケンドルが討ち取った! イレントの戦士たちよ、今こそ勝利の時だ! 敵を一人たりとも生きて帰すな! 突撃ィィッ!!」


「「「おおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」


帝国軍の兵士たちから、地鳴りのような歓声が上がった。

「中隊続けぇッ! 敵を殲滅しろ!」とグレイ(中隊長)が叫び、ロイド(大隊長)の率いる本隊が怒涛の勢いで谷底へと雪崩れ込む。


新兵のルーク(二等兵)も、先ほどまでの恐怖を完全に忘れていた。胸の奥から湧き上がる熱い衝動に突き動かされ、彼は槍を強く握りしめて叫んだ。

「うおおおっ! 帝国万歳! エイダ閣下万歳!」

「よし、その意気だ新兵! 俺たちも続くぞ!」

ハンス(曹長)が笑い、二人は敗走を始めたガルドリア兵の背中に向かって突撃していった。


それは、もはや戦闘ではなく一方的な掃討戦であった。

狭い『嘆きの谷』に閉じ込められ、指揮系統を失ったガルドリア王国の精鋭三万は、数の上では勝っていたはずのイレント帝国軍一万五千によって、徹底的に叩き潰された。這々の体で河の向こうへと逃げ延びることができたのは、僅か数千に過ぎなかったという。


夕暮れ時。

戦場には、勝利を祝うイレント軍の歓声と、傷ついた敵兵の呻き声が満ちていた。

エイダ(大将軍)は、本陣の天幕でロイド(大隊長)やグレイ(中隊長)たちから被害の報告を受けていた。


「我が軍の損害は極めて軽微。戦死者数百に対し、敵の殺傷数は二万を超えます。東部戦線におけるガルドリア王国の驚異は、完全に排除されたと言ってよいでしょう」

ロイド(大隊長)が誇らしげに報告する。


「よくやってくれたわ、皆のおかげよ」

エイダ(大将軍)が労いの言葉をかけると、将校たちは一様に恐縮した。彼らは知っていた。この圧倒的な勝利は、地形を完璧に利用した作戦と、何よりもエイダ(大将軍)自身が敵将を討ち取ったあの「武」があったからこそ成し遂げられたのだと。


しかし、エイダ(大将軍)の表情は晴れなかった。彼女は机の上の地図に視線を落とした。

ガルドリア王国の駒は取り除かれたが、まだ二つの巨大な影が残っている。


「閣下、何か懸念でも?」

グレイ(中隊長)が尋ねる。


「ガルドリアの動きが止まった今、他の二国がどう動くかよ。特に、西の『セイル共和国』。彼らは合理性を重んじる国。ガルドリアが敗北したという報を聞けば、正面突破を諦め、より狡猾な手段に出てくるはずだわ」


エイダ(大将軍)の予想は、不吉なほど正確だった。

その時、天幕のカーテンが勢いよく開け放たれ、息を切らせた伝令兵が飛び込んできた。その顔は蒼白だった。


「ほ、報告します! 西部国境を守備する我が軍の第三大隊が、セイル共和国軍の奇襲を受け、壊滅的打撃を受けました! 敵の先鋒は、ニナ(大隊長)率いる新鋭の『魔導機甲部隊』! 彼らは国境の防衛線を迂回し、我が軍の補給拠点である拠点『オルセ』へと向かって猛スピードで進撃中とのことです!」


天幕の中に、緊張が走る。

「何だと!? 補給拠点が落とされれば、我々はこの東部戦線で孤立するぞ!」

ロイド(大隊長)が声を荒げた。


技術大国セイル共和国。彼らはガルドリアのような力押しではなく、高度な機械化兵器と、緻密に計算された機動戦術を得意とする。敵の指揮官であるニナ(大隊長)は、若くして大隊長に抜擢された、戦術の天才と噂される人物だった。


エイダ・ケンドル(大将軍)は、ゆっくりと立ち上がった。その瞳に、再び戦いの日が灯る。

「ガルドリアの次は、セイル共和国ね。いいわ、機械人形どもの思い通りにはさせない。全軍、休息はここまでよ。直ちに西へ向けて転進するわ!」


東部での勝利の余韻に浸る間もなく、エイダ(大将軍)とイレント帝国軍は、さらなる強敵が待ち受ける次なる戦場へと、その歩みを進めるのであった。

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