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性格最悪勇者の逃亡記 ~気づけば賢王と王国が壊れていました~  作者: 雪だるま


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8 女神の救済

 翌朝。


 盗賊団《黒犬団》のアジト。


 洞窟の中は朝から騒がしかった。


「おい勇者起きろ!!」


「水汲み行け!!」


「朝飯の皿洗え!!」


「のだぁああああ!!」


 レイは毛布に包まったまま転がっていた。


「嫌なのだぁああ!!吾輩は勇者なのだぁ!!」


「だから何だ!!」


「偉いのだぁ!!」


「働け!!」


 正論である。


 しかも。


 昨日の落書きがまだ少し残っていた。


 頬のヒゲが消えていない。


 かなり情けなかった。


「のだぁ……」


 レイは泣きそうな顔で頬を擦る。


「吾輩のお顔がぁ……」


 その時。


 洞窟の奥。


 誰にも見えない場所で、淡い光が揺れた。


 女神エリシアである。


 彼女は静かに腕を組んでいた。


「……見てられないわね」


 別に同情しているわけではない。


 ただ。


 この男。


 放っておくと本当に盗賊団の雑用係として定着しかねなかった。


 それはそれで女神としてどうなのかと思ったのである。


 すると。


 レイが不貞腐れながら呟く。


「のだぁ……吾輩、もう帰りたいのだぁ……」


「自業自得でしょう」


「のだっ」


 レイがピクリと反応した。


「女神ぃ?」


「ええ」


 エリシアは姿を現した。


 朝日みたいな淡い光。


 神々しい美貌。


 なのに。


 目だけが完全に疲れていた。


「また来たのだぁ♡」


「……あなた、本当に懲りないわね」


「助けに来たのだぁ?」


「条件付きよ」


「のだぁ?」


 レイは首を傾げる。


 エリシアは静かに言った。


「ここから出してあげてもいいわ」


「のだっ♡」


「その代わり」


 女神の目が細くなる。


「しばらくは真面目に魔物退治をしなさい」


「……」


 レイは露骨に嫌そうな顔をした。


「嫌なのだぁ」


「却下」


「面倒なのだぁ」


「却下」


「危ないのだぁ」


「却下」


「疲れるのだぁ」


「却下」


 全部潰された。


 レイはむぅぅっと頬を膨らませた。


「のだぁ……」


 完全に不貞腐れている。


「そもそもなのだぁ」


 レイは毛布を引っ張りながら言った。


「吾輩、勇者なのだぁ。つまり偉いのだぁ。雑魚魔物退治なんて下僕の仕事なのだぁ」


「その結果、盗賊に捕まっているのでしょう?」


「のだっ」


 即死だった。


 レイは固まる。


 女神は静かに続けた。


「アレンたちは今も働いているわ」


「のだぁ……」


「ミーナも、ルナも、ガドックも」


「……」


「あなた一人だけ、盗賊の洞窟で泣いているのよ」


「のだぁああああ!!」


 レイは床を転がった。


「比較するななのだぁああ!!」


「現実よ」


「酷いのだぁ!!」


 エリシアは深くため息をつく。


「……本当に子供ね」


「のだっ♡」


 なぜかちょっと誇らしげだった。


 だが。


 数秒後。


「……助けてくれるのだぁ?」


「条件を守るなら」


「のだぁ……」


 レイは悩み始めた。


 珍しかった。


 だが。


 理由は崇高なものではない。


「……ここ最近ご飯が不味いのだぁ……」


「そこなの?」


「盗賊ども、肉をケチるのだぁ……」


 エリシアは頭を押さえた。


 すると。


 レイが急に顔を上げた。


「のだっ♡」


 何か閃いた顔だった。


「しょうがないのだぁ」


 偉そうに腕を組む。


「助けさせてやるのだぁ♡」


「……」


「ほれ! 早くこの洞窟から出してなのだぁ!」


 女神の額に青筋が浮いた。


「……あなたねぇ」


「のだっ♡」


「立場を理解してる?」


「勇者なのだっ♡」


「捕虜でしょうが」


「……のだぁ?」


 本気で理解していなかった。


 エリシアは数秒黙る。


 そして。


「……はぁ」


 結局折れた。


 淡い光が広がる。


 すると。


 レイの縄がスルスルほどけ始めた。


「のだっ!?」


 レイが目を輝かせる。


「女神ぃ♡」


「静かにしなさい」


「すごいのだぁ♡」


「当然よ」


「便利なのだぁ♡」


「便利扱いをやめなさい」


 その時。


 外から盗賊の声。


「おーい勇者ぁ! 水汲み――」


 洞窟へ入ってきた盗賊が固まった。


「……は?」


 そこには。


 縄が解けたレイ。


 そして。


 神々しい女。


「……」


「……」


「……女神?」


 次の瞬間。


 盗賊は青ざめた。


「ひっ」


 当然である。


 エリシアは静かに微笑んだ。


 その笑顔は綺麗だった。


 綺麗だったが。


 妙に圧があった。


「この子を返してもらうわね」


「こっ、子!?」


 レイが不満そうに叫ぶ。


「吾輩は勇者なのだぁ!」


「はいはい」


「大人なのだぁ!」


「昨日泣いていたでしょう」


「のだぁっ!?」


 盗賊は混乱していた。


 だが。


 女神から溢れる神気を前に逆らえるわけがない。


「す、すみませんでした!!」


「もうしません!!」


「勇者様持って帰ってください!!」


「返品みたいに言うななのだぁ!!」


 レイは叫んだ。


 しかし。


 盗賊たちは本気でホッとしていた。


「助かった……」


「あの勇者うるさすぎた……」


「飯代かかるし……」


「夜泣くし……」


「のだぁああああ!!」


 完全に迷惑客扱いだった。


 そして。


 女神はレイの襟首を掴む。


「行くわよ」


「のだぁ!? 待つのだぁ!」


「何」


「勇者石の在庫があるのだぁ!」


「置いていきなさい」


「嫌なのだぁあああ!!」


 結局。


 レイは石入り袋を抱えながら洞窟を出ることになった。


 朝日が眩しい。


 久々の外。


 レイは大きく伸びをする。


「のだぁ〜〜……自由なのだぁ♡」


 だが。


 女神は横で冷静に言った。


「今日から働いてもらうわよ」


「のだぁ……」


 レイは一瞬でしょんぼりした。


「魔物退治ぃ……」


「約束でしょう」


「……サボっちゃ駄目なのだぁ?」


「駄目」


「のだぁああああ!!」


 こうして。


 終わった勇者レイは。


 女神監視付きで半強制的に社会復帰させられることになった。

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