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最強の女美人将軍。 ~敵をなぎ倒す~  作者: 百夜


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第一章 開戦

イレント帝国、帝都ヴェルグ。

重厚な石造りの宮殿の奥深くにある「円卓の軍議場」には、張り詰めた空気が漂っていた。巨大な大陸地図が広げられた円卓を囲むのは、帝国の最高戦力たる『七将天しちしょうてん』の面々である。


その中に、一人の女性が立っていた。

エイダ・ケンドル(大将軍)。

燃えるような赤髪を後ろで無造作に束ね、歴戦の傷跡が刻まれた漆黒の軍服を身に纏う彼女は、イレント帝国軍の頂点に立つ七人の大将軍の一人である。彼女の双眸は、地図上に置かれた無数の敵陣を示す駒を鋭く見据えていた。


「報告を続けよ」


円卓の上座から、帝国軍総司令官である皇帝の低い声が響く。それを受け、伝令役である若い兵士が一歩前に出た。


「はっ! 偵察部隊のレイル(曹長)からの急報によりますと、東部国境のオルバン河を、軍事大国『ガルドリア王国』の先陣が渡河を開始したとのことです。敵指揮官はガルドリアの猛将として名高いバルガス(将軍)。兵数は推定三万!」


伝令の声が震えているのは、無理もなかった。帝国は今、未曾有の危機に瀕しているのだ。

ガルドリア王国だけではない。西からは機械化技術に優れる『セイル共和国』が、南からは宗教的熱狂で知られる『ルミナ神国』が、同時に侵攻の準備を進めている。三国は「反イレント同盟」を結び、帝国の分割統治を企んでいた。


「ガルドリアのバルガス(将軍)か……。あのイノシシめ、真っ先に食いついてきたな」

七将天の一人である隻眼の男が、皮肉げに鼻を鳴らした。


「西のセイル共和国の動きはどうなっている?」

エイダが静かに、しかしよく通る声で問う。


情報局から出向している将校が、素早く資料をめくった。

「セイル共和国軍は、国境付近に集結中ですが、まだ本格的な進軍は見られません。敵の先鋒指揮官は若き俊英と名高いニナ(大隊長)であると確認されています。また、南のルミナ神国も、ザカリー(将軍)率いる神殿騎士団が祈祷の儀式を終え次第、進軍を開始する模様です」


「つまり、三方面同時侵攻の構えを見せつつも、まずはガルドリア王国が東から突破口を開こうとしているわけね」

エイダは地図上の東部戦線を指差した。

「オルバン河を越えられれば、帝都までは平野部が続く。防衛には極めて不利。水際で叩き潰す以外に選択肢はないわ」


「しかし、敵は三万。我が軍の東部方面の駐留部隊は、各拠点に分散している。すぐに対応できるのは五千にも満たないぞ」

別の七将天が懸念を口にする。


エイダは不敵に微笑んだ。

「私が直属の軍団を率いて向かうわ。皇帝陛下、東部戦線の指揮権を私に。バルガス(将軍)の首、必ずや玉座の前に持ち帰りましょう」


皇帝はエイダの自信に満ちた目を見つめ返し、深く頷いた。

「よかろう。エイダ・ケンドル(大将軍)よ、東部の防衛を命ずる。帝国の剣としての矜持を見せよ」

「御意」


軍議が終わると、エイダは直ちに自身の軍団の駐屯地へと馬を走らせた。

駐屯地では、出陣の命令を受けた兵士たちが慌ただしく準備を進めていた。武器の手入れをする者、弾薬を運ぶ者、馬の世話をする者。その中を、エイダは颯爽と歩いていく。


「大将軍閣下!」

エイダの姿を認め、一人の男が駆け寄ってきた。彼女の右腕であり、最も信頼する副官のロイド(大隊長)である。


「ロイド、状況は?」

「はっ。各部隊に出立の準備を急がせております。現在、第一から第五までの全中隊の編成が完了。各小隊への弾薬支給も完了しつつあります」

「上出来よ。前線の駐留部隊と合流する前に、先行して騎兵部隊を出してちょうだい」

「承知いたしました」


エイダが陣幕に入ると、そこにはすでに彼女の軍団の中核を担う将校たちが集まっていた。歴戦の猛者である三人の男たち——第一歩兵部隊を率いるグレイ(中隊長)、弓兵・狙撃部隊を束ねるシルビア(中隊長)、そして後方支援と工兵を担当する歴戦の老兵、ダグラス(中隊長)である。


「よく集まってくれたわね」

エイダは簡潔に地図を広げた。

「敵はガルドリア王国のバルガス(将軍)。兵数は三万。こちらは私の直属軍団一万と、現地で合流する五千を合わせて一万五千。数の上では劣勢よ」


「バルガス(将軍)といえば、重装歩兵を中心とした力押しの戦術を得意とする男ですな。正面からぶつかれば、こちらの被害も甚大になりますぞ」

ダグラス(中隊長)が顎髭を撫でながら言った。


「その通りよ。だから正面からはぶつからない」

エイダはオルバン河の西側に広がる丘陵地帯を指した。

「敵は河を渡り切った後、必ずこの『嘆きの谷』と呼ばれる渓谷地帯を通る。ここで待ち伏せるわ」


「しかし閣下、谷での伏兵は定石とはいえ、敵も警戒するはず。バルガス(将軍)は猪突猛進に見えて、索敵を怠るような無能ではありません」

シルビア(中隊長)が冷静に指摘する。


「ええ。だから『餌』を撒くの。グレイ(中隊長)、あなたの部隊から機動力のある者を少数選抜し、渡河直後の敵陣を挑発させなさい。相手の指揮官を激昂させ、谷へとおびき寄せるのよ」


「承知しました。適任の部下を知っています。血の気の多いトーマス(小隊長)に任せましょう。あいつなら、見事に敵を怒らせて逃げ帰ってくるはずです」

グレイ(中隊長)がニヤリと笑う。


「頼んだわ。全軍、明朝出立する。帝国を舐めた愚か者どもに、私たちの力を見せつけてやりなさい!」


翌朝。

朝霧が立ち込める中、エイダ・ケンドル(大将軍)率いる軍団は帝都を出発した。

整然と行軍する隊列の中には、緊張の面持ちで槍を握る新兵のルーク(二等兵)の姿もあった。彼は幾度も躓きそうになりながら、前の兵士の背中を必死に追っている。


「おい新兵! 足元ばかり見てないで周りを見ろ! ここから先はいつ敵の斥候が現れてもおかしくないんだぞ!」

彼を怒鳴りつけたのは、ベテランのハンス(曹長)だった。


「は、はいっ!」

ルーク(二等兵)が慌てて顔を上げると、隊列の遥か前方に、漆黒の軍馬に跨るエイダ(大将軍)の背中が見えた。その威風堂々たる姿は、不安に怯える兵士たちの心に強烈な安心感を与えていた。


「見ろ、新兵。あれが我らが大将軍閣下だ。七将天に名を連ねる本物の英雄さ。閣下の指示通りに動いていれば、俺たちは絶対に死なねぇ。だからしっかりついてこい!」

ハンス(曹長)の言葉に、ルーク(二等兵)は力強く頷いた。


軍団は三日三晩の強行軍の末、決戦の地である『嘆きの谷』へと到達した。

谷の両側には険しい崖がそびえ立ち、中央には細い一本道が続いている。エイダはすぐさま部隊を展開させた。


「シルビア(中隊長)、崖の上に弓兵と魔道兵を配置。ダグラス(中隊長)は谷の出口に防馬柵と落とし穴の設置を急がせて。ロイド(大隊長)は主力を率いて私の後ろに控えなさい」

矢継ぎ早に指示を出すエイダの目は、すでに戦場全体を見渡していた。


数時間後。

遠くから、地鳴りのような行軍の音が響いてきた。

ガルドリア王国の軍勢である。先頭には、巨大な戦斧を担いだ巨漢の姿があった。敵将、バルガス(将軍)である。その後ろには、グレイ(中隊長)の配下であるトーマス(小隊長)の決死の挑発部隊が、土煙を上げて谷の方へと逃げ込んできている。


「小賢しい蝿どもめ! 逃がすな、谷の奥まで追い詰めろ!」

バルガス(将軍)の怒号が響き渡り、ガルドリアの重装歩兵たちが一斉に谷へと雪崩れ込んでくる。


崖の上からその光景を見下ろしていたエイダ・ケンドル(大将軍)は、自らの剣をゆっくりと引き抜いた。

刃が陽光を反射し、鋭く煌めく。


「さあ、ガルドリアの猛将殿。帝国の戦乙女が、最高の地獄をプレゼントしてあげるわ」

エイダは剣を高く掲げ、そして、力強く振り下ろした。


「全軍、攻撃開始かかれ!!」


谷底に、無数の矢と魔法が降り注ぐ。

反イレント同盟との長きにわたる激戦が、今まさに幕を開けたのであった。

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